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461.料理店マティウス
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あちこちで交わされている恋人たちや伴侶たちの甘いやりとりをなんとか聞き流しながら、俺はハルと手を繋いだまま街中を歩いていった。
直接的な行為にまでは至っていなくても、そこかしこで抱き合ったりキスをしたりとなかなか目のやり場に困るんだよね。
ハルが手を引いてくれてなかったら、慌てすぎて迷子になっていたかもしれない。
動揺しながらも必死で歩いていた俺と余裕の表情で誘導してくれていたハルは、前を行く二人が立ち止まったのに合わせて足を止めた。
立ち止まったクリスさんの視線の先にあったのは、なんと黄昏の館よりも更に数段は豪華な建物だった。赤レンガで建てられているのは他の建物と一緒だけど、明らかに彫刻とかの装飾が多い。
しかも看板すら無いから、どんなお店なのかもよく分からない。
うーん、見ためからして絶対に高級店だなって感じだけは伝わってくるんだけどな。思わずその店ってドレスコードとか無いですか?と聞きたくなってくる造りだ。いや、この世界にドレスコードなんて概念があるかすら分からないから、そんな事は聞けないんだけどさ。
「クリス、ここか?」
ハルが不思議そうに建物を見つめながらそう尋ねれば、クリスさんはすぐにふるりと首を振った。
「いえ、こっちです」
そう口にしたクリスさんはカーディの手を引いたまま、あの豪華な建物の方へと足を向けた。え、やっぱりそのドレスコードありそうな建物に入るの?俺がそう思った瞬間、クリスさんは建物の真横にあった小さな路地へと入っていった。
「行こう、アキト」
「うん」
ハルと一緒に、慌てて二人の後を追って路地に入った。まず目に飛び込んできたのは、狭いながらも温かい灯りで照らされた雰囲気のある路地だった。
「明るい」
「ああ、危険は無さそうだね」
気配探知をしてくれていたのか、ハルはそう言ってきゅっと俺の手を握ってくれた。
よくよく見てみれば、この路地にはいくつかの小さなお店が並んでいるみたいだ。どれもこじんまりとした赤レンガの建物だが、辺りには良い香りが漂っている。香りが美味しいお店は絶対に外れないよね。
俺達が来るのを待っていてくれたのか、クリスさんは俺達の顔を見てからゆっくりと歩き出した。
こんなに小さな路地なのに、どのお店からも活気に満ちた声や笑い声が聞こえてくる。なんだかワクワクする雰囲気だ。
「皆さん、着きましたよ」
クリスさんがそう声を出したのは、路地の一番突き当りにあるこの路地にしては大きなお店の前だった。
「ここか」
「ええ、ここが目的地の料理店マティウスです」
真っ赤な木製のドアが一番目立っているそのお店は、店構えからしてどことなく可愛らしい雰囲気だ。
ハルはまじまじと店を観察してから、クリスさんに視線を向けた。
「あー…俺達は好きそうな店だが…クリスにこういう店に連れて来られるとはちょっと意外だな」
さらりと俺達は、好きそうって言ってくれたのがなんだか嬉しい。ハルは俺の好みをちゃんと知ってくれてるんだよな。
「あれ?意外ですか?」
「もっと分かりやすい高級店に連れていかれるかと思ってた」
「仕事相手と商談で利用する事もありますから…もちろん数点候補はありますが」
そこでぴたりと言葉を止めたクリスさんは、カーディへとそっと視線を向けた。パスを受け取ったカーディは、クスクスと笑いながら口を開く。
「クリスはな、ああいう店は食った気がしないらしいぞ?俺はまあうまければ何でも良いんだけどさ」
「味は確かに美味しいんですが、上品過ぎるんですよね」
「クリスさんがそういう事を言うとは思いませんでした」
思わずそう呟いた俺に、カーディはニヤリと笑みを浮かべた。
「なあアキト、クリスと俺と二人セットで初めて会ったのはどこか分かるか?」
カーディと初めて会ったのは黒鷹亭の食堂だったよね。でもクリスさんと二人セットでってなると、冒険者ギルドの酒場だ。
「冒険者ギルドの酒場?」
「ええ、正解です!」
「俺達二人はトライプールではあの冒険者ギルドの酒場の常連なんだよ」
