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462.マティウスさんとクリスさん
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「まあ、俺達のお気に入りの店については、中に入ってからゆっくり話しましょうか?」
「ああ酒場以外にも気に入ってる店はあるしな」
「トライプールのお気に入りのお店だったら、俺達も行けるよね」
「そうだな、二人で一緒に回ってみようか」
そんな事を話しながら一際目を惹く鮮やかな赤色をしたドアへと近づいていくと、前触れも無く不意にそのドアが内側から開いた。
もし先頭にいたのが俺だったら反応できなかったかもしれないけれど、一番前にいたカーディは慌てる様子もなくひょいっと軽やかにドアを避けてみせた。ドアが開くって気づいてたんだろうか。
「本日はご来店、ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとう。また来ますね」
「今日も美味しかったです」
開いたままのドアからはそんなやりとりが聞こえてきたから、ちょうど帰るお客さんがいたみたいだ。仲のよさそうな客の二人組は、俺達に気づくとニコリと笑顔を見せてから俺達の前を通り過ぎて夜の街へと消えていった。
「おや、お客様ですか?いらっしゃいませ」
見送りに出てきた店員らしきおじさんは、嬉しそうに柔らかい笑みを浮かべてそう声をかけてくれた。多分俺達の親世代ぐらいだろうか。穏やかな雰囲気をまとったとても優しそうな男性だ。
「こんばんは」
笑顔でそう声をかけたクリスさんに視線を向けるなり、店員さんは大きく目を見開いた。
「クリスぼっちゃん!?イーシャルに来てたんですか?お久しぶりですね」
クリスぼっちゃん?俺とハル、カーディの視線が一気にクリスさんに集中した。
「今日の夕方にイーシャルに着いたばかりです」
「それはそれは。早速うちに来てくれるとは光栄ですよ、クリスぼっちゃん」
クリスさんは心底嫌そうに顔を歪めてから、口を開いた。
「お久しぶりです。…あの、いつも言ってますけど、ぼっちゃんは止めて下さい!」
「でもクリスぼっちゃんはクリスぼっちゃんでしょう?」
絶対にこの呼び方は止めないと言いたげなその言葉に、クリスさんは仕方ないなと苦笑を浮かべている。多分これが二人のいつものやりとりなんだろうな。多分この二人、結構仲良しなんだと思う。
「あ…クリスぼっちゃん、そちらの方は…もしかして?」
マティウスさんは、まじまじとカーディを見つめながらそう尋ねた。
「ああ…紹介します。私の伴侶、カーディです」
「初めまして。クリスの伴侶カーディです」
「ああ、初めまして。私は伴侶と二人でこの店を経営しているマティウスです」
朗らかに自己紹介をしながらも、マティウスさんの視線は驚くほどカーディに釘付けだった。あまりに見つめられすぎて、あのカーディでも戸惑いを隠せずにいる。
あまりに熱烈なその視線に、クリスさんはさっと庇うようにカーディの前に出た。
「あまり見ないで下さい、私のカーディが減ると困るので」
「おや、それは失礼しました」
ふふと嬉しそうに笑ったマティウスさんは、そちらのお二人は?と今度は俺達に視線を向けてきた。
「こちらは私たちの友人、ハルとアキト。つい先日伴侶候補になったばかりなんですよ」
俺とハルの事を友人と紹介してくれるのが、嬉しいけれどなんだかくすぐったい。
「それはそれは。伴侶候補の儀式、おめでとうございます」
「「ありがとうございます」」
気持ちの込もったお祝いの言葉に、俺とハルは笑顔で答えた。
「今日は良い日ですな。あのクリスぼっちゃんが、噂の念願の伴侶と、ご友人を連れて来店して下さるとは」
噂の…念願の…伴侶…?俺とカーディはゆるりと首を傾げた。
「あ、マティウスさん!待ってください!」
慌てた様子で口を開きかけたクリスさんをあっさりと無視して、マティウスさんはカーディに向かって話しかけた。
「口説いても口説いても頷いてくれないとよく話を聞いていたんですよ。それでも自分が好きなのはカーディだけだーってあまりに言うから、名前まで覚えてしまいました」
「わー!それは!!なんで言っちゃうんですか!」
「営業中に知った情報は口外しませんが、あれは営業終了後でしたからねぇ」
「それでも!言う必要は無かったでしょう!」
顔中を真っ赤にして慌てているクリスさんを、マティウスさんは笑顔を浮かべたままで見返した。
「伴侶と私の二人だけの時間の邪魔をしたお返しだーなんて事は言いませんよ」
それ確実にそうだって言ってますよね?あーうん。この人も穏やかそうな見た目に反して、自分の伴侶の事を好きすぎる人なんだな。
なるほどとこっそり納得した俺の隣で、カーディはブハッと噴き出すとそのまま楽し気に笑い出した。
「はーマティウスさん、良い事を教えてくれてありがとうございます!」
「いえいえ、お二人もご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます。ほら、クリス」
「…ありがとうございます」
