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428.怒るハル
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力を失ったファーレスウルフの体が、どさりと地面に崩れ落ちる。
しんと静まり返った街道に、ハルの荒い息だけが響いていた。
ファーレスウルフが相手の時は遠慮なく叫んだり悲鳴をあげたりしていた自由なあの男達も、今は全員が両手で口を押さえて息をひそめている。
これってファーレスウルフよりハルの方が脅威だと思ってる行動だな。
まあそうなるのも仕方ないかなと思うぐらい、ハルの戦いっぷりはそれはもう凄まじかった。あのファーレスウルフが、土魔法を発動する余裕すら無くなってたもんな。果敢に攻撃をしかけるハルの邪魔になるかもしれないと、最後の方は魔法での援護もろくにできなかった。
「俺の勝ちだな」
ぽつりとそう呟いたハルは、肩で息をしながら俺の方を振り返った。
「アキト、怪我は無い?」
「俺は無いけど…ハルっ!腕の所怪我してる!」
そこまで深くはなさそうだけど、それでもじわりじわりと血が滲んできている。
「ああ、爪がかすった所だね」
慌てる俺に大丈夫だよと笑ったハルは、すぐに鞄から回復ポーションの瓶を取り出した。小さな小瓶を一つ分飲み干すだけで、あっという間にハルの傷は消えていった。
うーん、何度見ても回復ポーションって不思議だな。
「お疲れ様」
「アキトもお疲れ様。援護、助かったよ」
わざわざ周りに見えないように目くばせをしながら口にしたその『援護』は、土魔法だけじゃなくて補助魔法も含んでるんだろうな。少しでも役に立てたなら、素直に嬉しい。
「それなら良かった。それにしてもハル、すごかったよ!」
「あーちょっとやりすぎたかな?アキトは…俺の事、怖くなかった?」
心配そうに尋ねてくるハルに、俺はブンブンと思いっきり首を左右に振りながら答えた。
「そんな事ないっ!ハルは俺のために怒ってくれたんだよね?」
そんなハルの事を怖いなんて思うわけが無い。
「それに…怒ってるハルも格好良かったよ」
いつもとは違う冷たい空気と、鋭い視線に実はドキドキしてしまったとはさすがに言えないけど。
「アキト…ありがとう」
安心したと笑ったハルのその華やかな笑顔に見惚れていると、不意に後ろから声がかかった。
「二人ともお疲れー」
弾かれるようにハルと二人揃って振り返れば、カーディの真後ろには当然のようにクリスさんの姿もあった。
え、ここに来て大丈夫なの?ここには二人を襲うつもりだった依頼人と、その人に雇われた実行犯(未遂)までいるんだけど。
慌てて視線を向けてみた襲撃未遂犯達は、まだ剣を手に持ったままのハルを見つめながらその場で固まっていた。
あ、うん。気にしなくて大丈夫みたいだな。
「カーディ!クリスさんも!」
「お二人とも、すごい戦いっぷりでしたね」
「あー…いつから見てたんだ?」
さすがに気配探知をしながら戦う余裕は無かったから知らないんだと、ハルはクリスさんに尋ねた。
「えーと…アキトさんがファーレスウルフの土魔法を封じていた辺りからですね」
「なんだ結構前からだな」
「さすがに本気でやばかったら飛び出す気だったんだが…その必要は無かったなぁ」
カーディはふわりと笑みを浮かべて続けた。
「ハルが尋常じゃなく強いってのは分かってたけど、アキトも同じくらいすごいな」
「え、同じくらいは言い過ぎだと思うけど…でも、ありがと」
俺には魔法は使えないけどそれでもあの制御力がすごい事だけは分かるぞと、カーディは手放しで俺を褒めてくれた。
「ええ、本当に素晴らしい魔法でした。ファーレスウルフは遠距離からの攻撃が厄介な相手なのに、それを封じ込めるなんて!」
「あ、えっと…ありがとうございます」
「相手の出した土塊を狙ってつぶてを放つなんて、よっぽどの腕が無いと無理だろう?」
「ええ、本当にすごかったですね!」
嬉々として褒めちぎる息がぴったりの二人に、俺は頬を赤く染めながら口を開いた。
「あ、あの…もうそれぐらいで勘弁してください」
えーもっと褒めたかったのになんて言われても、反応に困ってしまうのでもう本当に勘弁して欲しい。何が一番恥ずかしいって、ハルが褒められる俺を見て満足そうに笑ってるんだよ。自分の事を褒められるより、俺が認められて嬉しいって顔で。
