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425.ファーレスウルフ
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ハルが口にした『お礼ならクリスさんに』と言う言葉で、男達は一瞬にしてその顔色を変えた。真っ青な顔で俺とハルを見つめながら、男達は恐る恐る口を開いた。
「知ってた…のか」
「嘘だろう?」
「え…?なんで…?」
「ば、バレていたのか?」
ああ、なるほど。まだ襲撃する前だったから、何が狙いでここにいたのか俺達にはバレてないと思ってたのか。だからあんなに堂々と俺達に助けを求められたんだな。
そんな事を考えながら、俺はちらりと森の方へと視線を向けた。
男達が飛び出してきてから、森から何の音もしなくなったのが逆に不気味だ。人が増えたから警戒して様子を見てたりするのかな。もしそれが正解だとしたら、それだけ頭が良い魔物って事になるから厄介だ。
「違うんだ、これは!」
「い、依頼だったから仕方なく…」
「そうだ、俺達はただ依頼を受けただけで――」
そんな言い訳にもならない言葉を口々に吐き出す男達を、ハルは呆れた様子で見やった。
「言い訳はいらない。そんな依頼を受けたのは、自分の意思だろう?」
突き放すような冷たい声だ。
冒険者ギルドでは、人を害するような依頼だけは何があっても絶対に受理されない。どれほどの金額を積まれても、どんな圧力をかけられても、その規則だけは絶対に揺らがないのだと聞いた事がある。
つまりこの人達はギルドを介さずに、自分の意思だけでその依頼を受けたって事だ。報酬が魅力的だったのか、それとも他に何か理由があるのかまでは分からないけどね。
よくそれで依頼だったから仕方なくなんて言えたなと、俺も一緒に呆れてしまう。
「違っ!」
「もういいから、黙ってそこでじっとしていろ。でないと――お前らが狙われるかもな?」
脅すように低い声でそう言い放ったハルに、男達は揃って黙り込んだ。
「やっと静かになったな」
ふうと一つ息を吐いたハルは、すらりとそのまま剣を抜き放った。油断なく森に向かって剣を構えるハルを視界の端に捉えながら、俺は練っていた魔力を使って土魔法を発動する。今は不気味なほど静かな森を見つめながら、空中にいくつものつぶてを浮かべた。
気配を探っていたハルが、ハッと顔を上げた。
「アキト、来るよっ!」
ハルのその声と同時に、お腹の底に響くような遠吠えが辺り一帯に響いた。男達が集まっている場所からは、押し殺しきれなかった悲鳴が上がる。
「うんっ!」
これはかなり強そうな魔物だな。そうは思ったけれど、不思議と怖いとは思わなかった。多分ハルが一緒にいてくれるからだろうな。もし一人だったら、俺も悲鳴を上げてたかもしれない。
静かに警戒するのを止めたのか、魔物は盛大に音を立てながらどんどん近づいてくる。
森の木々を蹴散らしながら目の前に飛び出して来たのは、唸り声をあげる巨大な魔物だった。濃い緑色の毛で覆われているせいで、まるで木が突然動いて襲い掛かってきたかのように見えた。
「ファーレスウルフだ!」
そう叫ぶなり、ハルは庇うように俺の前に躍り出た。ハルのその行動だけで、ファーレスウルフは魔物の中でも強い方なんだなと分かってしまった。
ファーレスウルフはその場で立ち止まると、牙を剥いて唸りながらこちらを威嚇してくる。地の底から響くようなその唸り声に、またしても背後で悲鳴が上がる。
ちょっと、いやかなりうるさい。
「ウウウウウ…」
全力で威嚇されている状況なのに、ハルは少しも怯まなかった。むしろ一歩も引かずにそのまま睨みあっている。さすがハルだ。
その隙に俺はハルの後ろから、ファーレスウルフを観察した。
顔のあたりは狼っぽい気もするけれど、パッと見た感じは狼というより巨大な木に見える。その濃い緑色の体毛は茂った葉にしか見えないし、手足の辺りの茶色の模様が枝や幹に見えるから余計にそう思うんだろうな。
これは街道に飛び出してきてくれて良かったかもしれない。もし森の中でこいつの相手をしていたら、保護色になってかなり見えにくいだろうし。
そんな事を考えながら観察を続けていると、不意に唸り声がぴたりと止んだ。
相手が攻撃に転じる前にと、俺は浮かべていたつぶてをファーレスウルフめがけて投げつけた。
咄嗟の判断で取った行動ではあったけれど、魔力操作はきっちりとできていたと思う。しっかりと狙いも定めた攻撃だった。それなのに、そのつぶては一つとしてファーレスウルフには命中しなかった。
