456 / 1,112
455.【ハル視点】特別な景色
しおりを挟む
トリクの花で彩られたイーシャル領都の街並みは、確かに見るたびに綺麗だなと思う。
そういつ見ても綺麗だなとは思うんだよ。思うんだけど、何度も来た事があるせいで、俺にとってはすっかり見慣れた景色になってしまってるんだよな。隣で冷静に街並みを見つめていたクリスも、多分最初は俺と同じ気持ちだったんだと思う。
だけどそんな景色も、アキトとカーディさんの口から語られると特別なものに思えてくるんだから不思議だ。
あの派手な建築物は何のために作られた建物なんだろうとか、考えた事も無かったな。トリクの花を真剣に観察していたと思ったら遠くに見える山に目を止めたり、はたまた風に乗ってきた料理の香りに騒いでみたりと二人の行動は本当に予想外だ。
予想外だからこそ見ていて飽きないんだよな。
もし今アキトが俺と二人きりでここに来ていたら、アキトはきっとここまではしゃいではくれないだろう。気を使ってすぐに移動しようとか言い出すアキトの姿は、簡単に想像がつく。
俺にももっと色んなアキトの姿を見せて欲しいと少し悔しい気持ちもあるけれど、友人になったからこそできる付き合いってのもあるんだろう。
そんな事を考えながらぼんやりとアキトを見つめていると、楽し気にはしゃいでいた二人は急にぴたりと動きを止めた。
「はー堪能した!」
「俺も!」
カーディさんとアキトは顔を見合わせて楽し気に笑っている。
「もう良いの?」
「まだ時間はありますよ?」
ちょっと見つめすぎたかな。そのせいで遠慮してるんじゃないかとそう尋ねてみたけれど、二人は満足そうに笑って答えてくれた。
「大丈夫だ、二人ともありがとな」
「待っててくれてありがとうございました」
「いや、気にしないで」
「お二人が楽しめたなら何よりですから」
俺達も二人の反応を楽しんだからなとはさすがに言えなかった。
「それで?クリス、これからどうする予定なんだ?」
「そうですね…そろそろ宿に行こうと思うんですがどうです?」
「あー今日は歩き続けで結構疲れてるし、良いんじゃないか?」
カーディさんはクリスの提案に即座に賛成すると、ちらりとアキトの方を見た。
「俺も賛成です」
「ああ、俺も妥当だと思うよ。それで、どこに泊まるんだ?」
「黄昏の館に予約を入れてあります」
黄昏の館といえば、このイーシャル領でも五本の指に入る高級宿じゃないか。見た目だけを高級にしているそこらの宿とは違い、百年以上前の古い建物を補修して経営している。俺は利用した事は無いが、温かみのある宿だと兄から聞いた事があった。
それにしても護衛依頼中の冒険者のために黄昏の館を選ぶとは、普通ならあり得ない待遇だな。待遇が良すぎるからと俺達は別の宿を取ると言っても、クリスはきっと、いや絶対に譲らないだろうな。
短い付き合いだが、それぐらいは俺にも分かる。ここはクリスの好意に甘えておくか。
「それならこっちの道だな」
「あ、でも、その前に…」
クリスはそこで急に言葉を途切れさせた。
「ん?どうかしたか?」
「えーっと…ハル、こちらの道から行くのはどうですか?」
「ああ、なるほど」
アキトが見たいと言っていたあの噴水に繋がる道を、クリスはそっと指し示していた。
「うん、それは良い考えだな。そっちにしよう」
俺はさっとアキトの前に手を差し出した。少しの躊躇も無くすぐにきゅっと握り返される手が、たまらなく幸せだ。
「カーディ…」
「なんだよ、クリス。手、繋ぎたいのか?」
揶揄うようなカーディさんの声が、後ろから聞こえてくる。
「ええ、私はいつでもどこでもカーディとなら触れ合いたいので」
さらりと言いきったクリスの声に続いて聞こえてきたのは、ぐうと唸るカーディさんの低い声だった。
うん、この勝負はクリスの勝ちだな。
「ここの水路はかなり大きいね?」
「ああ。この一際大きな水路は、主街道の真ん中を貫くように流れているんだ」
「もし迷ってしまった時は、この大きな水路を辿れば北と南の門までは辿り着けますからね」
クリスはそう言うと、しっかりと覚えておいて下さいねと真剣な表情でカーディさんに話しかけた。ここの衛兵は信頼できるから何かがあれば駆けこむんですよと言うクリスは、ちょっと過保護過ぎるんじゃないかな。
「おう、分かった。ちゃんと覚えとくな」
カーディさん本人は、慣れた様子であっさりとそう答えている。いや違うな。これは俺の事を心配しているクリスは可愛いなとか思ってる顔だ。
本当にお似合いの伴侶同士だなと内心で呆れつつ、俺はアキトの手をきゅっと握りしめてから口を開いた。
「俺が一緒にいるのに、アキトを一人で迷わせたりしないぞ?」
そういつ見ても綺麗だなとは思うんだよ。思うんだけど、何度も来た事があるせいで、俺にとってはすっかり見慣れた景色になってしまってるんだよな。隣で冷静に街並みを見つめていたクリスも、多分最初は俺と同じ気持ちだったんだと思う。
