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436.【ハル視点】不審な気配
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ナルイット領とイーシャル領の境界を、俺達は四人揃って無事に通過した。境界とはいっても、ここにも看板ぐらいしかないんだけどな。
トライプールとナルイット、イーシャル領は、比較的仲が良いこの辺りの領の中でも、特に友好的な関係を作り上げている領だ。川を通ればすぐに行き来ができるからと領主や衛兵、騎士団の交流も盛んに行われているし、領民たちの移動にもこれといった制限は無い。
普通に検問がある領の境界も、一度くらいはアキトに経験してもらった方が良いのかもしれないな。どこの検問が良いだろうかと考えながら、俺達はさらに街道を進んだ。
事前にクリスと相談していた通り、俺達は三つ目の分岐を左へと進んだ。ここで一気に人が減るが、その方が通行人を警戒しなくて良いからとあえて選んだ道だった。
「あれ?…みんなあっちの道に行くんだ?」
たくさんの人が進んでいく道の先を、アキトは興味深そうに見つめながらぽつりとそう呟いた。
「ああ、あの先には大きな町があるから」
あの先にあるのは、セベラックというイーシャル領で二番目に大きな町だ。もしこれがアキトと二人だけの旅だったら、きっと立ち寄っていただろうな。
「へーそれにしても一気に人が減るんだね」
「イーシャル領の領都を目指すなら、馬車で移動できる道を選ぶのが一般的だからね」
領都まではその方が早く着くからな。この街道を選んだ人は、半分以上がセベラックを目指している筈だ。アキトはなるほどと頷いてから、真剣な顔で俺を見上げてきた。襲撃が近いんだよねと言いたげな視線に、俺は一つ頷きを返した。
ここからは、まっすぐ進めば領都まで辿り着く一本道だ。疲れ果ててしまわないように何度か軽い休憩を挟みながら、俺達はひたすらに街道を進み続けた。
警戒を強めていた俺の気配探知に反応があったのは、かなりの距離を進んでからだった。そっと立ち止まれば、アキトもクリスもカーディさんも不思議そうに俺を見つめてきた。
「ハル…?」
「全員、止まって。気配探知に怪しい反応がある…」
小さな声でそう告れば、全員が慌てて立ち止まってくれた。
「反応までの距離は、近いか?」
カーディさんは油断なく周りを見渡しながら、小声でそう俺に尋ねてきた。
「いや、まだもう少し先だ。……少しだけ待ってくれ」
気配を探る事だけに集中するために、俺はそっと両目をつむった。ああ、間違いなくいるな。気配の数は…五人か。
ぱちりと目を開けば、アキトは既に魔力を練り上げていた。俺が目をつむっているからと、俺の代わりに周りを警戒してくれていたんだろうな。そう思うと、近くに襲撃犯がいるにも関わらず胸の中が温かくなった。
「みんな、この先を右に曲がった所に、森があるのは知ってるか?」
クリスとアキトはふるふると首を振って答えたけれど、カーディさんは一つ頷いてから口を開いた。
「ああ、冒険者の採取地にも指定されてるイールの森だな」
「そうだ。位置はちょうどその辺りだな」
「ならもう少し先だな」
「そのイールの森の中から、街道を伺ってる不審な気配があるんだ」
街道から採取地の様子を見ているならともかく、採取地から街道を見張るなんて普通の冒険者がする事じゃない。そう告げれば三人は大きく頷いてくれた。
仮にそれが俺達を狙った襲撃でなくても、盗賊の可能性もある。
「アキト、心得は覚えてるか?」
カーディさんの言葉に、アキトはぱちりと一つ瞬きをしてから口を開いた。
「えーっと『人相手に攻撃するのが苦手なら、気絶させるか捕縛してから衛兵に突き出せば良い』だよね」
そう口に出したアキトは、緊張しながらもうっすらと笑みを浮かべた。
「うん、しっかり覚えてるよ。ありがと、カーディ」
「ああ、それなら大丈夫だ!」
「大丈夫そうなら、行こうか。ここにいても仕方ないしね」
あえて軽い口調でそう口にすると、俺はいつでも剣が抜ける位置にそっと手を添えた。カーディさんも腰にかけた剣に軽く片手を乗せて、準備万端だ。あー…クリスの手が鞄にかかっているのだけが、少し気になるな。何事かがあれば魔道具を取り出す気なんだろうな。
「では、行きましょうか」
「おう」
「はい」
警戒したまま慎重に道を曲がりかけたその瞬間、俺は予想外の出来事に驚きの声を上げてしまった。
「えっ…!?」
「え、ハルどうしたの?」
