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446.ハルとクリスさんのお勧め
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階段に座りこんだまま耳を済ますと、人々の話し声や楽し気な笑い声、そしてそれを包み込むように水の音が聞こえてくる。
結構賑やかなのに、不思議と心が落ち着く音だ。
座り心地も良いし良い場所だなーとは思うんだけど、それと同時に心配になった。ここって油断してるとあっという間に時間が過ぎそうだなって。
「皆さん、そろそろ移動しましょうか?」
クリスさんがそう提案した瞬間、カーディは目をこすりながら立ち上がった。
「あー、うん。そうだな、居心地良くて眠くなってた」
「俺も賛成です」
続いて立ち上がれば、ハルもすぐにすっと立ち上がった。
「ああ、そうしよう」
どうやら居心地が良すぎて心配になってたのは、俺だけじゃなかったみたいだ。
「あ、ハル。あっちにも道があるんだね?」
階段の向こう側にひっそりとある道が目に留まった俺は、そっと指差して尋ねてみた。
「ああ、あっちは階段じゃなくて、ゆるやかに上っていけるように作ってある坂道だよ」
辿り着く先は一緒だけど、体力に自信が無い人はあっちの方が楽なんだって。つまりスロープって事か。
「あっちの道はそういえば通った事がありませんね」
「俺も無いな…ただ小さな雑貨店とかパン屋なんかがあったりしてなかなか楽しいって話は聞いた事があるぞ」
「そうなんだ?」
「お、それは楽しそうだな、行ってみないか?」
ワクワク顔のカーディがそう尋ねたけど、ハルとクリスさんは何故か困った顔をしてそっと顔を見合わせた。
「あれ?駄目なのか?」
「駄目って訳じゃないんですが…」
「どうしても行きたいなら後日にすれば良いんじゃないか?」
なんだか二人ともやけに歯切れが悪いな。
特に反応がおかしいのはクリスさんだ。カーディがしたいって言った事を、あの伴侶の言う事は何でも叶えてあげたいって感じのクリスさんが受け入れないなんて。あまりに予想外な行動すぎて、俺は目を見開いて驚いてしまった。
「クリス、理由は?どうせ何かあるんだろう?」
カーディは拗ねるでも怒るでもなく、あっさりとそう尋ねた。
「今日だけはこっちの階段から上って欲しいなと…そう思ったんですよ」
詳しい理由はまだ言えませんと続けたクリスさんをじっと見つめてから、カーディは俺とハルの方をちらりと見た。
「ハルも同じ意見か?」
「ああ、今日だけは俺も階段を勧めるよ」
「だってさ、アキト。今日はこっちに付き合ってくれるか?」
「あ、うん。もちろん!」
ハルとクリスさんのお勧めなら異論は無いよ。そう即答した俺に、ハルは愛おしげに目を細めて笑ってくれた。
二人のお勧めに従った俺達は、階段を上りきった所で目の前の景色に視線を奪われて固まっていた。
まず一番最初に目を惹いたのは、見事に咲いている白と水色の小さな花だった。
パッと見はこぶりで控え目な、どちらかというと地味な花に見えるんだけど、それがもう街の至る所に咲いているから存在感がすごいんだ。
今ぱっと周りを見渡しただけでも、水路脇の地面に、道の脇にある花壇に、建物ちかくの植木鉢にと本当に至る所で咲いている。
「うわー綺麗だ!」
「ああ、これは綺麗だな…」
思わずぽつりと呟けば、カーディも景色を眺めたままぽつりと答えてくれた。
この街の建物はほとんどが赤いレンガで作られているみたいで、まるで童話の中に飛び込んだような可愛らしい作りだ。しかもその横には透き通った水が緩やかに流れる水路まである。
そんなファンタジーな街並みに、たくさんの咲き乱れる花って似合いすぎだよね。色とかは全然違うけど、桜が咲いてる街並みを見た時みたいな謎の感動がある。
「クリス、これが見せたかったから、階段を勧めたかったのか?」
「ええ、まあ。あっちの道からだと、ここほど景色が良くないんですよ」
「そっか、ありがとな」
幸せそうに笑い合っているカーディとクリスさんを見て、俺は隣のハルをそっと見上げた。
「ハルも、同じ意見?」
「ああ。かと言ってこっちの方が景色が良いからなんて言ったら、感動が薄れるかと思ってな」
気に入った?と尋ねてきたハルに、俺は笑顔で思いっきり頷いた。
「なあ、アキト。ここってメロウさんが見せてくれた本の絵と一緒じゃないか?」
「あ、確かに!そう言われればそうだね!」
何となく見た事あるような気がしてたのはそれでか。ファンタジーな街並みとして知ってる雰囲気なだけかと思ってた。
「でも実物はメロウさんが見せてくれた本の絵よりも綺麗だけどな!」
