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431.【ハル視点】船着き場の顔役
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昼を少し過ぎた頃、俺達の乗った船は無事に目的地に到着した。風が無いからと到着が遅れる事も多いのがこの川の難点なんだが、定刻通りに到着するなんてかなり運が良い。
そんな事を考えながら船を下りて歩いて行くと、不意にアキトが立ち止まった。大きく見開いた目をパチパチと瞬きしながら、不思議そうに建物を観察している。予想外の事が起きた時の動物みたいな反応だな。そんな所もすごく可愛い。
「ああ、やっぱりそうなりますよね」
「そういえば俺もなったなぁ」
クリスとカーディさんの懐かしそうな会話を聞きながら、アキトは隣に立っている俺をじっと見上げて口を開いた。
「戻ってきた?」
そう言いたくなる気持ちは分かるけれど、俺達はきちんと移動してきたよ。
「いや、戻ってきてないよ」
俺の答えを聞いても、アキトはまだ不思議そうな表情のままだった。
「アキト、とりあえず建物から出ようか」
「うん」
俺の提案に素直に従ってくれたアキトは、建物を出るなり街並みを眺めながらポカンと口を開けたまま固まってしまった。予想以上の良い反応だな。
「えーっと…俺達ここまで移動してきたよね?」
「うん、してきたね」
それは保証するよと三人揃って頷いた。クリスとカーディさんもアキトの反応を楽しんでるな、これは。他の人なら何で勝手にアキトの反応を楽しんでるんだと思うけど、この二人ならまあ許せる。
「でもここってさ……ちょっとそっくり過ぎない?」
「そっくりだな」
「ええ、かなり似てますよね」
「かなりというか相当?アキト、俺も最初は戸惑ったよ」
慰めるようにそう口にすれば、アキトはホッとした顔でへにゃりと笑ってみせた。ああ、可愛い。
「なんでこんなに似てるの?」
「船着き場同士で張り合ってるから、かな」
どこまで話せば良いのか悩みながら、俺はアキトに説明を始めた。
この二つの船着き場はそれぞれ違う人が取り仕切ってる事。顔役の二人は別に仲が悪くは無いけれど、それでもお互いに対抗意識がある事。
この二人がお互いに惚れてるってのは有名な話なんだけど、そこはまあ今は教えなくても良いかなと説明を省かせてもらった。その辺りに触れると無駄に長くなるからな。
両片思いの二人は、色んな建築様式の建物があって面白いんだと聞いたら、もう一つの船着き場もそれを作ったし、道には迷うけどその分新しい発見が出来るんだと聞いたら、それならうちにもと複雑な道を作った。
きっかけが何であれ、それが面白いって事で逆に観光客が増えたから、領主も何も言わなくなったんだよな。
きっとこの意地の張り合いは、これからも続いていくんだろう。
顔役同士がくっつくのを応援する組織まであると聞いた事があるが、これもわざわざ言わなくて良いだろう。
「はぁー…なるほど」
「乗船手続き用の建物に絵が入ったと思ったら、すぐにもう片方にも絵が入りましたからね」
「ああー俺は店の数が均衡してるって聞いたなー」
あえて省いた説明には気づいているだろうに、クリスとカーディさんもそれには触れずに話を合わせてくれた。
「ちなみに昔は、どちらも船着き場って呼ばれてたんだよ」
「ええーでもそれは、さすがに分かり難いよね…」
「うん、かなり分かり難かったよ。それで今は、川上の船着き場とか川下の船着き場とか呼ばれてる」
アキトは不思議そうに、なんで街の名前をちゃんと考えないんだろうと呟いていた。顔役の二人が、名前が一緒なのが嬉しいとか言うからだよとはさすがに言えないな。
「そろそろ移動しようか」
「うん」
そっと手を差し出せばすぐにきゅっと握り返してくれるのが、たまらなく幸せだ。しかも川上の船着き場を出た時はただの恋人同士だったのに、今は伴侶候補同士なんだよな。そう思うと、自然と笑みがこぼれてしまった。
「アキト、こっち」
「あ、ごめん。ぼーっとしてた」
「ここは危険じゃないから良いんだけどね、人は多いから気をつけて」
俺は優しくアキトの手を引きながら、高低差のある街中をどんどん進んでいった。
「お腹はまだ空いてない?」
「俺はまだ空いてないな」
朝ごはんが豪華だったからと笑うアキトに、俺も笑みを返す
「アキトはお腹空いてないって」
俺は後ろを歩いているクリスを振り向くと、そう声を上げた。
「私もまだいらないですね。カーディは?」
「んー俺もそんなに空いてない」
