生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
435 / 1,179

434.【ハル視点】果物の食べ歩き

しおりを挟む
 船着き場を後にした俺達は、すぐに歩き出した。ここからは手を繋げないのが、ひどく残念だ。少しでも気を緩めるとすぐに手を繋ぎにいってしまいそうな自分に苦笑が漏れる。

「どの道で行きましょうか?」

 クリスは、俺を見つめながらそう尋ねた。

 この辺りにはいくつかの街道があって、そのどの道を選んでも目的地であるイーシャル領の領都には辿り着く。経由地が違うのと、道幅が違うぐらいの差しか存在しないんだよな。

「やっぱり道幅が狭くて馬車が入れない、あの道が良いと思うんだが…どうだろう?」
「そうですね、その方が良いと私も思います」
「襲撃が起きるとしたら人が減ってからだと思うから、最初の分岐はどちらへ進んでも良いと思うんだけど、どうする?」
「うーん、それなら二つ目の分岐までは右に進んで、三つ目を左…でしょうか?」
「ああ、そうだな、左の方が見通しが良い道が多いからな」

 これから進む道を二人で相談していると、不意にアキトとカーディさんが深呼吸をしたのが目に止まった。

「じゃあ左の道にしようか」
「ええ、やっぱり三つ目は左の道が良いと思います」

 俺もクリスも何とか会話は続けたが、どうしてもそちらに意識を持っていかれてしまう。

 ちらりと見つめる俺達の前で、二人は揃って思いっきり伸びをした。

「「んんー!」」

 声まで綺麗に重なったなと思った瞬間、二人は顔を見合わせて楽しそうに笑いだした。

 可愛い。それ以外の感想が出てこないな。

 今の見たかと視線だけを向ければ、クリスも真剣な表情のまま視線だけで見ましたと返してくる。徒歩の良さについて語り合いだした二人の横で、俺とクリスは伴侶候補と伴侶の可愛さを堪能してしまった。



 俺達が選んだ街道は、道幅が狭い事もあり比較的空いていた。船着き場からは馬車で移動する人が多いから、馬車が通れる道幅の道が一番混雑するのが常だ。

 徒歩移動の人達がぽつぽつと歩く中、俺達は買ったばかりの果物を齧りながら歩いていく。

「あ、これ…美味いな!すっごく好きな味だ」
「え、どれですか?」
「それそれ、その白いやつ」

 色んな屋台で買ったから名前までは分からないけどと言ったカーディさんに、クリスは苦笑を洩らしながら白い果実に齧りついた。

「ああ。本当だ。これはかなり美味しいですね」
「お、やっぱりクリスも好きな味だったか!」
「名前が分かればまた買えるんですが…名前が分からないのは困りますね」

 しょんぼりしたクリスの声に本気の残念さを感じ取った俺は、ちらりと後ろを振り返った。

「クリス、それはエリーアっていう果物だよ」
「あー…そういえば、採れたてだって言ってるの買った気がする。ハル、教えてくれてありがと」
「これがエリーアですか…ハル、ありがとうございます」

 揃ってお礼を言ってくる二人に、俺は笑って答えた。

「どういたしまして」

 アキトはキラキラした尊敬の眼差しで俺を見つめてくれた。さすがハルだねとアキトに言われるのが一番嬉しいな。こんな目でみてもらうためなら、これからも知識を増やしていかないと。俺は密かにそう決意しながら、手の中のリオジュを口に運んだ。



 歩きながら何かを食べるのは、冒険者や旅人にとっては至って普通の行為だ。

 一方で騎士は移動しながら何かを食べる事は滅多にしない。どうしても周りの目があるからな。本気の行軍の時に、こっそりと干し肉を齧りながらウマに乗った事はあるが、それぐらいだろう。だから、最初は戸惑ったのをよく覚えている。

 ちらりと視線を向けてみたアキトは、美味しそうに果物を口に放り込んでいる所だった。こういう食べ方もアキトは苦手じゃないみたいだな。戸惑いが無いなら良かったと安堵しながら見つめていると、アキトはさらりと浄化魔法を使って手を綺麗にしてみせた。

「アキト、もう良いの?」
「うん、ハルも?」
「ああ、俺も満足したよ」

 そう答えるなりさっと俺の手にも浄化魔法をかけてくれるアキトは、本当に良い伴侶だと思う。あ、いや、まだ伴侶候補か。早く胸を張って俺の伴侶だと言いきれるようになりたいな。

「アキト、食事が終わったなら一つだけ良いかな?」

 どうしてもこれだけは、襲撃前に言っておかないと駄目だと思っていたんだ。急に真剣な表情になった俺に気づくと、アキトはすぐに真剣な顔で俺を見返した。

「このまま行けば、もうすぐナルイット領とイーシャル領の境界を超える事になる」
「うん」
「俺の予想では、襲撃があるとしたらこの街道が一番確率が高いと思うんだ」
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

異世界に召喚されて失明したけど幸せです。

るて
BL
僕はシノ。 なんでか異世界に召喚されたみたいです! でも、声は聴こえるのに目の前が真っ暗なんだろう あ、失明したらしいっす うん。まー、別にいーや。 なんかチヤホヤしてもらえて嬉しい! あと、めっちゃ耳が良くなってたよ( ˘꒳˘) 目が見えなくても僕は戦えます(`✧ω✧´)

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...