418 / 1,179
417.【ハル視点】甲板にて
しおりを挟む
手を繋いだまま食堂を出ると、俺はアキトをじっと見つめて悪戯っぽく尋ねた。
「それで、アキトは俺をどこに連れていってくれるのかな?」
「えーっと…あ、あっち!」
ああ、やっぱりこの船の中の話だったのか。迷いなく進んでいくアキトに手を引かれて俺は歩き出した。アキトが目指したのは、食堂の向かい側にある階段だった。
ゆっくりと階段を上りきると、そこには繊細な彫刻が施された大きな扉があった。アキトは不安そうにしながらも扉に手を伸ばした。ゆっくりとアキトの手が取っ手を回すと、その扉は重厚な見た目に反して軽やかに開いた。
一気に開けた視界に飛び込んできたのは、雲一つない青空と、朝日に照らされた美しい森の木々、そしてどこまでも続いているように思える壮大な川の流れだった。
「うわー!すごい!すごいね!」
声だけでもワクワクしているのが伝わってくるな。はしゃぐアキトもたまらなく可愛いと思う。
「ああ、これはすごいな!」
素直に感心してそう声をかければ、アキトは嬉しそうに笑って俺を見上げてきた。
「ここが目的地だよ。甲板が解放されてるってさっきカーディに教えてもらったんだ。クリスさんとカーディは朝食前に来たんだって」
「これは確かに一見の価値があるね。アキト、案内ありがとう」
アキトは照れくさそうに笑いながら、どういたしましてと答えてくれた。
「ねえ、アキト。折角だし外に出てみようか?解放されてるなら問題無いよね?」
「うんっ!出てみたいっ!」
二人で手を繋いだままドアから一歩外へと足を踏み出せば、太陽の日差しが容赦なく照りつけてくる。ああ、今日も暑い日になりそうだな。その上甲板の上は、遮るものが無いせいで風が強い。ぶわりと遠慮なく吹き付けてくる風で、アキトの髪の毛がぶわっとひるがえった。可愛いおでこが見えてるなと思いながら、俺はアキトに声をかけた。
「うわー!」
「アキト、あそこの手すりの所まで行こう」
このまま扉近くにいるよりは安全だろうと手すり近くへの移動を提案した俺は、アキトの手を軽く引っ張りながら何とか目的地まで辿り着いた。
「風、強いねっ!」
風に負けじと声を張るアキトに、俺も大きな声で答える。
「うん、すごい風だ!」
それでもこの景色は、日差しと風に耐えるだけの価値があると思う。
そんな事を考えていると、不意にぶわっと一際強い風が吹いた。乱れきった髪の毛を片手で掻きあげながら、ふとアキトの方を見ればアキトの顔色が変わっていた。
「ねえアキト、何だか顔赤くない?暑い?」
日差しが強いせいかと声をかけたけれど、アキトはふるふると首を振った。
「ここに飲み物も持ってるけど何か飲む?」
俺はそう尋ねながら、収納機能付きの腕輪を撫でてみせた。
「あ、飲み物は無くて大丈夫!」
「そう?」
この腕輪の存在を隠していると言ってしまったせいで、遠慮してるってわけじゃないよね?真意を探るようにじっとアキトの様子を伺っていると、アキトは観念したように口を開いた。
「えーっとね、暑いとかじゃなくて…その…髪の毛をかき上げてたハルが格好良すぎて」
不意打ちでそんな事を言われた俺の気持ちが分かる?