だけどそんな景色も、アキトとカーディさんの口から語られると特別なものに思えてくるんだから不思議だ。
あの派手な建築物は何のために作られた建物なんだろうとか、考えた事も無かったな。トリクの花を真剣に観察していたと思ったら遠くに見える山に目を止めたり、はたまた風に乗ってきた料理の香りに騒いでみたりと二人の行動は本当に予想外だ。
予想外だからこそ見ていて飽きないんだよな。
もし今アキトが俺と二人きりでここに来ていたら、アキトはきっとここまではしゃいではくれないだろう。気を使ってすぐに移動しようとか言い出すアキトの姿は、簡単に想像がつく。
俺にももっと色んなアキトの姿を見せて欲しいと少し悔しい気持ちもあるけれど、友人になったからこそできる付き合いってのもあるんだろう。
そんな事を考えながらぼんやりとアキトを見つめていると、楽し気にはしゃいでいた二人は急にぴたりと動きを止めた。
「はー堪能した!」
「俺も!」
カーディさんとアキトは顔を見合わせて楽し気に笑っている。
「もう良いの?」
「まだ時間はありますよ?」
ちょっと見つめすぎたかな。そのせいで遠慮してるんじゃないかとそう尋ねてみたけれど、二人は満足そうに笑って答えてくれた。
「大丈夫だ、二人ともありがとな」
「待っててくれてありがとうございました」
「いや、気にしないで」
「お二人が楽しめたなら何よりですから」
俺達も二人の反応を楽しんだからなとはさすがに言えなかった。
「それで?クリス、これからどうする予定なんだ?」
「そうですね…そろそろ宿に行こうと思うんですがどうです?」
「あー今日は歩き続けで結構疲れてるし、良いんじゃないか?」
カーディさんはクリスの提案に即座に賛成すると、ちらりとアキトの方を見た。
「俺も賛成です」
「ああ、俺も妥当だと思うよ。それで、どこに泊まるんだ?」
「黄昏の館に予約を入れてあります」
黄昏の館といえば、このイーシャル領でも五本の指に入る高級宿じゃないか。見た目だけを高級にしているそこらの宿とは違い、百年以上前の古い建物を補修して経営している。俺は利用した事は無いが、温かみのある宿だと兄から聞いた事があった。
それにしても護衛依頼中の冒険者のために黄昏の館を選ぶとは、普通ならあり得ない待遇だな。待遇が良すぎるからと俺達は別の宿を取ると言っても、クリスはきっと、いや絶対に譲らないだろうな。
短い付き合いだが、それぐらいは俺にも分かる。ここはクリスの好意に甘えておくか。
「それならこっちの道だな」
「あ、でも、その前に…」
クリスはそこで急に言葉を途切れさせた。
「ん?どうかしたか?」
「えーっと…ハル、こちらの道から行くのはどうですか?」
「ああ、なるほど」
アキトが見たいと言っていたあの噴水に繋がる道を、クリスはそっと指し示していた。
「うん、それは良い考えだな。そっちにしよう」
俺はさっとアキトの前に手を差し出した。少しの躊躇も無くすぐにきゅっと握り返される手が、たまらなく幸せだ。
「カーディ…」
「なんだよ、クリス。手、繋ぎたいのか?」
揶揄うようなカーディさんの声が、後ろから聞こえてくる。
「ええ、私はいつでもどこでもカーディとなら触れ合いたいので」
さらりと言いきったクリスの声に続いて聞こえてきたのは、ぐうと唸るカーディさんの低い声だった。
うん、この勝負はクリスの勝ちだな。
「ここの水路はかなり大きいね?」
「ああ。この一際大きな水路は、主街道の真ん中を貫くように流れているんだ」
「もし迷ってしまった時は、この大きな水路を辿れば北と南の門までは辿り着けますからね」
クリスはそう言うと、しっかりと覚えておいて下さいねと真剣な表情でカーディさんに話しかけた。ここの衛兵は信頼できるから何かがあれば駆けこむんですよと言うクリスは、ちょっと過保護過ぎるんじゃないかな。
「おう、分かった。ちゃんと覚えとくな」
カーディさん本人は、慣れた様子であっさりとそう答えている。いや違うな。これは俺の事を心配しているクリスは可愛いなとか思ってる顔だ。
本当にお似合いの伴侶同士だなと内心で呆れつつ、俺はアキトの手をきゅっと握りしめてから口を開いた。
「俺が一緒にいるのに、アキトを一人で迷わせたりしないぞ?」
162
お気に入りに追加
4,145
あなたにおすすめの小説
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?
トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!?
実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。
※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。
こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる