生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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416.【ハル視点】楽しい時間

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 素材にすごく良い物を使っているのか、それともやはり料理人の腕が良いのか。どちらかは分からないけれど、見た目も食材も豪華なのに味は繊細で優しい料理を俺達は堪能した。

 食事中の話題は、目の前の料理についてのものから、最近みかけた魔物の情報、王都で人気の素材、二人で出掛けるのにお勧めの場所など色々だった。ぽんぽんと変わっていく話題は面白いし、気を使わなくて良い相手だから素直に楽しめる。

 俺達の関係が一歩進んだ事をよほど喜んでくれたのか、二人は何度も何度もお祝いを言ってくれた。アキトと二人で幸せを噛み締めてしまうぐらい何度もだ。

 さらに伴侶としては先輩だからと、クリスとカーディさんは楽し気に俺達が正式に伴侶になる前に決めておくべき事まで説明してくれた。

 といっても二人で一緒に住むならまずは家探しに妥協しない事とか、その家を決める時に注意した方が良い条件、絶対に譲れない事があるなら事前に相談しておく事とかだけどな。俺にとっては知ってる事でも、アキトは興味深そうに聞いているからそれだけで二人には感謝だ。

「「ごちそうさまでした」」
「さすがに美味しかったですね」
「ああ、今日のもすごくうまかったな」

 食事が終わるタイミングをはかって運ばれてきたのは、花の香りのする温かいお茶だった。この花の香りは南の方の花茶だ。カーディさんが懐かしいと呟いていたから、もしかしたらさっき話していた地元のお茶なのかもしれないな。

 俺達はお茶を楽しみながら、のんびりと時間を過ごしていた。

「今日は昼頃には下船だったよな?」
「ええ、お昼前には着く予定だって言ってましたね」
「昼食は下りてから取るとして、移動方法はどうする?」
「私は馬車に乗っても良いかと思っていたんですが」

 馬車か。選択肢の一つではあるが、ここまであまりに何事も無く来てしまったから逆に少しだけ不安があった。クリスのいう商売敵の襲撃があるのなら、間違いなくこの先だろう。

「でも乗合は何かあった時に危険じゃないかな?乗合客に対して警戒するのは面倒だし」

 声を潜めてそう続ければ、クリスもそれが気になっていると小声で答えてくれた。

「それならまだ徒歩の方が警戒がしやすいと思うんだ」
「ハルがそう言うなら、徒歩にしましょうか」
「昼食はゆっくりするよりも手早く済ませて…」

 そんな風に俺達はどんどん予定を詰めていった。これでだいたいの予定は立ったかな。そう思った瞬間、嬉しそうなアキトの声が聞こえてきた。

「ありがとう、カーディ!行ってみるよ」
「ん?どこに行くんだ?」

 どこか行きたい場所があるならと声をかけたけれど、アキトとカーディさんは慌てた様子で俺とアキトを見つめてきた。

「あ、ごめん。二人の情報交換の邪魔しちゃった?」
「いや、もう終わったし、アキトが邪魔な事なんて無いよ」

 情報交換がアキトとの時間の邪魔になる事はあってもそれだけは無いと断言しながら、俺はそっとアキトの頭を撫でた。気にしなくて良いよと気持ちを込めながら優しく撫でると、アキトは嬉しそうに微笑んだ。

「んー…カーディ、一体何を話してたんです?」
「ん?今朝俺達が見た景色の話!」
「ああ、なるほど。カーディが言ってなかったら、私もこの後でハルに教えるつもりだったんですよ」

 さすが私の伴侶です、気持ちが通じ合ってますねと、クリスはとろけるような笑みを浮かべて続けた。カーディさんは照れくさそうに笑いながらも、満更でもなさそうだ。

「景色?」

 どこの景色の話だと尋ねても、カーディさんとクリスは笑うだけで答えてくれなかった。

「ちゃんとアキトには行き方も教えておいたから、連れていってもらったら良いよ」
「そうですよ、ハルはただアキトさんについていけば良いんです」

 二人の言葉に押されるようにちらりとアキトの方を見てみれば、アキトはピンッと元気よく片手を上げた。

「はい!道案内はまかせて!」

 しっかり案内するからねと主張するアキトがあまりに可愛くて、俺はふわりと笑みを浮かべた。こんなに楽しそうに案内すると言われたら、まかせる以外の選択肢は無いな。

「うん、分かった。じゃあアキトにまかせるね」
「それでは。次は下船の時に会いましょう」
「アキト、またあとでなー」

 二人にお礼を言ってから立ち上がったアキトは、そっと俺の目の前に手を差し伸べてくれた。ああ、食堂内の人もだいぶ減ってるからな。手を繋いでも大丈夫なのか。俺はすぐにその手を掴むと、ワクワクしながら席を立った。
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