相手が放った土塊で、一つ残らず叩き落とされたからだ。
「知ってた…のか」
「嘘だろう?」
「え…?なんで…?」
「ば、バレていたのか?」
ああ、なるほど。まだ襲撃する前だったから、何が狙いでここにいたのか俺達にはバレてないと思ってたのか。だからあんなに堂々と俺達に助けを求められたんだな。
そんな事を考えながら、俺はちらりと森の方へと視線を向けた。
男達が飛び出してきてから、森から何の音もしなくなったのが逆に不気味だ。人が増えたから警戒して様子を見てたりするのかな。もしそれが正解だとしたら、それだけ頭が良い魔物って事になるから厄介だ。
「違うんだ、これは!」
「い、依頼だったから仕方なく…」
「そうだ、俺達はただ依頼を受けただけで――」
そんな言い訳にもならない言葉を口々に吐き出す男達を、ハルは呆れた様子で見やった。
「言い訳はいらない。そんな依頼を受けたのは、自分の意思だろう?」
突き放すような冷たい声だ。
冒険者ギルドでは、人を害するような依頼だけは何があっても絶対に受理されない。どれほどの金額を積まれても、どんな圧力をかけられても、その規則だけは絶対に揺らがないのだと聞いた事がある。
つまりこの人達はギルドを介さずに、自分の意思だけでその依頼を受けたって事だ。報酬が魅力的だったのか、それとも他に何か理由があるのかまでは分からないけどね。
よくそれで依頼だったから仕方なくなんて言えたなと、俺も一緒に呆れてしまう。
「違っ!」
「もういいから、黙ってそこでじっとしていろ。でないと――お前らが狙われるかもな?」
脅すように低い声でそう言い放ったハルに、男達は揃って黙り込んだ。
「やっと静かになったな」
ふうと一つ息を吐いたハルは、すらりとそのまま剣を抜き放った。油断なく森に向かって剣を構えるハルを視界の端に捉えながら、俺は練っていた魔力を使って土魔法を発動する。今は不気味なほど静かな森を見つめながら、空中にいくつものつぶてを浮かべた。
気配を探っていたハルが、ハッと顔を上げた。
「アキト、来るよっ!」
ハルのその声と同時に、お腹の底に響くような遠吠えが辺り一帯に響いた。男達が集まっている場所からは、押し殺しきれなかった悲鳴が上がる。
「うんっ!」
これはかなり強そうな魔物だな。そうは思ったけれど、不思議と怖いとは思わなかった。多分ハルが一緒にいてくれるからだろうな。もし一人だったら、俺も悲鳴を上げてたかもしれない。
静かに警戒するのを止めたのか、魔物は盛大に音を立てながらどんどん近づいてくる。
森の木々を蹴散らしながら目の前に飛び出して来たのは、唸り声をあげる巨大な魔物だった。濃い緑色の毛で覆われているせいで、まるで木が突然動いて襲い掛かってきたかのように見えた。
「ファーレスウルフだ!」
そう叫ぶなり、ハルは庇うように俺の前に躍り出た。ハルのその行動だけで、ファーレスウルフは魔物の中でも強い方なんだなと分かってしまった。
ファーレスウルフはその場で立ち止まると、牙を剥いて唸りながらこちらを威嚇してくる。地の底から響くようなその唸り声に、またしても背後で悲鳴が上がる。
ちょっと、いやかなりうるさい。
「ウウウウウ…」
全力で威嚇されている状況なのに、ハルは少しも怯まなかった。むしろ一歩も引かずにそのまま睨みあっている。さすがハルだ。
その隙に俺はハルの後ろから、ファーレスウルフを観察した。
顔のあたりは狼っぽい気もするけれど、パッと見た感じは狼というより巨大な木に見える。その濃い緑色の体毛は茂った葉にしか見えないし、手足の辺りの茶色の模様が枝や幹に見えるから余計にそう思うんだろうな。
これは街道に飛び出してきてくれて良かったかもしれない。もし森の中でこいつの相手をしていたら、保護色になってかなり見えにくいだろうし。
そんな事を考えながら観察を続けていると、不意に唸り声がぴたりと止んだ。
相手が攻撃に転じる前にと、俺は浮かべていたつぶてをファーレスウルフめがけて投げつけた。
咄嗟の判断で取った行動ではあったけれど、魔力操作はきっちりとできていたと思う。しっかりと狙いも定めた攻撃だった。それなのに、そのつぶては一つとしてファーレスウルフには命中しなかった。
相手が放った土塊で、一つ残らず叩き落とされたからだ。
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