カーディに促されてしぶしぶといった様子だったけれど、マティウスさんはそんな二人の様子を見つめてしみじみと呟いた。
「本当に今日は良い日です」
「ああ酒場以外にも気に入ってる店はあるしな」
「トライプールのお気に入りのお店だったら、俺達も行けるよね」
「そうだな、二人で一緒に回ってみようか」
そんな事を話しながら一際目を惹く鮮やかな赤色をしたドアへと近づいていくと、前触れも無く不意にそのドアが内側から開いた。
もし先頭にいたのが俺だったら反応できなかったかもしれないけれど、一番前にいたカーディは慌てる様子もなくひょいっと軽やかにドアを避けてみせた。ドアが開くって気づいてたんだろうか。
「本日はご来店、ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとう。また来ますね」
「今日も美味しかったです」
開いたままのドアからはそんなやりとりが聞こえてきたから、ちょうど帰るお客さんがいたみたいだ。仲のよさそうな客の二人組は、俺達に気づくとニコリと笑顔を見せてから俺達の前を通り過ぎて夜の街へと消えていった。
「おや、お客様ですか?いらっしゃいませ」
見送りに出てきた店員らしきおじさんは、嬉しそうに柔らかい笑みを浮かべてそう声をかけてくれた。多分俺達の親世代ぐらいだろうか。穏やかな雰囲気をまとったとても優しそうな男性だ。
「こんばんは」
笑顔でそう声をかけたクリスさんに視線を向けるなり、店員さんは大きく目を見開いた。
「クリスぼっちゃん!?イーシャルに来てたんですか?お久しぶりですね」
クリスぼっちゃん?俺とハル、カーディの視線が一気にクリスさんに集中した。
「今日の夕方にイーシャルに着いたばかりです」
「それはそれは。早速うちに来てくれるとは光栄ですよ、クリスぼっちゃん」
クリスさんは心底嫌そうに顔を歪めてから、口を開いた。
「お久しぶりです。…あの、いつも言ってますけど、ぼっちゃんは止めて下さい!」
「でもクリスぼっちゃんはクリスぼっちゃんでしょう?」
絶対にこの呼び方は止めないと言いたげなその言葉に、クリスさんは仕方ないなと苦笑を浮かべている。多分これが二人のいつものやりとりなんだろうな。多分この二人、結構仲良しなんだと思う。
「あ…クリスぼっちゃん、そちらの方は…もしかして?」
マティウスさんは、まじまじとカーディを見つめながらそう尋ねた。
「ああ…紹介します。私の伴侶、カーディです」
「初めまして。クリスの伴侶カーディです」
「ああ、初めまして。私は伴侶と二人でこの店を経営しているマティウスです」
朗らかに自己紹介をしながらも、マティウスさんの視線は驚くほどカーディに釘付けだった。あまりに見つめられすぎて、あのカーディでも戸惑いを隠せずにいる。
あまりに熱烈なその視線に、クリスさんはさっと庇うようにカーディの前に出た。
「あまり見ないで下さい、私のカーディが減ると困るので」
「おや、それは失礼しました」
ふふと嬉しそうに笑ったマティウスさんは、そちらのお二人は?と今度は俺達に視線を向けてきた。
「こちらは私たちの友人、ハルとアキト。つい先日伴侶候補になったばかりなんですよ」
俺とハルの事を友人と紹介してくれるのが、嬉しいけれどなんだかくすぐったい。
「それはそれは。伴侶候補の儀式、おめでとうございます」
「「ありがとうございます」」
気持ちの込もったお祝いの言葉に、俺とハルは笑顔で答えた。
「今日は良い日ですな。あのクリスぼっちゃんが、噂の念願の伴侶と、ご友人を連れて来店して下さるとは」
噂の…念願の…伴侶…?俺とカーディはゆるりと首を傾げた。
「あ、マティウスさん!待ってください!」
慌てた様子で口を開きかけたクリスさんをあっさりと無視して、マティウスさんはカーディに向かって話しかけた。
「口説いても口説いても頷いてくれないとよく話を聞いていたんですよ。それでも自分が好きなのはカーディだけだーってあまりに言うから、名前まで覚えてしまいました」
「わー!それは!!なんで言っちゃうんですか!」
「営業中に知った情報は口外しませんが、あれは営業終了後でしたからねぇ」
「それでも!言う必要は無かったでしょう!」
顔中を真っ赤にして慌てているクリスさんを、マティウスさんは笑顔を浮かべたままで見返した。
「伴侶と私の二人だけの時間の邪魔をしたお返しだーなんて事は言いませんよ」
それ確実にそうだって言ってますよね?あーうん。この人も穏やかそうな見た目に反して、自分の伴侶の事を好きすぎる人なんだな。
なるほどとこっそり納得した俺の隣で、カーディはブハッと噴き出すとそのまま楽し気に笑い出した。
「はーマティウスさん、良い事を教えてくれてありがとうございます!」
「いえいえ、お二人もご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます。ほら、クリス」
「…ありがとうございます」
カーディに促されてしぶしぶといった様子だったけれど、マティウスさんはそんな二人の様子を見つめてしみじみと呟いた。
「本当に今日は良い日です」
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