「え、そうなの?それは嬉しいな」
なんて事を平然とした顔で答えられたのは、いっそ奇跡だと思う。周りに乗客の姿は無いけれど、見張り台には船員の気配がある。そうじゃなければ、俺はアキトに抱き着いて口づけていたかもしれない。それぐらい、不意打ちの格好良いという誉め言葉は衝撃的だった。
俺はお礼の言葉を口にしながら、そっとアキトを庇うように立ち位置を変えた。この方がアキトの表情が見やすいからな。
こういう時ばかりは、アキトが華奢で良かったと思ってしまう。俺の体で風を遮る事ができるのは、この体格差のおかげだからな。
見下ろしたアキトの髪の毛は、強風のせいでぐちゃぐちゃに乱れてしまっていた。まあ、ぐちゃぐちゃでも可愛いのは可愛いんだけどね。
俺はそっと手を伸ばすと、アキトの髪の毛を手櫛で整えていく。目を細めてされるがままのアキトが可愛くて、自然と笑みがこぼれてしまった。
「それで、アキトは俺をどこに連れていってくれるのかな?」
「えーっと…あ、あっち!」
ああ、やっぱりこの船の中の話だったのか。迷いなく進んでいくアキトに手を引かれて俺は歩き出した。アキトが目指したのは、食堂の向かい側にある階段だった。
ゆっくりと階段を上りきると、そこには繊細な彫刻が施された大きな扉があった。アキトは不安そうにしながらも扉に手を伸ばした。ゆっくりとアキトの手が取っ手を回すと、その扉は重厚な見た目に反して軽やかに開いた。
一気に開けた視界に飛び込んできたのは、雲一つない青空と、朝日に照らされた美しい森の木々、そしてどこまでも続いているように思える壮大な川の流れだった。
「うわー!すごい!すごいね!」
声だけでもワクワクしているのが伝わってくるな。はしゃぐアキトもたまらなく可愛いと思う。
「ああ、これはすごいな!」
素直に感心してそう声をかければ、アキトは嬉しそうに笑って俺を見上げてきた。
「ここが目的地だよ。甲板が解放されてるってさっきカーディに教えてもらったんだ。クリスさんとカーディは朝食前に来たんだって」
「これは確かに一見の価値があるね。アキト、案内ありがとう」
アキトは照れくさそうに笑いながら、どういたしましてと答えてくれた。
「ねえ、アキト。折角だし外に出てみようか?解放されてるなら問題無いよね?」
「うんっ!出てみたいっ!」
二人で手を繋いだままドアから一歩外へと足を踏み出せば、太陽の日差しが容赦なく照りつけてくる。ああ、今日も暑い日になりそうだな。その上甲板の上は、遮るものが無いせいで風が強い。ぶわりと遠慮なく吹き付けてくる風で、アキトの髪の毛がぶわっとひるがえった。可愛いおでこが見えてるなと思いながら、俺はアキトに声をかけた。
「うわー!」
「アキト、あそこの手すりの所まで行こう」
このまま扉近くにいるよりは安全だろうと手すり近くへの移動を提案した俺は、アキトの手を軽く引っ張りながら何とか目的地まで辿り着いた。
「風、強いねっ!」
風に負けじと声を張るアキトに、俺も大きな声で答える。
「うん、すごい風だ!」
それでもこの景色は、日差しと風に耐えるだけの価値があると思う。
そんな事を考えていると、不意にぶわっと一際強い風が吹いた。乱れきった髪の毛を片手で掻きあげながら、ふとアキトの方を見ればアキトの顔色が変わっていた。
「ねえアキト、何だか顔赤くない?暑い?」
日差しが強いせいかと声をかけたけれど、アキトはふるふると首を振った。
「ここに飲み物も持ってるけど何か飲む?」
俺はそう尋ねながら、収納機能付きの腕輪を撫でてみせた。
「あ、飲み物は無くて大丈夫!」
「そう?」
この腕輪の存在を隠していると言ってしまったせいで、遠慮してるってわけじゃないよね?真意を探るようにじっとアキトの様子を伺っていると、アキトは観念したように口を開いた。
「えーっとね、暑いとかじゃなくて…その…髪の毛をかき上げてたハルが格好良すぎて」
不意打ちでそんな事を言われた俺の気持ちが分かる?
「え、そうなの?それは嬉しいな」
なんて事を平然とした顔で答えられたのは、いっそ奇跡だと思う。周りに乗客の姿は無いけれど、見張り台には船員の気配がある。そうじゃなければ、俺はアキトに抱き着いて口づけていたかもしれない。それぐらい、不意打ちの格好良いという誉め言葉は衝撃的だった。
俺はお礼の言葉を口にしながら、そっとアキトを庇うように立ち位置を変えた。この方がアキトの表情が見やすいからな。
こういう時ばかりは、アキトが華奢で良かったと思ってしまう。俺の体で風を遮る事ができるのは、この体格差のおかげだからな。
見下ろしたアキトの髪の毛は、強風のせいでぐちゃぐちゃに乱れてしまっていた。まあ、ぐちゃぐちゃでも可愛いのは可愛いんだけどね。
俺はそっと手を伸ばすと、アキトの髪の毛を手櫛で整えていく。目を細めてされるがままのアキトが可愛くて、自然と笑みがこぼれてしまった。
177
お気に入りに追加
4,204
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる