生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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423.襲撃の予感

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 ナルイット領とイーシャル領の境界を、俺達は四人揃って無事に通り抜けた。

 まあ無事に通り抜けたと言っても、ここにもシンプルな看板ぐらいしか無かったんだけどね。ハルによるとこの辺りの領主は、比較的仲良しなんだって。

 このあたりの街道はトライプール近くの街道よりもかなり分かれ道が多い。だから進んでいくだけで分岐点がいくつも現れるんだけど、ハルがこっちだよと教えてくれるから迷う心配も無い。

 ぽつぽつと会話を交わしながら、俺達四人は街道を進んでいった。

 もう何個目かも分からない分かれ道に差し掛かる。ちらりと視線を向ければ、ハルはこっちだよとあっさりと指差して教えてくれた。

 よしと気合を入れなおして歩き出したけれど、ふと視線を向ければほとんどの人が俺達とは逆の分かれ道に進んでいくのか目に止まった。

「あれ?…みんなあっちの道に行くんだ?」

 ぽつりとそう口にすれば、ハルはすぐに答えてくれた。

「ああ、あの先には大きな町があるから」
「へーそれにしても一気に人が減るんだね」
「イーシャル領の領都を目指すなら、馬車で移動できる道を選ぶのが一般的だからね」

 ああなるほど。今回は乗合馬車の中に敵がいたら面倒だから、わざと徒歩での移動を選ぶって言ってたな。ここから先は一気に人が減るってハルもクリスさんも知ってたのか。つまり襲撃があるなら、ここから先って事だよな。

 ちゃんと気を引き締めておこうと決意して、俺は隣を歩くハルを見上げた。



 何度か軽い休憩を挟みながら、俺達はひたすらに街道を進み続けた。

 船着き場を出てからもうかなりの距離を進んだ気がするんだけど、後どのぐらい歩いたらイーシャル領の領都に着くんだろう。

 そんな事を考えながら歩いていると、不意にハルが立ち止まった。

「ハル…?」
「全員、止まって。気配探知に怪しい反応がある…」

 小さな声でそう告げたハルに、俺達も慌てて立ち止まった。俺には人の気配なんて全く感じられないんだけど、ハルが言うなら間違いは無いだろうと素直に身構えた。

「反応までの距離は、近いか?」

 カーディは油断なく周りを見渡しながら、小声でそうハルに尋ねた。

「いや、まだもう少し先だ。……少しだけ待ってくれ」

 ハルはそう言うなりそっと両目をつむった。気配を探るのに集中しているハルの姿を視界の端で捕らえながら、俺はそっと魔力を練り上げた。よし、これでいつでも魔法は発動できる。

 警戒する俺達を、ハルはぱちりと目を開くなり振り返った。

「みんな、この先を右に曲がった所に、森があるのは知ってるか?」

 クリスさんと俺はふるふると首を振って答えたけれど、カーディは一つ頷いてから口を開いた。

「ああ、冒険者の採取地にも指定されてるイールの森だな」
「そうだ。位置はちょうどその辺りだな」
「ならもう少し先だな」
「そのイールの森の中から、街道を伺ってる不審な気配があるんだ」

 採取地から街道を見張るなんて、普通の冒険者がする事じゃないからねとハルは続けた。仮にそれが俺達を狙った襲撃でなくても、盗賊の可能性もあるだろう。ハルはあっさりとそう言いきって、少し心配そうに俺を見つめた。

「アキト、心得は覚えてるか?」

 カーディの言葉に、俺はぱちりと一つ瞬きをしてから口を開いた。

「えーっと『人相手に攻撃するのが苦手なら、気絶させるか捕縛してから衛兵に突き出せば良い』だよね」

 そう口に出してみれば、確かに肩の力が一気に抜けた気がする。
 
「うん、しっかり覚えてるよ。ありがと、カーディ」
「ああ、それなら大丈夫だ!」
「大丈夫そうなら、行こうか。ここにいても仕方ないしね」

 ハルはそう言いながら、いつでも剣が抜ける場所にそっと手を添えた。カーディも腰にかけた剣に軽く片手を乗せて、準備万端だ。

「では、行きましょうか」
「おう」
「はい」

 クリスさんの言葉で歩き出した俺達が慎重に道を曲がりかけた時、ハルが不意に驚きの声を上げた。

「えっ…!?」
「え、ハルどうしたの?」
「あー…びっくりさせてごめん。ちょっと予想外の事態が起きそうだ」

 それってどういう意味?と聞き返そうとした次の瞬間、俺達の耳に届いたのは森の中から聞こえてくる悲鳴と叫び声だった。
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