生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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449.花のアーチ

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 あちこちに咲いているトリクの花を楽しみながらのんびりと歩いていくと、知らない間に大きなアーチの前まで辿り着いていた。

 小道の入口を飾っているそのアーチは、どうやら全てトリクの花でできているみたいだ。

「これすごいね。綺麗だ」
「うん、すごいね。俺も初めて見るよ」

 ハルはイーシャルに何度も来た事があるって言ってたのに、初めてなの?

「え、ハルも初めてなの?」
「うん、これは初めてだよ」

 ハルによるとただ切花で飾り付けただけのアーチなら、数年前までここにあったんだそうだ。ハルもそれは見た事があるって言ってた。でも今目の前にあるアーチには、生きたままのトリクの花が使われているらしい。

「発想だけは昔からあったんだけど、生きたままっていうのが難しくてね。結局魔道具と魔法の併用で何とかなったって聞いたな」

 あれ、薔薇のアーチなら映画とかで出てきた事があったんだけど、あれってそんなに作るの難しいの?あ、でもツタを這わせて育てるんだってぼんやり聞いた事があるから、ツタじゃないトリクの花では難しいとかそういう話だろうか。

 異世界には普通に薔薇のアーチがあったよ。そう言いたい所だけど、さすがにここでは言えないよねと俺はそっと言葉を飲み込んだ。

「さすがにハルは詳しいですね。一体どこから情報が漏れてるんでしょう…?」

 クリスさんは苦笑を浮かべながら、ハルにそう尋ねた。

「…俺はトリクの花師から聞いただけだから、一般的な噂では無いぞ」

 後で教えてもらったんだけど、トリクの花師っていうのはトリクの花を育ててる仕事についている人の事らしい。食品や香水に加工されるトリクの花は別の場所でまとめて栽培されていて、そちらを育てる人もトリクの花師と呼ばれるようだ。

「ああ、それなら良かったです」
「なあ、そう言うって事は、これに使われてる魔道具ってもしかしてストファー魔道具店のなのか?」
「ええ、確かにうちの製品ですよ」

 即答で答えたクリスさんは、なるほどうちの魔道具だと言う話までは広まって無いんですねと呟いている。

「それなら面倒は少なくなりそうです」
「そうか」

 え、ちょっと待って、じゃあこの綺麗なトリクの花のアーチには、ストファー魔道具店が関係してるの?クリスさんとカーディのお店のおかげで、この綺麗なアーチが見られたんだと思うとじわじわと感動が湧いてくる。

「すごい!すごいですね、ストファー魔道具店!」

 思わずそう口にした俺に、クリスさんとカーディは顔を見合わせてから嬉しそうに笑ってくれた。

「ありがとうございます」
「ありがとな」
「二人の魔道具が関係してると思ったら、更に綺麗に見える気がします!」

 勢いこんでそう続ければ、クリスさんはさらりとお礼を言ってくれたんだけど、カーディは頬を赤く染めてそっと目線を反らしてしまった。

「何ていうか…ここまで素直に褒められると、ちょっと照れるな」
「照れているカーディも可愛いです」
「はいはい」

 あまりにも慣れた様子で軽くクリスさんの言葉を流してみせたカーディに、俺とハルは思わず噴き出してしまった。今日も二人は仲良し伴侶だな。



 アーチをくぐって更に小道を進んでいくと、この街に来てからずっと聞こえていたあの水の音が、なんだか急に大きくなったような気がする。

 なんでだろうと不思議に思いながらも歩いていくと、小道の先に不意に大きな白い噴水が見えてきた。

 今も勢いよく空めがけて噴き出している水は、夕陽を反射してキラキラと輝いている。
 
 作り自体は、俺が想像する段々になっている噴水らしい作りだ。色もシンプルな普通の白で飾りも何も無いから、噴水だけならはっきりいって特に目を引く感じでは無い。でもそこに咲き乱れているトリクの花の色味が足される事で、驚くほど魅力的になっている。

 この噴水はトリクの花があって、やっと完成するんだな。自然とそう納得してしまう美しさがあった。

「ここがメロウさんの言ってた噴水?」
「うん、そうだよ。アキト、感想は?」
「えーっと、びっくりするぐらい綺麗だし…何か圧倒されてる」
「カーディはどうです?」
「俺もアキトと一緒だな。感動するぐらい綺麗だけど圧倒されてる」

 顔を見合わせてそうだよねと言い合う俺達を、ハルとクリスさんは笑って見守っていた。
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