生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
448 / 1,179

447.トリクの花

しおりを挟む
 絵で見るのと実際に自分の目で見るのとでは、やっぱり感動が違う。想像を超える綺麗な街並みにテンションの上がった俺とカーディは、人目も気にせずはしゃいでしまった。

 遠くに見える建物を見てあれこれと感想を言い合い、水路を覗き込んで魚がいないか観察しているところで、ふと我に返った。俺とカーディは初めて来たから見るもの全てが新鮮だけど、ハルとクリスさんはそうじゃないんだよね。

 あれ、もしかして、二人共待ちくたびれてるんじゃないかな?

 心配になってそっと後ろを振り返ってみれば、そこには笑顔のハルとクリスさんの姿があった。待ちくたびれるどころか、微笑まし気に反応を見守られている。

 ばっちりと視線があったハルは、こちらの事は気にしないでと言いたげににっこり笑って手を振ってくれた。ちらりとクリスさんにも視線を向けてみたけれど、こちらも満面の笑みだ。うん、二人が退屈してないみたいで良かった。

「それで、これがこの街の名物っていうトリクの花か!」

 不意に話しかけられた俺は、慌ててカーディの方を向き直った。

「えーっと、確かイーシャルの領主の家紋にも使われてるって言ってたやつだよね」

 気づけば花壇前に移動してしゃがみこんでいたカーディの横に、俺もちょこんと並んでしゃがみこむ。

「そうそう。どんな家紋か見てみたいよな」
「うん、こんなかわいいお花がどう使われてるのか想像つかないな」

 意匠の一つとしてさりげなく使われているのかな。それともこの花がどどんっと前面に押し出しされているんだろうか。今度ハルに聞いてみようかな。

 そんな事を考えながら、二人揃ってトリクの花を覗き込んだ。

 どうやらトリクの花は、どちらの色も五枚の花びらから出来ているみたいだ。葉っぱの形は笹みたいな形で先がピンと尖って…って、これは素材を探す時の見方だな。すっかり冒険者としての見方がクセになってる自分に、ちょっとだけ笑ってしまった。

「あ、良い香りがする」

 カーディの言葉に釣られるようにそっと鼻を近づけてみると、確かにふわりと甘い香りを感じた。なんだか気分が落ち着くような、よく眠れそうな気がするようなそんな香りだ。

「俺は大きい花の方が分かりやすくて好きだと思ってたんだけど…こういう花も良いもんだな」

 照れくさそうに笑いながら、カーディはぼそりとそう呟いた。

 そっか、カーディは大きい花の方が好きなのか。

 正直に言うと花の好みなんて今までちゃんと考えた事がなかったけど、そういえば昔から桜とかスミレとかが好きだったな。だから多分、俺は小さい花の方が好きなのかもしれない。

「それぞれは控え目な花なのに、存在感があって良いよね」
「そう、存在感がすごいよな!」

 まるで桜みたいな存在感だよねと言いそうになった俺は、慌ててその言葉を飲み込んだ。この世界に桜があるかどうかなんて知らないもんな。どこかに存在してるならまだ良いけど、もし存在しないのに過去の異世界人から桜の話題だけが伝わっていたりしたら異世界人バレに繋がりそうだ。

「どうした?」

 目ざとく俺の異変に気付いたカーディに、俺は慌てて言葉を続けた。

「えーっと、やっぱり同じ枝から二色の花が咲いてるのが、ちょっと不思議だよなーっと思って」
「ああ、こういう咲き方は確かに珍しいよな」

 そんな風に二人で盛り上がっていると、不意に後ろから控え目な声がかかった。

「二種類の花が咲くってだけなら他にもあるんだけど…トリクの花はその中でも特別な花だよ」

 ハルの言葉に、俺とカーディは揃って首を傾げた。

「「特別?」」
「ああ。トリクの花は、珍しい事に花の色によってはっきりした個性があるんだ」
「え、個性…?」
「うん、白い花の方は香りが良いけど味は薄くて、水色の花は香りは薄いけど味が良いんだよ。面白いでしょう?」

 なるほど、白い花は香りが良くて、水色の花は味が良いのか――って、ちょっと待って!花を食べるの!?と思わず驚いてしまったけれど、そういえば元の世界にも食べられる花があったな。

 母さんが友達と食べたんだと自慢していた、パンケーキの写真に花がのってたんだ。俺と父さんはただ花で飾ってあるんだと思ったんだけど、これは食べられるお花なのよって言ってたのを覚えている。たしか、エディ…エディブルフラワーだっけ。

「うん、面白いね」

 教えてくれてありがとうと伝えれば、ハルは嬉しそうに笑みをこぼした。

「えー…ちなみに白い方はお茶に浮かべて香りを楽しんだり、香料や香水も作られています。水色の方はジャムにしたり、炒めて料理などにも使われてますよ」

 クリスさんはそこまで説明すると、ちらちらとカーディを見つめた。あ、これは俺でも分かる。自分の褒めて欲しいアピールだな。

「クリスもさすがに詳しいな!」
「ありがとうございます!」

 褒められたと素直に喜ぶクリスさんは、何だかこどもみたいで可愛かった。
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。

やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。 昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと? 前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。 *ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。 *フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。 *男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

処理中です...