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411.【ハル視点】幸せな夢と幸せな現実
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とても幸せな夢を見ていた。
爽やかな風の吹いてくる木陰で、俺はアキトと二人で眠っていた。お互いに寄り添うように肩を寄せ合って、手は繋いだままでうとうととまどろんでいる。
それはこのまま起きたくないと思ってしまう程の幸せな夢だったけれど、不意にじっと俺を見つめてくる視線を感じた。その視線には敵意なんてかけらも無い。温かくて柔らかくて優しいそんな視線だった。
半分夢の中にいた俺は、それでも早く目を開けないとと思った。
うっすらと目を開いてみれば、目の前には予想通り現実のアキトの姿があった。挨拶をしようと口を開けば、言葉よりも先に大きなあくびが飛び出した。
「ん、おはよ、アキト」
アキトの隣にいると、本当によく眠れるんだよなぁ。そんな事を考えながら何とか朝の挨拶をすれば、アキトもふわぁと一つあくびをしてから口を開いた。
「おはよう、ハル」
「あー…昨日は結構無理しちゃったけど…どこも痛くない?」
「…どこも痛くないよ」
アキトは頬を赤く染めながら、ぽつりとそう呟いた。
「伴侶候補になってくれたのが嬉しくて、だいぶ暴走したよね…ご」
「待って!」
不意に俺の言葉を遮るように、アキトが大きな声を上げた。アキトがこんな風に俺の言葉を遮るなんて滅多にない事だから、すこし驚いてしまった。
「え…」
「謝らなくて良いから!俺もだいぶ浮かれてたし、そもそも俺から誘ったんだし!」
ああ、なるほど。俺に謝らせないために先回りしてくれたのか。そう考えるとアキトらしい気もするな。
俺はじっとアキトを見つめた。基本的に嘘は吐かないアキトだが、自分の体調とかについては誤魔化す事もあるから注意が必要だ。
「ハル、本当に大丈夫だから、この話は終わりにしよ?ね?」
「…分かった」
しぶしぶながらも俺はその提案を受け入れた。
アキトの機嫌を損ねたくは無いし、あのストファー魔道具店の新回復ポーションのおかげで痛みは無い筈だからな。そんな事を考えていると、不意にアキトのお腹がぐうと音を立てた。
「う…聞こえた?」
「ごめん、聞こえた」
あえて笑い混じりでそう答えれば、アキトも笑ってくれた。
「朝食は二人で食堂に行く?それとも俺が何か買ってこようか?夜ごはんを部屋まで届けてくれたぐらいだから、朝食も部屋で取る事はできると思うんだ」
そう提案したけれど、アキトはゆるりと首を振った。
「せっかくの船での食事だし、食堂行ってみたいな」
「それもそうだね、じゃあ行こうか」
俺達は立ち上がると、大急ぎで身支度を整えた。さらりと発動されたアキトの浄化魔法のおかげで、あっという間に準備は整った。
「行こうか」
そう声をかけながらすっと手を差し出せば、アキトはすぐに手を重ねてくれた。
二人で手を繋いだまま廊下を進んでいけば、迷う事なく食堂へと辿り着いた。すれ違った船員がご案内しましょうかと聞いてくれたけれど、俺は船内地図を見て覚えているからと断った。
道を覚えているのは本当だが、断ったのにはもう一つ理由があった。案内を申し出た船員が、この船の警備担当の中でも群を抜いて強そうだなと思った船員だったからな。近くにいられると落ち着かない気分になってしまう。
道を覚えていると言った俺を、アキトはキラキラと尊敬の眼差しで見つめてくれた。その目で見られると、何だってできる気になるな。とりあえずまずは、食堂まで最短の道順で移動してみようかな。
辿り着いた食堂は、本当にこんな風に使って良いのかと聞きたくなるような家具がずらりと並んでいた。朝食の時間帯のせいか中はかなり混みあっていて、さすがに手を繋いだままでの移動は出来なさそうだ。
