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433.【ハル視点】思い出の果実
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そっと口を開けてカーディさんお勧めの果実に齧りついたアキトは、次の瞬間大きく目を見開いた。
「美味しいっ!」
パァッと笑顔になったその表情だけで、本当に美味しいと思ってるんだなと伝わってくるな。アキトの表情を見たおばあさんとカーディさんも、嬉しそうに笑っている。
アキトがハルも食べてと言いたげにこちらを見たのに気づいて、俺は慌てて果肉を口に運んだ。濃厚な甘みがあるのに、どこかさっぱりとした風味も感じる。今まで食べた事の無い味だが、これは確かに美味いしクセになりそうだ。
「ああ、これは確かにクセになる美味さだな」
「だよね!美味しいよね!」
「うん、名前は知ってたけど、俺も初めて食べたよ」
嬉しそうに尋ねてくるアキトにふわりと微笑みながらそう答えたけど、そっと視線を反らされてしまった。うーん、これはもしかして照れてる反応かな。アキトの照れる条件がまだよく分かってないんだよな。
まあこれから時間をかけて、ゆっくり分かっていけば良いか。
「ああ、これがカーディがよく話してたチルーですか…本当に美味しいですね」
じっくりとチルーを味わっていたクリスは、食べ終わるなりおばあさんに丁寧にお礼を言い始めた。伴侶が食べたがっていた故郷の味だもんな。そう言いたくなる気持ちは分かる。
カーディさんの出身だという南の方は、この辺りと比べると領の仲が極めて悪い地域だ。領の間で戦闘が起きるような場所だから、なかなか気軽には帰れないんだろう。
俺達の感想を聞いたおばあさんとカーディさんは、視線を交わすと二人揃って誇らし気に笑みを浮かべた。
「地元の特産を褒められるってのは、こんなに嬉しいもんなんだねぇ」
「ああ、俺も嬉しかったよ。地元の味を友人と伴侶に食べて貰えたんだから」
カーディさんは嬉しそうに笑っておばあさんに礼を告げた。隣でクリスが叫びだしそうな自分の口を押さえてるんだが、さすがにここで叫ぶのは俺も駄目だと思う。
おばあさんは一瞬だけ大きく目を見開いてから、ふわりと幸せそうな笑みを浮かべた。
「ああ、売ってて良かった…って初めて思ったよ」
その言葉を聞いたクリスは、不思議そうにしながらも尋ねた。
「え、初めて…ですか?」
これだけ美味しいなら人気があると思うんですが…?と、心底不思議そうなクリスに、おばあさんはふふと笑って続けた。
「チルーは味はそりゃあ美味しいけどね、値段もちょっと高めだし、見た目がほら…地味だからねぇ」
ああ、なるほど。確かに俺も最初に見た時は、地味だなと思ったな。
「だからあまり売れないんだよ」
元々味を知ってる旅人とか、南出身の人が懐かしいとたまに買ってくれるぐらいなんだそうだ。そんなおばあさんの打ち明け話を、カーディさんは少し寂しそうに聞いていた。
それでも故郷への思いで置き続けてるんだけどねと明るく笑うおばあさんと、そのおかげで久しぶりに食べれたよと告げるカーディさんは、なんだかまるで本当の祖母と孫のように見えてくる。なんとも微笑ましい光景だ。
あと、クリスは少し落ち着いた方が良いと思う。あまり売れないなら、買い占めても良いかなとか考えているんだろうな。気持ちは分かるけれど、いそいそと財布を取り出すのはどうかと思うぞ。
すっかり意気投合したおばあさんとカーディさんは、今度は好きだった地元の食べ物の話で盛り上がりだした。木の実から搾った油を使って焼く薄いパンか、それも美味しそうだな。いつかアキトと一緒に食べてみたい。
ちらりとアキトの様子を見てみれば、嬉しそうに二人の会話を聞いていた。アキトの邪魔はしたくないけれど、この屋台に来た時から気になっていた物があるんだよな。
「アキト」
こっそりと小さな声で話しかければ、アキトはパッと俺の方を向いてくれた。
「こっちの箱の果物、覚えてる?」
ずっと気になっていた箱をそっと指差せば、すぐに目を輝かせながら答えが返ってきた。
「赤と青のグラデーション…あ、ジウプの果実!?」
ナルクアの森のやつ?と聞かれるかと思ったのに、きちんと名前まで覚えていたのか。さすがアキトだな。
あの時は、アキトもまだ今ほど体力が無かった。突然異世界に飛ばされて戸惑っていただろうに、出会ったばかりの幽霊の指示に従って懸命に歩いてくれるたんだよな。そんなアキトに、少しでも元気になって欲しくてジウプの果実を教えたんだ。