「うん、あの絵も綺麗だと思ったけど、それ以上だね」
あの本の絵は全体的に淡い色合いで塗られてたから、余計にそう感じるのかもしれない。
結構賑やかなのに、不思議と心が落ち着く音だ。
座り心地も良いし良い場所だなーとは思うんだけど、それと同時に心配になった。ここって油断してるとあっという間に時間が過ぎそうだなって。
「皆さん、そろそろ移動しましょうか?」
クリスさんがそう提案した瞬間、カーディは目をこすりながら立ち上がった。
「あー、うん。そうだな、居心地良くて眠くなってた」
「俺も賛成です」
続いて立ち上がれば、ハルもすぐにすっと立ち上がった。
「ああ、そうしよう」
どうやら居心地が良すぎて心配になってたのは、俺だけじゃなかったみたいだ。
「あ、ハル。あっちにも道があるんだね?」
階段の向こう側にひっそりとある道が目に留まった俺は、そっと指差して尋ねてみた。
「ああ、あっちは階段じゃなくて、ゆるやかに上っていけるように作ってある坂道だよ」
辿り着く先は一緒だけど、体力に自信が無い人はあっちの方が楽なんだって。つまりスロープって事か。
「あっちの道はそういえば通った事がありませんね」
「俺も無いな…ただ小さな雑貨店とかパン屋なんかがあったりしてなかなか楽しいって話は聞いた事があるぞ」
「そうなんだ?」
「お、それは楽しそうだな、行ってみないか?」
ワクワク顔のカーディがそう尋ねたけど、ハルとクリスさんは何故か困った顔をしてそっと顔を見合わせた。
「あれ?駄目なのか?」
「駄目って訳じゃないんですが…」
「どうしても行きたいなら後日にすれば良いんじゃないか?」
なんだか二人ともやけに歯切れが悪いな。
特に反応がおかしいのはクリスさんだ。カーディがしたいって言った事を、あの伴侶の言う事は何でも叶えてあげたいって感じのクリスさんが受け入れないなんて。あまりに予想外な行動すぎて、俺は目を見開いて驚いてしまった。
「クリス、理由は?どうせ何かあるんだろう?」
カーディは拗ねるでも怒るでもなく、あっさりとそう尋ねた。
「今日だけはこっちの階段から上って欲しいなと…そう思ったんですよ」
詳しい理由はまだ言えませんと続けたクリスさんをじっと見つめてから、カーディは俺とハルの方をちらりと見た。
「ハルも同じ意見か?」
「ああ、今日だけは俺も階段を勧めるよ」
「だってさ、アキト。今日はこっちに付き合ってくれるか?」
「あ、うん。もちろん!」
ハルとクリスさんのお勧めなら異論は無いよ。そう即答した俺に、ハルは愛おしげに目を細めて笑ってくれた。
二人のお勧めに従った俺達は、階段を上りきった所で目の前の景色に視線を奪われて固まっていた。
まず一番最初に目を惹いたのは、見事に咲いている白と水色の小さな花だった。
パッと見はこぶりで控え目な、どちらかというと地味な花に見えるんだけど、それがもう街の至る所に咲いているから存在感がすごいんだ。
今ぱっと周りを見渡しただけでも、水路脇の地面に、道の脇にある花壇に、建物ちかくの植木鉢にと本当に至る所で咲いている。
「うわー綺麗だ!」
「ああ、これは綺麗だな…」
思わずぽつりと呟けば、カーディも景色を眺めたままぽつりと答えてくれた。
この街の建物はほとんどが赤いレンガで作られているみたいで、まるで童話の中に飛び込んだような可愛らしい作りだ。しかもその横には透き通った水が緩やかに流れる水路まである。
そんなファンタジーな街並みに、たくさんの咲き乱れる花って似合いすぎだよね。色とかは全然違うけど、桜が咲いてる街並みを見た時みたいな謎の感動がある。
「クリス、これが見せたかったから、階段を勧めたかったのか?」
「ええ、まあ。あっちの道からだと、ここほど景色が良くないんですよ」
「そっか、ありがとな」
幸せそうに笑い合っているカーディとクリスさんを見て、俺は隣のハルをそっと見上げた。
「ハルも、同じ意見?」
「ああ。かと言ってこっちの方が景色が良いからなんて言ったら、感動が薄れるかと思ってな」
気に入った?と尋ねてきたハルに、俺は笑顔で思いっきり頷いた。
「なあ、アキト。ここってメロウさんが見せてくれた本の絵と一緒じゃないか?」
「あ、確かに!そう言われればそうだね!」
何となく見た事あるような気がしてたのはそれでか。ファンタジーな街並みとして知ってる雰囲気なだけかと思ってた。
「でも実物はメロウさんが見せてくれた本の絵よりも綺麗だけどな!」
「うん、あの絵も綺麗だと思ったけど、それ以上だね」
あの本の絵は全体的に淡い色合いで塗られてたから、余計にそう感じるのかもしれない。
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