生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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422.対人戦の心得

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 密やかな声で告げられた襲撃の予想に、俺はバッとハルの顔を見た。ハルは少し困った顔をして俺を見つめながら、それでもそっと口を開いた。

「言い難いんだけど…」
「うん」
「その襲撃が実際に起こったら…相手は人、かもしれない」

 ああ、そうか。今回の相手は人の可能性が高いのか。ストファー魔道具店の商売敵に狙われてるとは聞いてたけど、その可能性までは考えれてなかったな。

 ハルがわざわざこうして聞いてくれたのは、今まで俺が魔物相手にしか戦った事が無いのを知ってるからだろう。

 ゆっくりと街道を進みながら想像してみた。

 襲い掛かってくる人間を相手にして、俺に攻撃なんてできるだろうか。魔物を倒すだけでもあれだけ戸惑ったのに?人に向けて攻撃魔法を放つ?当たりどころが悪かったら命まで奪ってしまうかもしれないのに攻撃ができるのか?

 正直に言えば想像だけでも怖い。怖くてたまらないけど、じゃあ無抵抗でやられるのかって言われるとそれも嫌だ。

 クリスさんとカーディ、それにハルを攻撃してくる相手。そんな人達を相手に俺が躊躇したせいで、大事な友人と伴侶候補に何かあったら。その方が嫌だ。

 人を傷つける覚悟を決めようとした俺の頭を、ハルの手が軽く撫でた。

「アキト、ごめん。言い方が紛らわしかったね」
「え…?」
「俺が言いたかったのはね、アキトが無理なら俺が助けるからって話だったんだ」
「でもそれじゃあ…っ!」
「相手を無力化すれば良いだけなら、俺は対人戦にも慣れてるからね」

 衛兵の手伝いにも駆り出されてたからそういう戦いも得意だよと、ハルは笑って続けた。

「突然人に襲撃されたらアキトが動揺するかもしれないから、先に言っておこうと思っただけなんだ」

 ハルにまかせてただ見守ってるだけ?本当にそれで良いのか?黙ったままそう考えていた俺に、ハルはふわりと笑って続けた。

「ただ…アキトが守られるだけじゃ嫌だって言うなら」
「…っ!うん!」
「襲撃があったら、得意の土魔法で敵を牽制してくれたら俺も助かるよ」

 アキトの土魔法の制御なら当てないのも簡単でしょうとハルは優しく笑ってみせた。

「…本当にそれだけで良いの?」

 人に当てなくて良いただの牽制なんて、そんな簡単な事で?

「アキト、今、そんな簡単な事でって思った?」
「う…」

 どうしようハルがさらりと俺の心を読んでくるんだけど。

「アキトにとっては簡単な事かもしれないけど、実はかなり難しい事なんだよ?そこまで制御が完璧な冒険者なんて、A級ぐらいにしかいないよ」

 軽くそう言ってのけたハルは、次の瞬間には真剣な表情に変わっていた。

「必ずしも攻撃を敵に当てる必要は無いんだ。ただ近くの地面や木を狙って魔法を打ってくれればそれで良い。それだけで相手は、こちらには遠距離の攻撃手段があると理解する」

 当てないのはこちらに余裕や余力があるからだと思い込む。そうしたら更に動揺を誘えるよと言いきったハルは、歴戦の強者って感じがした。本当に対人戦も得意なんだろうな。

「アキト、牽制してくれる?」
「うん、全力で牽制するね」

 ハルは強い――それは知ってる。それでもハルの命が危険になったら、俺は例え人が相手でも魔法を使うと思う。だって何よりもハルを失いたく無いから。

「ごめん、話が聞こえたんだけどさ」

 カーディが少し申し訳なさそうに後ろから声をかけてきた。

「あ、聞こえてた?」
「アキト、対人は苦手だって奴は冒険者の中にもいるんだ」
「え、そうなの?」
「正直に言うと、俺も人相手はちょっと苦手だな」

 カーディは苦笑しながら続けた。

「そういう奴らの対人戦の心得を教えてやろう」
「対人戦の心得…?」
「そう、これさえ知ってれば、少し気が楽になるっていう魔法の言葉だぞ」

 え、そんなのがあるんだ?驚きつつもそっと視線を向ければ、ハルも不思議そうに首を傾げていた。あ、ハルは対人戦が得意だから知らないのか。

「人相手に攻撃するのが苦手なら」

 カーディはそう言うと俺をちらりと見た。

「人相手に攻撃するのが苦手なら…?」
「気絶させるか捕縛してから、衛兵に突き出せば良い!」

 良い笑顔でそう宣言したカーディに、ハルはびっくり顔で固まってしまった。その横でクリスさんが拍手をしているのが、何ともシュールだ。

「どうだ?」
「あ、うん。ありがとう…?」
「どういたしまして!」

 さすがカーディだと褒めちぎるクリスさんの言葉を聞きながら、俺とハルは顔を見合わせて笑ってしまった。
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