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424.予想外の事態

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 ベキベキと木々がへし折れる異様な音に、逃げ惑う男達の必死な叫び声。それに加えて恐怖や痛みを含んだ悲鳴まで、はっきりと聞こえてくる。

「うわぁぁぁぁ!」
「ひっ…なんでっ…!?」
「嘘だろっ…逃げっ…うわっ!」
「くるなぁぁぁぁぁ!」
「ぐっ…!痛っ!」

 ここからじゃ音しか聞こえないし姿は全く見えないんだけど、それでも明らかに非常事態な事だけは分かった。

「ハル、あの悲鳴って…」
「あー…さっき俺が怪しいって言ってた気配の奴らだよ。多分、背後への警戒を怠ってたんだろうな…」

 苦笑しながらそう告げたハルに、カーディは呆れ顔で続けた。

「ああ、そういう事か。ちゃんと警戒してなかったせいで、背後から魔物にでも襲われたんだな。背後への警戒なんて、冒険者の基本だろうに…」

 人を狙った依頼を受けるなら、冒険者というより冒険者崩れか。この調子じゃ相手は凄腕じゃなさそうだなーなんてさらりと言ってのけるカーディの顔に、動揺の色は一切無かった。

 俺なんてこの音だけでも結構ビビッてるんだけど、この世界の人達は本当に強いな。こういう事に慣れてるってだけなのかもしれないけど。

「にげろっ!街道の方へっ!」

 そんな叫び声が聞こえてきたと思ったら、ヒステリックな声が叫び返すのが聞こえた。

「私は依頼人だぞ!?依頼人に命令をするなっ!」
「はぁ?死にたいなら、そのままそこにいれば良いっ!」
「そんな事は言ってないだろう!」
「いいから走れっ!」

 あれ、これ仲間割れしてない?

「…クリス、どうする?」

 おそらくわざと俺達の方へと逃げてくるつもりらしいその声に、ハルは落ち着いた様子でクリスさんに尋ねた。

「そうですね…魔物の種類が何かは分かりますか?」
「種類までは分からないが、おそらく大型の狼系だと思う」
「倒せますか?」

 端的なクリスさんのその質問に、ハルはにやりと笑って答えた。

「俺とアキトなら、余裕で倒せる」

 あ、俺も人数に入れてくれるんだ。ここにいてと言われるかとちょっとだけ思ってたから、連れていってくれるのが素直に嬉しい。

「そうですか…それなら、彼らを助けてあげて下さい。ただし危険だと思ったら、自分たち優先ですぐに撤退を」

 それだけは約束して下さいと言うクリスさんに、ハルはすぐに頷いた。

「分かった。カーディさん、少しの間、クリスを頼んでも良いか?」
「ああ、俺の伴侶だ。言われなくても自分で守る」

 既に剣を抜いて構えていたカーディは、真剣な表情で周囲を警戒している。普段の明るい姿とは全く違う歴戦の冒険者の顔だな。私の伴侶が格好良いと騒ぐかと思ったけれど、クリスさんは何も言わずにカーディの後ろへと一歩下がった。

「どうかお気をつけて」
「アキト、行くよ」
「うんっ!」

 さっき練り上げた魔力を片手で維持したまま、俺は前を走るハルの背中を追って駆け出した。



 音のする方へとまっすぐに街道を進んでいけば、ちょうど数人の男達がまるで転がるようにして森から飛び出してくる所だった。あちこちすり傷だらけみたいだけど、少なくとも動けないような重傷の人はいないみたいだ。

「た、助けてくれ!」
「そこのあんた達、頼む!助けて!」
「アレは俺達じゃ無理だ!」
「れ、礼ならするからっ!助けてくれっ!」

 走って近づいていく俺達に気づいたのか、男達はなりふり構わず助けを求めてくる。

 これで相手が普通の冒険者なら急いで助けないとって思えるけど、この人達はさっきまで俺達を襲おうとしてたんだよね?そう思うと、何だか複雑な気分だ。

 まあ助けずに見捨てるなんて俺にはできないから、どうせ助けるしか選択肢は無いんだけどさ。

「俺達にまかせて、そこでじっとしてろ!」

 ハルは縋るような言葉に、冷たい声でそう叫び返した。

「じゃ、じゃあ助けてくれるのか?」
「俺達の依頼人が助けてあげて下さいと言ったからな!少なくとも後ろの魔物はまかせて良い!」

 ハルの返した言葉に、男達は見捨てられなかったとホッと息を吐いた。

「あ、ありがとう」
「た、助かるのか…?」
「きちんと礼をするよっ!」

 口々にお礼の言葉を返してくる男達の姿を、ハルは順番に見比べた。

 明らかに冒険者らしき恰好をしたその男達の一団の中に、一人だけ場違いな商人風の男が混ざっている。ああ、こいつがさっき依頼人に命令するなと叫んでいた奴だろうな。つまりストファー魔道具店を狙ってるのはこの男だ。

「ああ、お礼なら…」

 片手の怪我を手で押さえながら震えているその男を、ハルはジロリと睨みつけてから口を開いた。

「お前たちが狙っていた、クリス・ストファーに直接言ってくれ」

 あ、ハルもやっぱり怒ってたんだな。
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