「あー…びっくりさせてごめん。ちょっと予想外の事態が起きそうだ」
落ち着いて聞いて欲しいんだけどと続ける前に、森の中から盛大な悲鳴と叫び声が聞こえてきた。
トライプールとナルイット、イーシャル領は、比較的仲が良いこの辺りの領の中でも、特に友好的な関係を作り上げている領だ。川を通ればすぐに行き来ができるからと領主や衛兵、騎士団の交流も盛んに行われているし、領民たちの移動にもこれといった制限は無い。
普通に検問がある領の境界も、一度くらいはアキトに経験してもらった方が良いのかもしれないな。どこの検問が良いだろうかと考えながら、俺達はさらに街道を進んだ。
事前にクリスと相談していた通り、俺達は三つ目の分岐を左へと進んだ。ここで一気に人が減るが、その方が通行人を警戒しなくて良いからとあえて選んだ道だった。
「あれ?…みんなあっちの道に行くんだ?」
たくさんの人が進んでいく道の先を、アキトは興味深そうに見つめながらぽつりとそう呟いた。
「ああ、あの先には大きな町があるから」
あの先にあるのは、セベラックというイーシャル領で二番目に大きな町だ。もしこれがアキトと二人だけの旅だったら、きっと立ち寄っていただろうな。
「へーそれにしても一気に人が減るんだね」
「イーシャル領の領都を目指すなら、馬車で移動できる道を選ぶのが一般的だからね」
領都まではその方が早く着くからな。この街道を選んだ人は、半分以上がセベラックを目指している筈だ。アキトはなるほどと頷いてから、真剣な顔で俺を見上げてきた。襲撃が近いんだよねと言いたげな視線に、俺は一つ頷きを返した。
ここからは、まっすぐ進めば領都まで辿り着く一本道だ。疲れ果ててしまわないように何度か軽い休憩を挟みながら、俺達はひたすらに街道を進み続けた。
警戒を強めていた俺の気配探知に反応があったのは、かなりの距離を進んでからだった。そっと立ち止まれば、アキトもクリスもカーディさんも不思議そうに俺を見つめてきた。
「ハル…?」
「全員、止まって。気配探知に怪しい反応がある…」
小さな声でそう告れば、全員が慌てて立ち止まってくれた。
「反応までの距離は、近いか?」
カーディさんは油断なく周りを見渡しながら、小声でそう俺に尋ねてきた。
「いや、まだもう少し先だ。……少しだけ待ってくれ」
気配を探る事だけに集中するために、俺はそっと両目をつむった。ああ、間違いなくいるな。気配の数は…五人か。
ぱちりと目を開けば、アキトは既に魔力を練り上げていた。俺が目をつむっているからと、俺の代わりに周りを警戒してくれていたんだろうな。そう思うと、近くに襲撃犯がいるにも関わらず胸の中が温かくなった。
「みんな、この先を右に曲がった所に、森があるのは知ってるか?」
クリスとアキトはふるふると首を振って答えたけれど、カーディさんは一つ頷いてから口を開いた。
「ああ、冒険者の採取地にも指定されてるイールの森だな」
「そうだ。位置はちょうどその辺りだな」
「ならもう少し先だな」
「そのイールの森の中から、街道を伺ってる不審な気配があるんだ」
街道から採取地の様子を見ているならともかく、採取地から街道を見張るなんて普通の冒険者がする事じゃない。そう告げれば三人は大きく頷いてくれた。
仮にそれが俺達を狙った襲撃でなくても、盗賊の可能性もある。
「アキト、心得は覚えてるか?」
カーディさんの言葉に、アキトはぱちりと一つ瞬きをしてから口を開いた。
「えーっと『人相手に攻撃するのが苦手なら、気絶させるか捕縛してから衛兵に突き出せば良い』だよね」
そう口に出したアキトは、緊張しながらもうっすらと笑みを浮かべた。
「うん、しっかり覚えてるよ。ありがと、カーディ」
「ああ、それなら大丈夫だ!」
「大丈夫そうなら、行こうか。ここにいても仕方ないしね」
あえて軽い口調でそう口にすると、俺はいつでも剣が抜ける位置にそっと手を添えた。カーディさんも腰にかけた剣に軽く片手を乗せて、準備万端だ。あー…クリスの手が鞄にかかっているのだけが、少し気になるな。何事かがあれば魔道具を取り出す気なんだろうな。
「では、行きましょうか」
「おう」
「はい」
警戒したまま慎重に道を曲がりかけたその瞬間、俺は予想外の出来事に驚きの声を上げてしまった。
「えっ…!?」
「え、ハルどうしたの?」
「あー…びっくりさせてごめん。ちょっと予想外の事態が起きそうだ」
落ち着いて聞いて欲しいんだけどと続ける前に、森の中から盛大な悲鳴と叫び声が聞こえてきた。
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