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447.トリクの花

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 絵で見るのと実際に自分の目で見るのとでは、やっぱり感動が違う。想像を超える綺麗な街並みにテンションの上がった俺とカーディは、人目も気にせずはしゃいでしまった。

 遠くに見える建物を見てあれこれと感想を言い合い、水路を覗き込んで魚がいないか観察しているところで、ふと我に返った。俺とカーディは初めて来たから見るもの全てが新鮮だけど、ハルとクリスさんはそうじゃないんだよね。

 あれ、もしかして、二人共待ちくたびれてるんじゃないかな?

 心配になってそっと後ろを振り返ってみれば、そこには笑顔のハルとクリスさんの姿があった。待ちくたびれるどころか、微笑まし気に反応を見守られている。

 ばっちりと視線があったハルは、こちらの事は気にしないでと言いたげににっこり笑って手を振ってくれた。ちらりとクリスさんにも視線を向けてみたけれど、こちらも満面の笑みだ。うん、二人が退屈してないみたいで良かった。

「それで、これがこの街の名物っていうトリクの花か!」

 不意に話しかけられた俺は、慌ててカーディの方を向き直った。

「えーっと、確かイーシャルの領主の家紋にも使われてるって言ってたやつだよね」

 気づけば花壇前に移動してしゃがみこんでいたカーディの横に、俺もちょこんと並んでしゃがみこむ。

「そうそう。どんな家紋か見てみたいよな」
「うん、こんなかわいいお花がどう使われてるのか想像つかないな」

 意匠の一つとしてさりげなく使われているのかな。それともこの花がどどんっと前面に押し出しされているんだろうか。今度ハルに聞いてみようかな。

 そんな事を考えながら、二人揃ってトリクの花を覗き込んだ。

 どうやらトリクの花は、どちらの色も五枚の花びらから出来ているみたいだ。葉っぱの形は笹みたいな形で先がピンと尖って…って、これは素材を探す時の見方だな。すっかり冒険者としての見方がクセになってる自分に、ちょっとだけ笑ってしまった。

「あ、良い香りがする」

 カーディの言葉に釣られるようにそっと鼻を近づけてみると、確かにふわりと甘い香りを感じた。なんだか気分が落ち着くような、よく眠れそうな気がするようなそんな香りだ。

「俺は大きい花の方が分かりやすくて好きだと思ってたんだけど…こういう花も良いもんだな」

 照れくさそうに笑いながら、カーディはぼそりとそう呟いた。

 そっか、カーディは大きい花の方が好きなのか。

 正直に言うと花の好みなんて今までちゃんと考えた事がなかったけど、そういえば昔から桜とかスミレとかが好きだったな。だから多分、俺は小さい花の方が好きなのかもしれない。

「それぞれは控え目な花なのに、存在感があって良いよね」
「そう、存在感がすごいよな!」

 まるで桜みたいな存在感だよねと言いそうになった俺は、慌ててその言葉を飲み込んだ。この世界に桜があるかどうかなんて知らないもんな。どこかに存在してるならまだ良いけど、もし存在しないのに過去の異世界人から桜の話題だけが伝わっていたりしたら異世界人バレに繋がりそうだ。

「どうした?」

 目ざとく俺の異変に気付いたカーディに、俺は慌てて言葉を続けた。

「えーっと、やっぱり同じ枝から二色の花が咲いてるのが、ちょっと不思議だよなーっと思って」
「ああ、こういう咲き方は確かに珍しいよな」

 そんな風に二人で盛り上がっていると、不意に後ろから控え目な声がかかった。

「二種類の花が咲くってだけなら他にもあるんだけど…トリクの花はその中でも特別な花だよ」

 ハルの言葉に、俺とカーディは揃って首を傾げた。

「「特別?」」
「ああ。トリクの花は、珍しい事に花の色によってはっきりした個性があるんだ」
「え、個性…?」
「うん、白い花の方は香りが良いけど味は薄くて、水色の花は香りは薄いけど味が良いんだよ。面白いでしょう?」

 なるほど、白い花は香りが良くて、水色の花は味が良いのか――って、ちょっと待って!花を食べるの!?と思わず驚いてしまったけれど、そういえば元の世界にも食べられる花があったな。

 母さんが友達と食べたんだと自慢していた、パンケーキの写真に花がのってたんだ。俺と父さんはただ花で飾ってあるんだと思ったんだけど、これは食べられるお花なのよって言ってたのを覚えている。たしか、エディ…エディブルフラワーだっけ。

「うん、面白いね」

 教えてくれてありがとうと伝えれば、ハルは嬉しそうに笑みをこぼした。

「えー…ちなみに白い方はお茶に浮かべて香りを楽しんだり、香料や香水も作られています。水色の方はジャムにしたり、炒めて料理などにも使われてますよ」

 クリスさんはそこまで説明すると、ちらちらとカーディを見つめた。あ、これは俺でも分かる。自分の褒めて欲しいアピールだな。

「クリスもさすがに詳しいな!」
「ありがとうございます!」

 褒められたと素直に喜ぶクリスさんは、何だかこどもみたいで可愛かった。
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