あの賑やかで活気に満ちた空間に、意外にも二人が馴染んでいたのをぼんやりと思いだす。注文だってさらりとこなしてたし、周りにお酒をおごってもらったりしてたもんな。
「あ、そっか。そう言われると納得」
直接的な行為にまでは至っていなくても、そこかしこで抱き合ったりキスをしたりとなかなか目のやり場に困るんだよね。
ハルが手を引いてくれてなかったら、慌てすぎて迷子になっていたかもしれない。
動揺しながらも必死で歩いていた俺と余裕の表情で誘導してくれていたハルは、前を行く二人が立ち止まったのに合わせて足を止めた。
立ち止まったクリスさんの視線の先にあったのは、なんと黄昏の館よりも更に数段は豪華な建物だった。赤レンガで建てられているのは他の建物と一緒だけど、明らかに彫刻とかの装飾が多い。
しかも看板すら無いから、どんなお店なのかもよく分からない。
うーん、見ためからして絶対に高級店だなって感じだけは伝わってくるんだけどな。思わずその店ってドレスコードとか無いですか?と聞きたくなってくる造りだ。いや、この世界にドレスコードなんて概念があるかすら分からないから、そんな事は聞けないんだけどさ。
「クリス、ここか?」
ハルが不思議そうに建物を見つめながらそう尋ねれば、クリスさんはすぐにふるりと首を振った。
「いえ、こっちです」
そう口にしたクリスさんはカーディの手を引いたまま、あの豪華な建物の方へと足を向けた。え、やっぱりそのドレスコードありそうな建物に入るの?俺がそう思った瞬間、クリスさんは建物の真横にあった小さな路地へと入っていった。
「行こう、アキト」
「うん」
ハルと一緒に、慌てて二人の後を追って路地に入った。まず目に飛び込んできたのは、狭いながらも温かい灯りで照らされた雰囲気のある路地だった。
「明るい」
「ああ、危険は無さそうだね」
気配探知をしてくれていたのか、ハルはそう言ってきゅっと俺の手を握ってくれた。
よくよく見てみれば、この路地にはいくつかの小さなお店が並んでいるみたいだ。どれもこじんまりとした赤レンガの建物だが、辺りには良い香りが漂っている。香りが美味しいお店は絶対に外れないよね。
俺達が来るのを待っていてくれたのか、クリスさんは俺達の顔を見てからゆっくりと歩き出した。
こんなに小さな路地なのに、どのお店からも活気に満ちた声や笑い声が聞こえてくる。なんだかワクワクする雰囲気だ。
「皆さん、着きましたよ」
クリスさんがそう声を出したのは、路地の一番突き当りにあるこの路地にしては大きなお店の前だった。
「ここか」
「ええ、ここが目的地の料理店マティウスです」
真っ赤な木製のドアが一番目立っているそのお店は、店構えからしてどことなく可愛らしい雰囲気だ。
ハルはまじまじと店を観察してから、クリスさんに視線を向けた。
「あー…俺達は好きそうな店だが…クリスにこういう店に連れて来られるとはちょっと意外だな」
さらりと俺達は、好きそうって言ってくれたのがなんだか嬉しい。ハルは俺の好みをちゃんと知ってくれてるんだよな。
「あれ?意外ですか?」
「もっと分かりやすい高級店に連れていかれるかと思ってた」
「仕事相手と商談で利用する事もありますから…もちろん数点候補はありますが」
そこでぴたりと言葉を止めたクリスさんは、カーディへとそっと視線を向けた。パスを受け取ったカーディは、クスクスと笑いながら口を開く。
「クリスはな、ああいう店は食った気がしないらしいぞ?俺はまあうまければ何でも良いんだけどさ」
「味は確かに美味しいんですが、上品過ぎるんですよね」
「クリスさんがそういう事を言うとは思いませんでした」
思わずそう呟いた俺に、カーディはニヤリと笑みを浮かべた。
「なあアキト、クリスと俺と二人セットで初めて会ったのはどこか分かるか?」
カーディと初めて会ったのは黒鷹亭の食堂だったよね。でもクリスさんと二人セットでってなると、冒険者ギルドの酒場だ。
「冒険者ギルドの酒場?」
「ええ、正解です!」
「俺達二人はトライプールではあの冒険者ギルドの酒場の常連なんだよ」
あの賑やかで活気に満ちた空間に、意外にも二人が馴染んでいたのをぼんやりと思いだす。注文だってさらりとこなしてたし、周りにお酒をおごってもらったりしてたもんな。
「あ、そっか。そう言われると納得」
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