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437.【ハル視点】襲撃未遂犯たち
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そっと耳を澄ませば、まずベキベキと木々がへし折れる音が聞こえてきた。次に聞こえてきたのは、逃げ惑う男達の必死な叫び声と恐怖や痛みを含んだ悲鳴だ。
「うわぁぁぁぁ!」
「ひっ…なんでっ…!?」
「嘘だろっ…逃げっ…うわっ!」
「くるなぁぁぁぁぁ!」
「ぐっ…!痛っ!」
ああ、これは間違いなく確実に襲われているな。
「ハル、あの悲鳴って…」
「あー…さっき俺が怪しいって言ってた気配の奴らだよ。多分、背後への警戒を怠ってたんだろうな…」
少しずつ魔物が近づいているのは分かっていたが、まさかここまで無警戒だとは思っていなかった。苦笑しながらそう続けた俺に、アキトは大きく目を見開いた。無言のまま耳を澄ませているクリスの隣で、カーディさんは呆れを隠さずに口を開く。
「ああ、そういう事か。ちゃんと警戒してなかったせいで、背後から魔物にでも襲われたんだな。背後への警戒なんて、冒険者の基本だろうに…」
人を狙った依頼を受けるなら、冒険者というより冒険者崩れか。この調子じゃ相手は凄腕じゃなさそうだなーなんてさらりと言ってのけるカーディさんの顔に、動揺の色は一切無かった。
「にげろっ!街道の方へっ!」
そんな叫び声が聞こえてきたと思ったら、ヒステリックな声が叫び返すのが聞こえた。
「私は依頼人だぞ!?依頼人に命令をするなっ!」
「はぁ?死にたいなら、そのままそこにいれば良いっ!」
「そんな事は言ってないだろう!」
「いいから走れっ!」
たまにいるんだよなこういう依頼人。そう言うなら自分で撤退命令を出せば良いと思うんだが。第一、魔物に襲われている状況で仲間割れなんてしている場合か。
俺は呆れながら、ちらりとクリスに視線を向けた。
「…クリス、どうする?」
おそらくあいつらは俺達の所に何食わぬ顔で逃げてきて、そのまま魔物をおしつけるつもりだろう。
「そうですね…魔物の種類が何かは分かりますか?」
「種類までは分からないが、おそらく大型の狼系だと思う」
「倒せますか?」
端的なクリスのその質問に、俺はにやりと笑って答えた。
「俺とアキトなら、余裕で倒せる」
狼系の魔物というのは、大きさの違いこそあれ敏捷性で勝負してくる事が多い。素早い動きで手数が多い俺とは元々相性が良い魔物だし、その上にアキトの補助魔法と牽制の土魔法があれば、万に一つも俺が負ける事は無い。
「そうですか…それなら、彼らを助けてあげて下さい。ただし危険だと思ったら、自分たち優先ですぐに撤退を」
それだけは約束して下さいと続けるクリスさんに、俺はすぐに頷いた。
「分かった。カーディさん、少しの間、クリスを頼んでも良いか?」
俺とアキトが離れると言う事は、クリスの守りが薄くなる。気配探知によれば魔物に襲われているあいつらしか、近くに人の気配は無い。それでも魔物の気配はいくつか森の中を移動している。
「ああ、俺の伴侶だ。言われなくても自分で守る」
既に剣を抜いて構えていたカーディさんは、真剣な表情で周囲を警戒していた。普段の明るい姿とは全く違う、歴戦の冒険者の顔だった。カーディさんは期待以上に強そうだな。その構えから力量を読み取った俺は、うっすらと笑みを浮かべた。これなら、俺達は魔物にだけ集中できそうだ。
「どうかお気をつけて」
「アキト、行くよ」
「うんっ!」
音のする方へとまっすぐに街道を進んでいけば、ちょうど数人の男達がまるで転がるようにして森から飛び出してくる所だった。全員があちこちすり傷だらけだが、少なくとも動けないような重傷者はいないみたいだな。
「た、助けてくれ!」
「そこのあんた達、頼む!助けて!」
「アレは俺達じゃ無理だ!」
「れ、礼ならするからっ!助けてくれっ!」
走って近づいていく俺達に気づいたのか、男達はなりふり構わず助けを求めてくる。襲撃予定なんてありませんでしたと言いたげな縋るようなその目に、じわじわと苛立ちがつのる。
「俺達にまかせて、そこでじっとしてろ!」
そう叫び返しはしたが、我ながら冷たい声が出たな。まあ、こいつらに優しくするつもりなんてかけらも無いんだが。
「じゃ、じゃあ助けてくれるのか?」
言質を取ろうとしてくるこいつが、おそらくこの集団のリーダーだろうな。
「俺達の依頼人が助けてあげて下さいと言ったからな!少なくとも後ろの魔物はまかせて良い!」
俺が返した言葉に、男達は見捨てられなかったとホッと息を吐いた。
「あ、ありがとう」
「た、助かるのか…?」
「きちんと礼をするよっ!」
口々にお礼の言葉を返してくる男達の姿を、俺は順番にゆっくりと見比べた。
元冒険者と、ただ冒険者っぽい装備を着ているだけの奴もいるな。リーダーらしき奴だけは、現役の冒険者かもしれないが。
そんな冒険者風の厳つい男達の一団の中に、一人だけ場違いな商人風の男が混ざっている。ああ、こいつがさっき依頼人に命令するなと叫んでいた奴だな。つまりストファー魔道具店を狙っている依頼人が、こいつか。