「そうそう、なんだかすごく懐かしいなと思って」
「うん、懐かしいな。そういえば味も美味しかったよね」
アキトも懐かしいと思ってくれるんだな。俺にとっての思い出の果実だけど、アキトにとっても同じならすごく嬉しい。
ジウプの果実はバラ―ブ村とトライプールで売ってしまったから、そういえば魔導収納鞄にも在庫は無いのか。
「買っていこうか?」
「うんっ!」
「あ、リオジュもある!こっちの紫の実がリオジュっていう果物なんだけど、これも美味しいんだ。俺も好きな果物だよ」
「へーじゃあそれも買おう!俺もハルの好きな味、食べてみたいし」
俺の好きな味だから食べてみたい。さらりとそう言ってくれるアキトに、じわりと胸が温かくなった。
三人の会話の邪魔をしないように小声でひそひそと話し合いながら、俺達は買いたいものを相談し始めた。
「たくさんありがとうねぇ」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
「ありがとう」
「チルー、美味しかったです!」
たっぷりと果物を買い込んだ俺達は、おばあさんに声をかけてから屋台を離れた。再会の約束をするカーディさんの後ろで、クリスがコクコクと何度も頷いていたからきっとすぐにまた訪れる事になるんだろうな。
「いらっしゃい!今朝採れたてのエリーアはどうだい?」
「そこのお兄さん、ちょっと見ていってよ」
そんな呼び込みの声を聞き流しながら、俺達は市場の中を移動していく。
楽しそうに周りを見回しているアキトのためにも、できる事ならゆっくりと市場を見て回りたい。そうは思うけれど、これからの予定もあるからな。そうのんびりもしていられない。
また来れば良いと自分に言い聞かせながら、俺達は気になる果物があったら悩まずにすぐに購入して、それぞれの魔導収納鞄に詰め込んでいくという買い物を続けていた。
「そろそろ終わりにしましょうか?」
「ああ、俺はそれで良いけど…アキトももう良いか?」
「うん、いっぱい買っちゃった」
買いすぎたかなと心配するアキトに、カーディさんは笑顔で答える。
「アキトもかー俺も買いまくったぞ。後で交換しような!」
「カーディも、もう良いんですね?」
「ああ、満足だ」
「では、そろそろ行きましょうか?」
「おう」
「はい」
「分かった」
さあ、ここからは徒歩での移動だな。
「美味しいっ!」
パァッと笑顔になったその表情だけで、本当に美味しいと思ってるんだなと伝わってくるな。アキトの表情を見たおばあさんとカーディさんも、嬉しそうに笑っている。
アキトがハルも食べてと言いたげにこちらを見たのに気づいて、俺は慌てて果肉を口に運んだ。濃厚な甘みがあるのに、どこかさっぱりとした風味も感じる。今まで食べた事の無い味だが、これは確かに美味いしクセになりそうだ。
「ああ、これは確かにクセになる美味さだな」
「だよね!美味しいよね!」
「うん、名前は知ってたけど、俺も初めて食べたよ」
嬉しそうに尋ねてくるアキトにふわりと微笑みながらそう答えたけど、そっと視線を反らされてしまった。うーん、これはもしかして照れてる反応かな。アキトの照れる条件がまだよく分かってないんだよな。
まあこれから時間をかけて、ゆっくり分かっていけば良いか。
「ああ、これがカーディがよく話してたチルーですか…本当に美味しいですね」
じっくりとチルーを味わっていたクリスは、食べ終わるなりおばあさんに丁寧にお礼を言い始めた。伴侶が食べたがっていた故郷の味だもんな。そう言いたくなる気持ちは分かる。
カーディさんの出身だという南の方は、この辺りと比べると領の仲が極めて悪い地域だ。領の間で戦闘が起きるような場所だから、なかなか気軽には帰れないんだろう。
俺達の感想を聞いたおばあさんとカーディさんは、視線を交わすと二人揃って誇らし気に笑みを浮かべた。
「地元の特産を褒められるってのは、こんなに嬉しいもんなんだねぇ」
「ああ、俺も嬉しかったよ。地元の味を友人と伴侶に食べて貰えたんだから」
カーディさんは嬉しそうに笑っておばあさんに礼を告げた。隣でクリスが叫びだしそうな自分の口を押さえてるんだが、さすがにここで叫ぶのは俺も駄目だと思う。
おばあさんは一瞬だけ大きく目を見開いてから、ふわりと幸せそうな笑みを浮かべた。
「ああ、売ってて良かった…って初めて思ったよ」
その言葉を聞いたクリスは、不思議そうにしながらも尋ねた。
「え、初めて…ですか?」
