上 下
460 / 1,103

459.夜の街

しおりを挟む
 三人から温かい目で見つめられた俺は、居心地の悪さに身体を揺らした。

 ハルの視線には慣れてるから良いんだけど、問題はクリスさんとカーディだ。まるで可愛い弟を愛でるみたいな、そんな優しい視線がひどくくすぐったい。一人っ子の俺にとっては、全く馴染みの無い視線だった。

「では、さっそく行きましょうか」

 どんな反応をすれば良いのかと考え込んでいると、クリスさんがそう声をかけてくれた。

「ああ、行くか」
「はい!」
「うん、そろそろ腹も減ってきたし行こーぜ」

 黄昏の館の人に優しい笑顔と共に見送られて、俺達四人は夜のイーシャルの街へと繰り出した。

「それでクリス、今日はこれからどこに行くんだ?」
「それは内緒です」

 ハルの質問に、クリスさんは楽し気に笑いながら答えた。

「え?内緒って…」
「ハル、大丈夫だぞ。今日はクリスが責任もって案内するーって張り切ってたから」

 今日の道案内はクリスにまかせてやってくれと、カーディは明るい笑顔で付け加えた。

「ええ、任せて下さい」

 クリスさんはカーディの手をさらりと握ると、行きましょうかと足取りも軽く歩き出した。

 二人の背中を呆然と見つめていたハルは、次の瞬間楽し気に笑い出した。

「アキト、お店は内緒だってさ」
「だね。これはちゃんと追いかけないとだね、ハル」

 おどけて話しながら、どちらからともなく自然と手を繋ぐ。

「見失わないようにしないと、クリスお勧めのお店に行けなくなるよ」
「それは嫌だなー」

 クスクスと笑い合いながら、俺達は少し前を歩くカーディとクリスさんの背中を追って歩き出した。



 いくつかの路地を抜けて少し大きな通りまで出ると、そこには驚くほどたくさんの人の姿があった。

 今まで行った場所はどこも夜になると多少なりとも人が減ってたと思うんだけど、ここはむしろ行き来する人が一気に増えてるような気がする。これって俺の気のせいなのかな?

「ね、ハル。何かさ、さっきよりも人が増えてない…?」
「ああ、ここイーシャルは夜も魅力的な街だからね。昼間は仮眠に当ててわざと夜になってから出歩くっていう旅人もいるくらいなんだよ」

 そんなハルの説明にぐるりと視線を巡らせてみれば、確かに楽し気に街並みを眺めている人達の姿がちらほらと目についた。

 その甘い空気からして、どうやら伴侶や恋人と一緒にでかけている人が多いみたいだ。イーシャルってデートに人気の場所だったりするのかな。

「あと、イーシャルはね、魔道具の灯りもトライプールよりも多いんだよ」
「あ、それは俺も思ってたよ」

 イーシャルの街並みを照らす魔道具の灯りって、トライプールと比べても明らかに多いんだよね。赤いレンガの可愛らしい建物に暖色系の灯りがすごくよく似合ってるし、夜でも薄暗くて危険な感じがしないんだよね。だからこそ夜に出歩きたくなるのかもしれない。

「おーい次はこっちだって言ってるぞーちゃんとついて来れてるか?」
「うん、大丈夫!」

 人が増えてきたからか心配そうに振り返って声をかけてくれたカーディに、俺はゆるりと手を振って答えた。知らない間にちょっと距離が空いてたみたいだと、俺達は慌てて距離を詰めた。

「ここからが大通りですよ」
「「うわぁ」」

 角を曲がった瞬間、俺とカーディの声が綺麗に重なった。

 俺達の視線の先にあるのは、大通りを通っていると教えてもらったあの大きな水路だった。迷子にならないための目印にと教えられたあの水路が、今は水路自体が底から照らされたようにぼんやりと青白く光っていた。

 これって魔道具とか魔法を使って光らせてるのかな?いや、それともあの水路に使われてる素材が夜になって光るものだったりするとか?

 一体どういう原理で光っているのかなんて、俺には分からない。

 分からないけれど、それでも幻想的な風景についつい見とれてしまった。
しおりを挟む
感想 315

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

氷の華を溶かしたら

こむぎダック
BL
ラリス王国。 男女問わず、子供を産む事ができる世界。 前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。 ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。 そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。 その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。 初恋を拗らせたカリストとシェルビー。 キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?

平凡モブの僕だけが、ヤンキー君の初恋を知っている。

天城
BL
クラスに一人、目立つヤンキー君がいる。名前を浅川一也。校則無視したド派手な金髪に高身長、垂れ目のイケメンヤンキーだ。停学にならないせいで極道の家の子ではとか実は理事長の孫とか財閥の御曹司とか言われてる。 そんな浅川と『親友』なのは平凡な僕。 お互いそれぞれ理由があって、『恋愛とか結婚とか縁遠いところにいたい』と仲良くなったんだけど。 そんな『恋愛機能不全』の僕たちだったのに、浅川は偶然聞いたピアノの演奏で音楽室の『ピアノの君』に興味を持ったようで……? 恋愛に対して消極的な平凡モブらしく、ヤンキー君の初恋を見守るつもりでいたけれど どうにも胸が騒いで仕方ない。 ※青春っぽい学園ボーイズラブです。

処理中です...