「ああ、お礼なら…」
片手の怪我を手で押さえながら震えているその男を、俺はジロリと睨みつけてから口を開いた。
「お前たちが狙っていた、クリス・ストファーに直接言ってくれ」
「うわぁぁぁぁ!」
「ひっ…なんでっ…!?」
「嘘だろっ…逃げっ…うわっ!」
「くるなぁぁぁぁぁ!」
「ぐっ…!痛っ!」
ああ、これは間違いなく確実に襲われているな。
「ハル、あの悲鳴って…」
「あー…さっき俺が怪しいって言ってた気配の奴らだよ。多分、背後への警戒を怠ってたんだろうな…」
少しずつ魔物が近づいているのは分かっていたが、まさかここまで無警戒だとは思っていなかった。苦笑しながらそう続けた俺に、アキトは大きく目を見開いた。無言のまま耳を澄ませているクリスの隣で、カーディさんは呆れを隠さずに口を開く。
「ああ、そういう事か。ちゃんと警戒してなかったせいで、背後から魔物にでも襲われたんだな。背後への警戒なんて、冒険者の基本だろうに…」
人を狙った依頼を受けるなら、冒険者というより冒険者崩れか。この調子じゃ相手は凄腕じゃなさそうだなーなんてさらりと言ってのけるカーディさんの顔に、動揺の色は一切無かった。
「にげろっ!街道の方へっ!」
そんな叫び声が聞こえてきたと思ったら、ヒステリックな声が叫び返すのが聞こえた。
「私は依頼人だぞ!?依頼人に命令をするなっ!」
「はぁ?死にたいなら、そのままそこにいれば良いっ!」
「そんな事は言ってないだろう!」
「いいから走れっ!」
たまにいるんだよなこういう依頼人。そう言うなら自分で撤退命令を出せば良いと思うんだが。第一、魔物に襲われている状況で仲間割れなんてしている場合か。
俺は呆れながら、ちらりとクリスに視線を向けた。
「…クリス、どうする?」
おそらくあいつらは俺達の所に何食わぬ顔で逃げてきて、そのまま魔物をおしつけるつもりだろう。
「そうですね…魔物の種類が何かは分かりますか?」
「種類までは分からないが、おそらく大型の狼系だと思う」
「倒せますか?」
端的なクリスのその質問に、俺はにやりと笑って答えた。
「俺とアキトなら、余裕で倒せる」
狼系の魔物というのは、大きさの違いこそあれ敏捷性で勝負してくる事が多い。素早い動きで手数が多い俺とは元々相性が良い魔物だし、その上にアキトの補助魔法と牽制の土魔法があれば、万に一つも俺が負ける事は無い。
「そうですか…それなら、彼らを助けてあげて下さい。ただし危険だと思ったら、自分たち優先ですぐに撤退を」
それだけは約束して下さいと続けるクリスさんに、俺はすぐに頷いた。
「分かった。カーディさん、少しの間、クリスを頼んでも良いか?」
俺とアキトが離れると言う事は、クリスの守りが薄くなる。気配探知によれば魔物に襲われているあいつらしか、近くに人の気配は無い。それでも魔物の気配はいくつか森の中を移動している。
「ああ、俺の伴侶だ。言われなくても自分で守る」
既に剣を抜いて構えていたカーディさんは、真剣な表情で周囲を警戒していた。普段の明るい姿とは全く違う、歴戦の冒険者の顔だった。カーディさんは期待以上に強そうだな。その構えから力量を読み取った俺は、うっすらと笑みを浮かべた。これなら、俺達は魔物にだけ集中できそうだ。
「どうかお気をつけて」
「アキト、行くよ」
「うんっ!」
音のする方へとまっすぐに街道を進んでいけば、ちょうど数人の男達がまるで転がるようにして森から飛び出してくる所だった。全員があちこちすり傷だらけだが、少なくとも動けないような重傷者はいないみたいだな。
「た、助けてくれ!」
「そこのあんた達、頼む!助けて!」
「アレは俺達じゃ無理だ!」
「れ、礼ならするからっ!助けてくれっ!」
走って近づいていく俺達に気づいたのか、男達はなりふり構わず助けを求めてくる。襲撃予定なんてありませんでしたと言いたげな縋るようなその目に、じわじわと苛立ちがつのる。
「俺達にまかせて、そこでじっとしてろ!」
そう叫び返しはしたが、我ながら冷たい声が出たな。まあ、こいつらに優しくするつもりなんてかけらも無いんだが。
「じゃ、じゃあ助けてくれるのか?」
言質を取ろうとしてくるこいつが、おそらくこの集団のリーダーだろうな。
「俺達の依頼人が助けてあげて下さいと言ったからな!少なくとも後ろの魔物はまかせて良い!」
俺が返した言葉に、男達は見捨てられなかったとホッと息を吐いた。
「あ、ありがとう」
「た、助かるのか…?」
「きちんと礼をするよっ!」
口々にお礼の言葉を返してくる男達の姿を、俺は順番にゆっくりと見比べた。
元冒険者と、ただ冒険者っぽい装備を着ているだけの奴もいるな。リーダーらしき奴だけは、現役の冒険者かもしれないが。
そんな冒険者風の厳つい男達の一団の中に、一人だけ場違いな商人風の男が混ざっている。ああ、こいつがさっき依頼人に命令するなと叫んでいた奴だな。つまりストファー魔道具店を狙っている依頼人が、こいつか。
「ああ、お礼なら…」
片手の怪我を手で押さえながら震えているその男を、俺はジロリと睨みつけてから口を開いた。
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