これだけ美味しいなら人気があると思うんですが…?と、心底不思議そうなクリスに、おばあさんはふふと笑って続けた。
「チルーは味はそりゃあ美味しいけどね、値段もちょっと高めだし、見た目がほら…地味だからねぇ」
ああ、なるほど。確かに俺も最初に見た時は、地味だなと思ったな。
「だからあまり売れないんだよ」
元々味を知ってる旅人とか、南出身の人が懐かしいとたまに買ってくれるぐらいなんだそうだ。そんなおばあさんの打ち明け話を、カーディさんは少し寂しそうに聞いていた。
それでも故郷への思いで置き続けてるんだけどねと明るく笑うおばあさんと、そのおかげで久しぶりに食べれたよと告げるカーディさんは、なんだかまるで本当の祖母と孫のように見えてくる。なんとも微笑ましい光景だ。
あと、クリスは少し落ち着いた方が良いと思う。あまり売れないなら、買い占めても良いかなとか考えているんだろうな。気持ちは分かるけれど、いそいそと財布を取り出すのはどうかと思うぞ。
すっかり意気投合したおばあさんとカーディさんは、今度は好きだった地元の食べ物の話で盛り上がりだした。木の実から搾った油を使って焼く薄いパンか、それも美味しそうだな。いつかアキトと一緒に食べてみたい。
ちらりとアキトの様子を見てみれば、嬉しそうに二人の会話を聞いていた。アキトの邪魔はしたくないけれど、この屋台に来た時から気になっていた物があるんだよな。
「アキト」
こっそりと小さな声で話しかければ、アキトはパッと俺の方を向いてくれた。
「こっちの箱の果物、覚えてる?」
ずっと気になっていた箱をそっと指差せば、すぐに目を輝かせながら答えが返ってきた。
「赤と青のグラデーション…あ、ジウプの果実!?」
ナルクアの森のやつ?と聞かれるかと思ったのに、きちんと名前まで覚えていたのか。さすがアキトだな。
あの時は、アキトもまだ今ほど体力が無かった。突然異世界に飛ばされて戸惑っていただろうに、出会ったばかりの幽霊の指示に従って懸命に歩いてくれるたんだよな。そんなアキトに、少しでも元気になって欲しくてジウプの果実を教えたんだ。
「そうそう、なんだかすごく懐かしいなと思って」
「うん、懐かしいな。そういえば味も美味しかったよね」
アキトも懐かしいと思ってくれるんだな。俺にとっての思い出の果実だけど、アキトにとっても同じならすごく嬉しい。
ジウプの果実はバラ―ブ村とトライプールで売ってしまったから、そういえば魔導収納鞄にも在庫は無いのか。
「買っていこうか?」
「うんっ!」
「あ、リオジュもある!こっちの紫の実がリオジュっていう果物なんだけど、これも美味しいんだ。俺も好きな果物だよ」
「へーじゃあそれも買おう!俺もハルの好きな味、食べてみたいし」
俺の好きな味だから食べてみたい。さらりとそう言ってくれるアキトに、じわりと胸が温かくなった。
三人の会話の邪魔をしないように小声でひそひそと話し合いながら、俺達は買いたいものを相談し始めた。
「たくさんありがとうねぇ」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
「ありがとう」
「チルー、美味しかったです!」
たっぷりと果物を買い込んだ俺達は、おばあさんに声をかけてから屋台を離れた。再会の約束をするカーディさんの後ろで、クリスがコクコクと何度も頷いていたからきっとすぐにまた訪れる事になるんだろうな。
「いらっしゃい!今朝採れたてのエリーアはどうだい?」
「そこのお兄さん、ちょっと見ていってよ」
そんな呼び込みの声を聞き流しながら、俺達は市場の中を移動していく。
楽しそうに周りを見回しているアキトのためにも、できる事ならゆっくりと市場を見て回りたい。そうは思うけれど、これからの予定もあるからな。そうのんびりもしていられない。
また来れば良いと自分に言い聞かせながら、俺達は気になる果物があったら悩まずにすぐに購入して、それぞれの魔導収納鞄に詰め込んでいくという買い物を続けていた。
「そろそろ終わりにしましょうか?」
「ああ、俺はそれで良いけど…アキトももう良いか?」
「うん、いっぱい買っちゃった」
買いすぎたかなと心配するアキトに、カーディさんは笑顔で答える。
「アキトもかー俺も買いまくったぞ。後で交換しような!」
「カーディも、もう良いんですね?」
「ああ、満足だ」
「では、そろそろ行きましょうか?」
「おう」
「はい」
「分かった」
さあ、ここからは徒歩での移動だな。
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