しかも目が合うと愛おしそうに笑ってくれるから、心臓に悪い。
しんと静まり返った街道に、ハルの荒い息だけが響いていた。
ファーレスウルフが相手の時は遠慮なく叫んだり悲鳴をあげたりしていた自由なあの男達も、今は全員が両手で口を押さえて息をひそめている。
これってファーレスウルフよりハルの方が脅威だと思ってる行動だな。
まあそうなるのも仕方ないかなと思うぐらい、ハルの戦いっぷりはそれはもう凄まじかった。あのファーレスウルフが、土魔法を発動する余裕すら無くなってたもんな。果敢に攻撃をしかけるハルの邪魔になるかもしれないと、最後の方は魔法での援護もろくにできなかった。
「俺の勝ちだな」
ぽつりとそう呟いたハルは、肩で息をしながら俺の方を振り返った。
「アキト、怪我は無い?」
「俺は無いけど…ハルっ!腕の所怪我してる!」
そこまで深くはなさそうだけど、それでもじわりじわりと血が滲んできている。
「ああ、爪がかすった所だね」
慌てる俺に大丈夫だよと笑ったハルは、すぐに鞄から回復ポーションの瓶を取り出した。小さな小瓶を一つ分飲み干すだけで、あっという間にハルの傷は消えていった。
うーん、何度見ても回復ポーションって不思議だな。
「お疲れ様」
「アキトもお疲れ様。援護、助かったよ」
わざわざ周りに見えないように目くばせをしながら口にしたその『援護』は、土魔法だけじゃなくて補助魔法も含んでるんだろうな。少しでも役に立てたなら、素直に嬉しい。
「それなら良かった。それにしてもハル、すごかったよ!」
「あーちょっとやりすぎたかな?アキトは…俺の事、怖くなかった?」
心配そうに尋ねてくるハルに、俺はブンブンと思いっきり首を左右に振りながら答えた。
「そんな事ないっ!ハルは俺のために怒ってくれたんだよね?」
そんなハルの事を怖いなんて思うわけが無い。
「それに…怒ってるハルも格好良かったよ」
いつもとは違う冷たい空気と、鋭い視線に実はドキドキしてしまったとはさすがに言えないけど。
「アキト…ありがとう」
安心したと笑ったハルのその華やかな笑顔に見惚れていると、不意に後ろから声がかかった。
「二人ともお疲れー」
弾かれるようにハルと二人揃って振り返れば、カーディの真後ろには当然のようにクリスさんの姿もあった。
え、ここに来て大丈夫なの?ここには二人を襲うつもりだった依頼人と、その人に雇われた実行犯(未遂)までいるんだけど。
慌てて視線を向けてみた襲撃未遂犯達は、まだ剣を手に持ったままのハルを見つめながらその場で固まっていた。
あ、うん。気にしなくて大丈夫みたいだな。
「カーディ!クリスさんも!」
「お二人とも、すごい戦いっぷりでしたね」
「あー…いつから見てたんだ?」
さすがに気配探知をしながら戦う余裕は無かったから知らないんだと、ハルはクリスさんに尋ねた。
「えーと…アキトさんがファーレスウルフの土魔法を封じていた辺りからですね」
「なんだ結構前からだな」
「さすがに本気でやばかったら飛び出す気だったんだが…その必要は無かったなぁ」
カーディはふわりと笑みを浮かべて続けた。
「ハルが尋常じゃなく強いってのは分かってたけど、アキトも同じくらいすごいな」
「え、同じくらいは言い過ぎだと思うけど…でも、ありがと」
俺には魔法は使えないけどそれでもあの制御力がすごい事だけは分かるぞと、カーディは手放しで俺を褒めてくれた。
「ええ、本当に素晴らしい魔法でした。ファーレスウルフは遠距離からの攻撃が厄介な相手なのに、それを封じ込めるなんて!」
「あ、えっと…ありがとうございます」
「相手の出した土塊を狙ってつぶてを放つなんて、よっぽどの腕が無いと無理だろう?」
「ええ、本当にすごかったですね!」
嬉々として褒めちぎる息がぴったりの二人に、俺は頬を赤く染めながら口を開いた。
「あ、あの…もうそれぐらいで勘弁してください」
えーもっと褒めたかったのになんて言われても、反応に困ってしまうのでもう本当に勘弁して欲しい。何が一番恥ずかしいって、ハルが褒められる俺を見て満足そうに笑ってるんだよ。自分の事を褒められるより、俺が認められて嬉しいって顔で。
しかも目が合うと愛おしそうに笑ってくれるから、心臓に悪い。
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