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415.【ハル視点】大きな石の理由
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俺にとっては納得しかないクリスの発言だったけれど、アキトは不思議そうに首を傾げていた。意味が分からないと言いたげな少し困ったその表情も、可愛く見えるから困る。
カーディさんはそんなアキトに、ニヤニヤと笑いながら話しかけた。
「不思議そうな顔してるけどさ、アキトもでっかい石付きの指輪になりそうだよなぁ?」
「え、なんで?」
本気で意味が分からないと言いたげなアキトに、カーディさんとクリスは楽し気に笑いだした。指輪についての意匠はこれからアキトと相談するつもりだけれど、確かに小さな石では満足できる気がしないな。俺はじっと見つめてくるアキトから、そっと視線を反らした。
「アキトさん、良い事を教えてあげますね。カーディの生まれた南の方の地域では『伴侶の指輪の石の大きさは、それすなわち執着の大きさだ』なんて言われてるらしいですよ?」
指輪の石が大きくなってしまう理由を、クリスはアキトにそう説明した。他人事だと思って楽しそうだな。
「え…それって…」
「さっきクリスも言ってたけどさ、執着が大きいと誰が見ても伴侶がいるんだなーって見せつけたいから大きい石を選ぶらしいよ」
「ええ、まあ。大きい石のほうがより簡単に周りを牽制できるんですら、当然でしょう?」
クリス、黒い笑顔が見えてしまっているんが、その表情はカーディさんに見せても大丈夫なんだろうか。思わずそう心配してしまった。
「執着の大きさって事は、つまり気持ちの大きさって事にもなるだろ?だからまあ小さい石で良いとは言ったけど、クリスにそう提案された時は嬉しかったなー」
さらりとそう爆弾を落としたカーディさんに、哀れクリスはビシッと固まった。ああ、でもこれは固まっても仕方ないと思う。ここまではっきりと本当は指輪の石が大きいのを喜んでいたと教えてくれたんだからな。俺とアキトは思わず顔を見合わせて笑ってしまった。
「まあまだこれから指輪を選ぶんだし、二人で相談して決めれば良いよ。ハルさんも良いよね?」
「ああ、二人で選ぼうって約束はしてたんだ」
アキトはあまり派手じゃないのを好むみたいだけど、むしろこの話題を出してくれたおかげで受け入れてくれるかもしれないな。そう思うと、今この話題を出してくれたカーディさんとクリスに感謝しても良いくらいだ。
「なら余計だったかな?」
「ううん、ありがとう」
「ありがとう、カーディさん」
二人からお礼を言われて照れくさそうに笑っていたカーディさんに、衝撃から立ち直ったらしいクリスがいきなりガバッと抱き着いた。ああ、やっと我に返ったのか。
「なっ…こら、クリス!」
周りにたくさんの人がいる食堂での全力の抱擁に、カーディさんもクリスを引き剥がそうと奮闘している。それでも一向に離れないあたり、クリスって実は結構鍛えてるのかもしれないな。
「はーなーれーろー!」
「カーディ、そんなの初めて聞いた…」
「そうだろうな。だって初めて言ったからな」
「うん……カーディ、教えてくれてありがとう」
俺とアキトの存在なんて忘れてるんだろうな。そう思うほどキラキラと目を輝かせてカーディさんだけを見つめるクリスに、カーディさんはううと小さく呻くと頬を赤く染めた。
「そこでお礼を言っちゃうのが、クリスらしいよな。あーもう」
不意打ちを食らったと呟いた恥ずかしそうなカーディさんに、クリスは更に抱き着く力を強めたみたいだ。そんな二人の微笑ましくも幸せそうなやりとりを、俺とアキトはニヤニヤと笑いながら見つめていた。相変わらず仲が良くて何よりだよ。
「お待たせしました」
そんな声かけと共に現れたのは、たくさんの給仕達だった。キビキビと動く給仕達は手際よくテーブルの上に料理を並べていく。ああ、どれもすごく美味しそうだ。
「すっごい豪華だ…」
「これは…すごいな…」
圧倒される俺達の隣で、カーディさんだけは通常運転で笑っていた。
「おお、すっごくうまそうだなー」
「ありがとうございます。それではごゆっくりお楽しみ下さい」
クリスとカーディさんの二人は、すぐに飲み物の入ったグラスを持ち上げた。俺もグラスを持ってからアキトの方を伺えば、慌てた様子でグラスに手を伸ばした。
「ではいただきましょうか。お二人の新しい関係性に」
「二人の新しい関係性に」
新しい関係性――か。クリスらしい言葉選びだな。
「ありがとうございます!」
「俺からも、本当にありがとう」
四人揃ってグラスを掲げてから、こくりと飲み物を口にする。アキトが好きそうな果実水の味だなと視線を向ければ、アキトはまじまじとそのグラスを見つめていた。あ、やっぱり気に入ったんだな。
「「いただきます」」
食前の挨拶をしてから、俺はアキトの様子をちらりと見た。
朝食と呼ぶにはかなり豪華な見た目の料理に、アキトは恐る恐るフォークを取り上げた。どうやらまずは付け合わせの野菜を食べてみるみたいだ。俺はこの卵料理から食べてみようかな。
「え、すっごく、美味しい…朝食にぴったりの味…」
びっくり顔のアキトがじっと俺を見つめてくるのを感じながら、俺は口に運んだばかりの卵料理を味わっていた。
「ああ、これはうまいな」
