生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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426.全力の攻防

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 狙いを定めて放ったつぶてを全て叩き落とされた俺は、驚きに目を見張りながらそっと口を開いた。

「え、今のって…土魔法…だよね…?」

 別に答えを求めていたわけじゃない。自然と飛び出してきた、ただのひとり言だった。

 俺がぽつりとそう呟いた瞬間、ファーレスウルフの周りにいくつもの土塊が浮かび上がるのが見えた。あ、これはやばいやつだ。そうは思ったけれど身構える間も無かった。次の瞬間には全ての土塊が俺に向かって一直線に飛来した。

「うん、そうだよ!」

 律儀にそう答えてくれたハルは、土塊と俺の間に剣を構えたまま飛び出した。

「ハルッ!?」

 危ないと心配したのは一瞬だけだった。

 まるで舞うような動きでハルが剣を振るえば、真っ二つに切られた土塊がどんどん地面に増えていく。最後の土塊を両断してみせたハルは、油断なく剣を構えたまま不敵に笑った。

「……次はこっちの番だな」

 俺の目の前でアキトを狙った事を絶対に後悔させてやると呟いたハルに、俺は心の中で盛大に叫んだ。

 ハル格好良すぎるだろう!今ならクリスさんの俺の伴侶が~って発言も理解できるよ。俺の伴侶候補が、格好良すぎる!

 ハルの格好良さを全力で堪能したい所だけど、残念ながら今はそんな事をしてる場合じゃない。少しでも気を抜けば見惚れてしまいそうな自分を必死で抑え込んで、俺はもう一度魔力を練り上げた。

「アキト、ファーレスウルフはフォレストウルフの進化系で、土魔法が使えるBランクの魔物なんだ」

 Bランクの中でもかなり強い魔物だよとそう教えてくれた。

 魔法を使ってくる魔物自体は、今までにも採取地で何度か見た事がある。

 火の魔法を使う魔物や、水の魔法を使う魔物もいた。

 ただどの魔物の魔法攻撃も比較的単調なものだったし、そのうえ魔法のコントロール力もいまいちだった。もし当たれば被害は大きいかもしれないけれど、滅多に当たる事は無い。俺にとって魔物の使う魔法っていうのは、その程度の認識だった。

 それなのに、今目の前にいるファーレスウルフは根本的にレベルが違う。

 さっきから息をするように一瞬で魔法を発動しているし、俺が飛ばしたつぶてだけを狙って叩き落とせるんだからそのコントロール力も驚異的だ。

「確かに、これは強いね」
「ああ、でも…アキトと俺、二人ならいける!」

 ハルはそう叫ぶと、俺に何の指示を出さずにただまっすぐに駆け出した。

 クリスさんやカーディの前ならともかく、ここにはあの襲撃未遂の男達がいるもんな。口頭での指示を避けたのは、俺達の手の内がバレないようにするためだとすぐに理解できた。

「いけっ!」

 そう叫んだ俺は、もう一度ファーレスウルフめがけてつぶてを放った。次の動きを予測しながら、絶対にハルにだけは当たらないそんなルートを狙った。

 ファーレスウルフは動揺した様子も無く、すぐさま土魔法で迎撃に入った。つぶてはファーレスウルフに到達する前にどんどん叩き落とされていくけれど――これで良いんだ。

 これは見せつけるためだけの攻撃だから、ちゃんと当たらなくても問題は無い。あいつの意識をハルだけに集中させないための誘いの攻撃であり、これから放つ俺の補助魔法に気づかせないための攻撃でもある。

 俺はつぶてを放つなり、すぐさま補助魔法のための魔力を練り上げた。

 補助魔法の内容はいつも通りの攻撃力と防御力、それに速度の上昇かな。あ、魔法の攻撃があるんだから一応魔法防御上昇もつけておこう。

 この魔法がハルの助けになりますように。そんな事を考えながら補助魔法を発動した。

「はぁっ!」

 ハルは短く声を上げながら、全力でファーレスウルフに切りかかった。うん、ハルの動きがさらに速くなったから、補助魔法はきちんと発動したみたいだ。

「なんて速度だ…」
「こ、これなら、助かるんじゃないか?」

 背後から聞こえてくるひそひそ声の会話を聞き流しながら、俺はハルとファーレスウルフの攻防を見つめていた。爪と牙をうまく使ってファーレスウルフはハルの剣を防ぎ、ハルも剣や蹴りまで駆使して相手の攻撃を躱している。補助魔法までかけたハルが相手でここまで拮抗するなんて、予想以上の強さだな。

「ちっ…速いなっ!」

 ハルがそう叫んで距離を取った瞬間、ファーレスウルフはすぐさま土塊を空中に浮かべた。

 うん、そう来ると思ってたよ。

「今度は俺の番だね!」
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