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442.【ハル視点】処遇を決める

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 まだまだ褒めたりないという二人に便乗する形でもっとアキトが褒められるのを聞きたいと口にすれば、アキトは慌ててブンブンと手を振った。

「わー!この話は終わり!ここで終わりにしよう!ね?ね?」

 頬を真っ赤に染めながら必死で言いつのるアキトの可愛さは、正直やばかった。

 こんな可愛いアキトの姿を俺以外に見られたくは無いな。ちらりと視線を向ければ、カーディさんとクリスは苦笑を浮かべながら口を開いた。明らかに俺の独占欲に気づいて呆れてる顔だな。まあ通じて良かったけど。

「わかったよ、アキト。もう褒めない」

 カーディさんが代表してそう告げると、アキトはホッと息を吐いた。その素直な反応を愛でていたい気持ちを、俺はぐっと押し殺した。

 今はまだやるべき事があるからな。

「なあ、クリス」

 ふうと一つ息を吐いた俺は分かりやすく真剣な表情を作ってから、意味ありげにクリスに視線を向けた。

「はい、どうしました?」
「こいつら、どうするつもりなんだ?」
「ああ、そうでしたね」

 クリスは今思いだしたと言いたげな表情で軽く答えた。

「依頼人が言うなら、捕縛でも…それ以外でも、俺は何でもするぞ?」

 俺は出来る限りの悪い顔で微笑みながら、クリスに向かってそう声をかける。特に張り上げた声では無いが、静まり返った街道のこの距離なら間違いなく聞こえているだろう。

 クリスならここで命を奪えとは言わないだろう。そう分かった上での質問だったが、そんな事は知るよしもない男達は、捕縛か、死かと受け取ったようだ。

 分かりやすく震えながら、男達は身を寄せ合った。片手に剣を持ったままの、しかも自分たちでは勝てなかった魔物を倒してみせた奴に言われたらこんな反応にもなるか。まあ、剣をしまわなかったのはわざとだけどな。

 縋るように冒険者風の男達の視線がクリスに集まっていく。

 そこでカーディさんが動いた。ずっと黙り込んでいたカーディさんは、その視線を遮るようにクリスの前に一歩進むと男達をじろりと睨みつけた。

「未遂とは言え、俺達を襲おうとしてたんだもんなぁ?当然覚悟はあるよな?」

 凄むカーディさんの迫力は、なかなかのものだ。

「ひっ…!」
「すまなかった…!」
「ご、ごめんなさい」
「こんな依頼、受けるべきじゃなかった!」

 口々に謝る冒険者風の男達の言葉を、クリスは無表情のまま見つめていた。いつもニコニコしてるクリスだが、笑顔を消すとこんなに迫力があるんだな。俺は密かに感心しながら、真面目な顔で男達を睨みつけた。

「ク、クリス・ストファー!話がしたい…」

 震える声でクリスに声をかけたのは、依頼人だろうあの商人風の男だった。

「はい、何でしょうか?ムフィル商会の三男坊さん?」

 満面の笑みで答えたクリスに、商人の男は大きく目を見開いて固まった。なるほど、こいつはムフィル家の人間なのか。ムフィル家はストファーほどでは無いが、それなりに有名な魔道具店を営んでいる。堅実な商いをしていた父親が病気に倒れて、今は長男と次男で店をしていると聞いた事があるが…三男の情報は俺もよく知らない。

「な……俺の事を…知っていたのか?」
「ええ、当然お名前もきちんと覚えてますが…聞きたいですか?」

 名前は…なんだったか?父親の名前スマールだったのは覚えてるんだがな。

「い、いや、結構だ」
「そうですか…それで言いたい事は何ですか?」
「俺達の襲撃に気づいていたのに…それなのに、そこの二人に助けに行けと指示をしてくれたのか…?」

 どんな言葉が飛び出すのかと思っていたが、そんな事を聞きたかったのか。

 何で知ってるんだと言いたげに俺達の方を見たクリスに、アキトはそっと俺を見る事で答えた。俺は苦笑しながら、小さく片手をあげ俺が言ったと手をあげた。

「ええ、確かにそう言いましたが…それがどうかしましたか?」
「………ありがとう」

 は?今何か予想外の言葉が聞こえたな。雇われている男達もアキトもカーディさんも、そしてクリスまで、その場にいた全員が呆然と商人風の男を見つめていた。

「もし襲撃犯だからと見捨てられていたら、俺達は誰も生きていなかった…だから、ありがとう」
「あなた面白い人ですね?」

 一番最初に我に返ったクリスは、むしろ面白そうに笑ってみせた。

「そうか?そんな事は初めて言われたな」
「あ、一つだけ先に教えておきますね。もしあなたが俺達の命を狙って依頼をしていたなら、私は絶対に助けませんでしたよ」

 そこまでお人よしではないですと、クリスは笑って続けた。命を狙った依頼じゃないと断言するって事は、依頼を受ける前にそこまで知っていたって事か。その情報は俺達にも伝えてくれてなかったんだが?俺は少し呆れながら、クリスを見つめた。絶対に後で問い詰めてやる。

「ああ、そんな事までバレていたのか…」
「ええ、情報は商人の命ですからね」
「俺の負けだな。俺の命はどうとでもしてくれ。ムフィル商会に賠償を求めても構わない」

 ただもし許されるならこいつらの減刑はしてくれると嬉しいなんて付け加える男に、俺達は心底驚いてしまった。潔いというか、おもったより真面目な堅物というか。まあ、だから暴走して冒険者崩れに依頼なんかしたんだろうけど。

「そうですねぇ…まあ今回は私たちに被害は無いので、あなたを含めて全員見逃してあげます」
「クリス!それは…!」

 カーディさんは不服そうに声をあげた。

 いくら俺達の命までは狙っていなかったとしても、襲撃しようとしていたのは事実だ。それなら衛兵に突き出すぐらいの事はしないと駄目だろうと俺も思う。

「カーディ、最後まで聞いてから考えて」
「っ!…分かった」
「ただし今度私たちを狙ってきたら、それが命に関わる依頼であってもなくても全力で叩き潰します。ムフィル商会も当然潰しますし、あなたたちの命の保証もしません」

 ああ、これはもちろんあなたたちにも適応しますからと、クリスは小さくなっている依頼を受けた男達を順番に見つめていった。

「記憶力には自信があるので、しっかりあなたたちの顔は覚えておきますからね」
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