見た目こそ派手だが、味付けはしつこくなくて食べやすい。昨日の夕食を作った料理人なら心配はいらないと思っていたが、時間帯によってここまで味を変えてくるとは。
カーディさんはそんなアキトに、ニヤニヤと笑いながら話しかけた。
「不思議そうな顔してるけどさ、アキトもでっかい石付きの指輪になりそうだよなぁ?」
「え、なんで?」
本気で意味が分からないと言いたげなアキトに、カーディさんとクリスは楽し気に笑いだした。指輪についての意匠はこれからアキトと相談するつもりだけれど、確かに小さな石では満足できる気がしないな。俺はじっと見つめてくるアキトから、そっと視線を反らした。
「アキトさん、良い事を教えてあげますね。カーディの生まれた南の方の地域では『伴侶の指輪の石の大きさは、それすなわち執着の大きさだ』なんて言われてるらしいですよ?」
指輪の石が大きくなってしまう理由を、クリスはアキトにそう説明した。他人事だと思って楽しそうだな。
「え…それって…」
「さっきクリスも言ってたけどさ、執着が大きいと誰が見ても伴侶がいるんだなーって見せつけたいから大きい石を選ぶらしいよ」
「ええ、まあ。大きい石のほうがより簡単に周りを牽制できるんですら、当然でしょう?」
クリス、黒い笑顔が見えてしまっているんが、その表情はカーディさんに見せても大丈夫なんだろうか。思わずそう心配してしまった。
「執着の大きさって事は、つまり気持ちの大きさって事にもなるだろ?だからまあ小さい石で良いとは言ったけど、クリスにそう提案された時は嬉しかったなー」
さらりとそう爆弾を落としたカーディさんに、哀れクリスはビシッと固まった。ああ、でもこれは固まっても仕方ないと思う。ここまではっきりと本当は指輪の石が大きいのを喜んでいたと教えてくれたんだからな。俺とアキトは思わず顔を見合わせて笑ってしまった。
「まあまだこれから指輪を選ぶんだし、二人で相談して決めれば良いよ。ハルさんも良いよね?」
「ああ、二人で選ぼうって約束はしてたんだ」
アキトはあまり派手じゃないのを好むみたいだけど、むしろこの話題を出してくれたおかげで受け入れてくれるかもしれないな。そう思うと、今この話題を出してくれたカーディさんとクリスに感謝しても良いくらいだ。
「なら余計だったかな?」
「ううん、ありがとう」
「ありがとう、カーディさん」
二人からお礼を言われて照れくさそうに笑っていたカーディさんに、衝撃から立ち直ったらしいクリスがいきなりガバッと抱き着いた。ああ、やっと我に返ったのか。
「なっ…こら、クリス!」
周りにたくさんの人がいる食堂での全力の抱擁に、カーディさんもクリスを引き剥がそうと奮闘している。それでも一向に離れないあたり、クリスって実は結構鍛えてるのかもしれないな。
「はーなーれーろー!」
「カーディ、そんなの初めて聞いた…」
「そうだろうな。だって初めて言ったからな」
「うん……カーディ、教えてくれてありがとう」
俺とアキトの存在なんて忘れてるんだろうな。そう思うほどキラキラと目を輝かせてカーディさんだけを見つめるクリスに、カーディさんはううと小さく呻くと頬を赤く染めた。
「そこでお礼を言っちゃうのが、クリスらしいよな。あーもう」
不意打ちを食らったと呟いた恥ずかしそうなカーディさんに、クリスは更に抱き着く力を強めたみたいだ。そんな二人の微笑ましくも幸せそうなやりとりを、俺とアキトはニヤニヤと笑いながら見つめていた。相変わらず仲が良くて何よりだよ。
「お待たせしました」
そんな声かけと共に現れたのは、たくさんの給仕達だった。キビキビと動く給仕達は手際よくテーブルの上に料理を並べていく。ああ、どれもすごく美味しそうだ。
「すっごい豪華だ…」
「これは…すごいな…」
圧倒される俺達の隣で、カーディさんだけは通常運転で笑っていた。
「おお、すっごくうまそうだなー」
「ありがとうございます。それではごゆっくりお楽しみ下さい」
クリスとカーディさんの二人は、すぐに飲み物の入ったグラスを持ち上げた。俺もグラスを持ってからアキトの方を伺えば、慌てた様子でグラスに手を伸ばした。
「ではいただきましょうか。お二人の新しい関係性に」
「二人の新しい関係性に」
新しい関係性――か。クリスらしい言葉選びだな。
「ありがとうございます!」
「俺からも、本当にありがとう」
四人揃ってグラスを掲げてから、こくりと飲み物を口にする。アキトが好きそうな果実水の味だなと視線を向ければ、アキトはまじまじとそのグラスを見つめていた。あ、やっぱり気に入ったんだな。
「「いただきます」」
食前の挨拶をしてから、俺はアキトの様子をちらりと見た。
朝食と呼ぶにはかなり豪華な見た目の料理に、アキトは恐る恐るフォークを取り上げた。どうやらまずは付け合わせの野菜を食べてみるみたいだ。俺はこの卵料理から食べてみようかな。
「え、すっごく、美味しい…朝食にぴったりの味…」
びっくり顔のアキトがじっと俺を見つめてくるのを感じながら、俺は口に運んだばかりの卵料理を味わっていた。
「ああ、これはうまいな」
見た目こそ派手だが、味付けはしつこくなくて食べやすい。昨日の夕食を作った料理人なら心配はいらないと思っていたが、時間帯によってここまで味を変えてくるとは。
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