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413.【ハル視点】依頼人から友人へ

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 カーディさんは机に突っ伏してひどいと嘆いているクリスをあっさりと無視して、俺達に向かってにっこりと明るい笑みを浮かべた。

「アキト、ハルさん、伴侶候補おめでとう」
「ああ、ありがとう」
「ありがと、カーディ」
「あ、カーディ!ずるいですよ!私からも、おめでとうございます」

 ガバッと体を起こしたクリスは、慌ててお祝いの言葉を口にした。

「ありがとう、クリス」
「ありがとうございます」
「もし何か困った事があれば、私たちにも頼ってくださいね」

 まあハルは顔が広いから助けてくれる人には事欠かないでしょうが、とクリスは笑って続けた。嬉しいよりも先に、そんな事を軽率に言って良いのか?あのストファー魔道具店の店主が?と少しだけ心配になってしまった。

 俺はわざとニヤリと悪そうな笑みを浮かべながら、クリスに尋ねた。

「そんな事を言ったら、本当に頼らせてもらうぞ?良いのか?」
「ええ、もちろんです。カーディの名前に誓って、約束は守りますよ」

 そこでカーディさんの名前に誓うのが、何ともクリスらしいな。愛しの伴侶に誓うなら絶対に守られる。そう確信できるのが少し面白い。

「クリス、勝手に俺の名前に誓うなよ」

 苦笑しながらカーディさんはそう口を挟んだ。

「まあでも、俺達の本拠地はトライプールの街だから。相談があってもなくても、いつでも会いにきてくれよ」
「うん、ありがとう」

 カーディさんとアキトが話している間にクリスはちらりと俺を見ると、小さな声で心配させましたか?と軽く首を傾げた。

 これでも言う相手は選んでるので安心してくださいねなんて小声で伝えてくるクリスに、もう笑うしかない。うん、これは俺の負けだな。そちらも何かあれば頼ってくれと、俺も小声で返しておいた。

「お客様、ご注文はお決まりでしょうか?」

 背後からかけられた声は、給仕の男性のものだった。

「注文…えーと…」

 戸惑うアキトから助けを求めるような視線が来たけれど、さすがに俺もここの料理は把握していないな。給仕に聞くかと決意した俺が口を開こうとした瞬間、クリスが満面の笑みで口を開いた。

「二人が伴侶候補になったお祝いに、一番豪華な朝食セットを四人前お願いします。料金は全て私が払います」

 さらりと言ってのけたクリスの言葉を理解するなり、アキトと俺は慌てて声を上げた。

「待って下さい!そんな事しなくて良いですよ!」
「そうだぞ、クリス。むしろ心配をかけたんだから、俺達が払う」

 二人がかりでそう言いつのったけれど、クリスはぶんぶんと大きく首を振って拒否を示す。

「お祝いの食事の費用を、本人が払うなんてあり得ないですよ」
「でも…」
「あー、アキト、ハルさん。クリスに甘えといたら良いよ」
「カーディまで!」
「だってクリスは言い出したら聞かないぞ。それに俺も朝から美味しいものが食べられるのは嬉しいから気にするな!」

 この船の料理は絶品だから朝食も楽しみだよなと、カーディさんは明るく笑って続けた。確かにクリスは言い出したら聞かないだろうな。ここは譲るとしても、この分は絶対に何かで返さないとな。クリスが手に入り難いと言っていた素材の事を思い出しながら、俺は口を開いた。

「分かった…ありがとう」
「ありがとうございます」
「それでは、一番豪華な朝食セットを四人前お願いしますね」

 クリスの言葉で振り返れば、俺達の後ろにはさっきの給仕が立っていた。忙しい時間帯なのに無駄な時間を過ごさせてしまった事をアキトと二人で詫びれば、お気になさらずとさらりと返されてしまった。更には俺達二人にそつなく伴侶候補のお祝いの言葉まで告げてから、給仕は笑顔で去っていった。

「昨日の夕飯美味しかったよな」
「あ、そうだ。クリス、夕飯も手配ありがとう」
「いいんですよ」
「二人でのんびりと食事を楽しめて、すごく幸せだったよ」

 俺がそう告げれば、カーディさんはにんまりと笑みを浮かべた。

「仲直りしたかどうかが気になるから、手配したのは失敗だったかもしれないって言ってたのになークリス?」
「カーディ…なんで言っちゃうんですか……」

 がっくりと肩を落としたクリスに、カーディさんは笑いながらあっさりと答えた。

「折角の二人きりの時間なのに、アキトとハルさんの事ばっっっかり気にしてたから、軽い嫌がらせ?」

 ああ、それで今日はクリスに対してのあたりが強いのか。貸切船を楽しみにしていた様子だったのに、俺のせいで二人の時間の邪魔をしてしまったと思うと素直に申し訳ない。謝ろうと口を開こうとしたけれど、それよりも前にクリスが小さな声で謝った。

「う…ごめんなさい…」
「まあ俺も二人の事は気になってたから怒っては無いんだけどな」

 ばらしてごめんなと笑ったカーディさんに、クリスはふうとひとつ息を吐いた。

「俺の伴侶が最高に優しいっ!」

 周りに配慮してか小声ではあったけれどいつもの調子で騒ぎだしたクリスに、俺とアキトは顔を見合わせてから笑ってしまった。
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