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434.【ハル視点】果物の食べ歩き

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 船着き場を後にした俺達は、すぐに歩き出した。ここからは手を繋げないのが、ひどく残念だ。少しでも気を緩めるとすぐに手を繋ぎにいってしまいそうな自分に苦笑が漏れる。

「どの道で行きましょうか?」

 クリスは、俺を見つめながらそう尋ねた。

 この辺りにはいくつかの街道があって、そのどの道を選んでも目的地であるイーシャル領の領都には辿り着く。経由地が違うのと、道幅が違うぐらいの差しか存在しないんだよな。

「やっぱり道幅が狭くて馬車が入れない、あの道が良いと思うんだが…どうだろう?」
「そうですね、その方が良いと私も思います」
「襲撃が起きるとしたら人が減ってからだと思うから、最初の分岐はどちらへ進んでも良いと思うんだけど、どうする?」
「うーん、それなら二つ目の分岐までは右に進んで、三つ目を左…でしょうか?」
「ああ、そうだな、左の方が見通しが良い道が多いからな」

 これから進む道を二人で相談していると、不意にアキトとカーディさんが深呼吸をしたのが目に止まった。

「じゃあ左の道にしようか」
「ええ、やっぱり三つ目は左の道が良いと思います」

 俺もクリスも何とか会話は続けたが、どうしてもそちらに意識を持っていかれてしまう。

 ちらりと見つめる俺達の前で、二人は揃って思いっきり伸びをした。

「「んんー!」」

 声まで綺麗に重なったなと思った瞬間、二人は顔を見合わせて楽しそうに笑いだした。

 可愛い。それ以外の感想が出てこないな。

 今の見たかと視線だけを向ければ、クリスも真剣な表情のまま視線だけで見ましたと返してくる。徒歩の良さについて語り合いだした二人の横で、俺とクリスは伴侶候補と伴侶の可愛さを堪能してしまった。



 俺達が選んだ街道は、道幅が狭い事もあり比較的空いていた。船着き場からは馬車で移動する人が多いから、馬車が通れる道幅の道が一番混雑するのが常だ。

 徒歩移動の人達がぽつぽつと歩く中、俺達は買ったばかりの果物を齧りながら歩いていく。

「あ、これ…美味いな!すっごく好きな味だ」
「え、どれですか?」
「それそれ、その白いやつ」

 色んな屋台で買ったから名前までは分からないけどと言ったカーディさんに、クリスは苦笑を洩らしながら白い果実に齧りついた。

「ああ。本当だ。これはかなり美味しいですね」
「お、やっぱりクリスも好きな味だったか!」
「名前が分かればまた買えるんですが…名前が分からないのは困りますね」

 しょんぼりしたクリスの声に本気の残念さを感じ取った俺は、ちらりと後ろを振り返った。

「クリス、それはエリーアっていう果物だよ」
「あー…そういえば、採れたてだって言ってるの買った気がする。ハル、教えてくれてありがと」
「これがエリーアですか…ハル、ありがとうございます」

 揃ってお礼を言ってくる二人に、俺は笑って答えた。

「どういたしまして」

 アキトはキラキラした尊敬の眼差しで俺を見つめてくれた。さすがハルだねとアキトに言われるのが一番嬉しいな。こんな目でみてもらうためなら、これからも知識を増やしていかないと。俺は密かにそう決意しながら、手の中のリオジュを口に運んだ。



 歩きながら何かを食べるのは、冒険者や旅人にとっては至って普通の行為だ。

 一方で騎士は移動しながら何かを食べる事は滅多にしない。どうしても周りの目があるからな。本気の行軍の時に、こっそりと干し肉を齧りながらウマに乗った事はあるが、それぐらいだろう。だから、最初は戸惑ったのをよく覚えている。

 ちらりと視線を向けてみたアキトは、美味しそうに果物を口に放り込んでいる所だった。こういう食べ方もアキトは苦手じゃないみたいだな。戸惑いが無いなら良かったと安堵しながら見つめていると、アキトはさらりと浄化魔法を使って手を綺麗にしてみせた。

「アキト、もう良いの?」
「うん、ハルも?」
「ああ、俺も満足したよ」

 そう答えるなりさっと俺の手にも浄化魔法をかけてくれるアキトは、本当に良い伴侶だと思う。あ、いや、まだ伴侶候補か。早く胸を張って俺の伴侶だと言いきれるようになりたいな。

「アキト、食事が終わったなら一つだけ良いかな?」

 どうしてもこれだけは、襲撃前に言っておかないと駄目だと思っていたんだ。急に真剣な表情になった俺に気づくと、アキトはすぐに真剣な顔で俺を見返した。

「このまま行けば、もうすぐナルイット領とイーシャル領の境界を超える事になる」
「うん」
「俺の予想では、襲撃があるとしたらこの街道が一番確率が高いと思うんだ」
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