「そうか。それなら屋台で買った果物とかでも良いかな?珍しい果物とかもあったりする筈だよ」
そう提案すれば、アキトとカーディさんはワクワクした様子で思いっきり頷いてくれた。
そんな事を考えながら船を下りて歩いて行くと、不意にアキトが立ち止まった。大きく見開いた目をパチパチと瞬きしながら、不思議そうに建物を観察している。予想外の事が起きた時の動物みたいな反応だな。そんな所もすごく可愛い。
「ああ、やっぱりそうなりますよね」
「そういえば俺もなったなぁ」
クリスとカーディさんの懐かしそうな会話を聞きながら、アキトは隣に立っている俺をじっと見上げて口を開いた。
「戻ってきた?」
そう言いたくなる気持ちは分かるけれど、俺達はきちんと移動してきたよ。
「いや、戻ってきてないよ」
俺の答えを聞いても、アキトはまだ不思議そうな表情のままだった。
「アキト、とりあえず建物から出ようか」
「うん」
俺の提案に素直に従ってくれたアキトは、建物を出るなり街並みを眺めながらポカンと口を開けたまま固まってしまった。予想以上の良い反応だな。
「えーっと…俺達ここまで移動してきたよね?」
「うん、してきたね」
それは保証するよと三人揃って頷いた。クリスとカーディさんもアキトの反応を楽しんでるな、これは。他の人なら何で勝手にアキトの反応を楽しんでるんだと思うけど、この二人ならまあ許せる。
「でもここってさ……ちょっとそっくり過ぎない?」
「そっくりだな」
「ええ、かなり似てますよね」
「かなりというか相当?アキト、俺も最初は戸惑ったよ」
慰めるようにそう口にすれば、アキトはホッとした顔でへにゃりと笑ってみせた。ああ、可愛い。
「なんでこんなに似てるの?」
「船着き場同士で張り合ってるから、かな」
どこまで話せば良いのか悩みながら、俺はアキトに説明を始めた。
この二つの船着き場はそれぞれ違う人が取り仕切ってる事。顔役の二人は別に仲が悪くは無いけれど、それでもお互いに対抗意識がある事。
この二人がお互いに惚れてるってのは有名な話なんだけど、そこはまあ今は教えなくても良いかなと説明を省かせてもらった。その辺りに触れると無駄に長くなるからな。
両片思いの二人は、色んな建築様式の建物があって面白いんだと聞いたら、もう一つの船着き場もそれを作ったし、道には迷うけどその分新しい発見が出来るんだと聞いたら、それならうちにもと複雑な道を作った。
きっかけが何であれ、それが面白いって事で逆に観光客が増えたから、領主も何も言わなくなったんだよな。
きっとこの意地の張り合いは、これからも続いていくんだろう。
顔役同士がくっつくのを応援する組織まであると聞いた事があるが、これもわざわざ言わなくて良いだろう。
「はぁー…なるほど」
「乗船手続き用の建物に絵が入ったと思ったら、すぐにもう片方にも絵が入りましたからね」
「ああー俺は店の数が均衡してるって聞いたなー」
あえて省いた説明には気づいているだろうに、クリスとカーディさんもそれには触れずに話を合わせてくれた。
「ちなみに昔は、どちらも船着き場って呼ばれてたんだよ」
「ええーでもそれは、さすがに分かり難いよね…」
「うん、かなり分かり難かったよ。それで今は、川上の船着き場とか川下の船着き場とか呼ばれてる」
アキトは不思議そうに、なんで街の名前をちゃんと考えないんだろうと呟いていた。顔役の二人が、名前が一緒なのが嬉しいとか言うからだよとはさすがに言えないな。
「そろそろ移動しようか」
「うん」
そっと手を差し出せばすぐにきゅっと握り返してくれるのが、たまらなく幸せだ。しかも川上の船着き場を出た時はただの恋人同士だったのに、今は伴侶候補同士なんだよな。そう思うと、自然と笑みがこぼれてしまった。
「アキト、こっち」
「あ、ごめん。ぼーっとしてた」
「ここは危険じゃないから良いんだけどね、人は多いから気をつけて」
俺は優しくアキトの手を引きながら、高低差のある街中をどんどん進んでいった。
「お腹はまだ空いてない?」
「俺はまだ空いてないな」
朝ごはんが豪華だったからと笑うアキトに、俺も笑みを返す
「アキトはお腹空いてないって」
俺は後ろを歩いているクリスを振り向くと、そう声を上げた。
「私もまだいらないですね。カーディは?」
「んー俺もそんなに空いてない」
「そうか。それなら屋台で買った果物とかでも良いかな?珍しい果物とかもあったりする筈だよ」
そう提案すれば、アキトとカーディさんはワクワクした様子で思いっきり頷いてくれた。
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