名残惜しい気持ちはあったけれど、そうも言っていられない。空腹のアキトには、早く朝食を食べてもらいたいしな。俺達はそっと手を離してそのまま歩き出した。
まさかその行動が、クリスを不安にさせる事になるとは思わずに。
「アキト、ハルさん、こっち」
「あ、カーディ!おはよう!」
「おはよ、アキト。ここ座って」
「カーディさん、おはよう」
明るい笑みを浮かべたカーディさんの隣には、穏やかな笑みを浮かべたクリスが座っていた。二人の向かい側の空席に進められるままにアキトと二人で腰を下ろせば、クリスはにっこりとどこか凄みのある笑みを浮かべた。
「おはようございます、お二人とも」
「ああ、おはよう」
「おはようございます」
爽やかな風の吹いてくる木陰で、俺はアキトと二人で眠っていた。お互いに寄り添うように肩を寄せ合って、手は繋いだままでうとうととまどろんでいる。
それはこのまま起きたくないと思ってしまう程の幸せな夢だったけれど、不意にじっと俺を見つめてくる視線を感じた。その視線には敵意なんてかけらも無い。温かくて柔らかくて優しいそんな視線だった。
半分夢の中にいた俺は、それでも早く目を開けないとと思った。
うっすらと目を開いてみれば、目の前には予想通り現実のアキトの姿があった。挨拶をしようと口を開けば、言葉よりも先に大きなあくびが飛び出した。
「ん、おはよ、アキト」
アキトの隣にいると、本当によく眠れるんだよなぁ。そんな事を考えながら何とか朝の挨拶をすれば、アキトもふわぁと一つあくびをしてから口を開いた。
「おはよう、ハル」
「あー…昨日は結構無理しちゃったけど…どこも痛くない?」
「…どこも痛くないよ」
アキトは頬を赤く染めながら、ぽつりとそう呟いた。
「伴侶候補になってくれたのが嬉しくて、だいぶ暴走したよね…ご」
「待って!」
不意に俺の言葉を遮るように、アキトが大きな声を上げた。アキトがこんな風に俺の言葉を遮るなんて滅多にない事だから、すこし驚いてしまった。
「え…」
「謝らなくて良いから!俺もだいぶ浮かれてたし、そもそも俺から誘ったんだし!」
ああ、なるほど。俺に謝らせないために先回りしてくれたのか。そう考えるとアキトらしい気もするな。
俺はじっとアキトを見つめた。基本的に嘘は吐かないアキトだが、自分の体調とかについては誤魔化す事もあるから注意が必要だ。
「ハル、本当に大丈夫だから、この話は終わりにしよ?ね?」
「…分かった」
しぶしぶながらも俺はその提案を受け入れた。
アキトの機嫌を損ねたくは無いし、あのストファー魔道具店の新回復ポーションのおかげで痛みは無い筈だからな。そんな事を考えていると、不意にアキトのお腹がぐうと音を立てた。
「う…聞こえた?」
「ごめん、聞こえた」
あえて笑い混じりでそう答えれば、アキトも笑ってくれた。
「朝食は二人で食堂に行く?それとも俺が何か買ってこようか?夜ごはんを部屋まで届けてくれたぐらいだから、朝食も部屋で取る事はできると思うんだ」
そう提案したけれど、アキトはゆるりと首を振った。
「せっかくの船での食事だし、食堂行ってみたいな」
「それもそうだね、じゃあ行こうか」
俺達は立ち上がると、大急ぎで身支度を整えた。さらりと発動されたアキトの浄化魔法のおかげで、あっという間に準備は整った。
「行こうか」
そう声をかけながらすっと手を差し出せば、アキトはすぐに手を重ねてくれた。
二人で手を繋いだまま廊下を進んでいけば、迷う事なく食堂へと辿り着いた。すれ違った船員がご案内しましょうかと聞いてくれたけれど、俺は船内地図を見て覚えているからと断った。
道を覚えているのは本当だが、断ったのにはもう一つ理由があった。案内を申し出た船員が、この船の警備担当の中でも群を抜いて強そうだなと思った船員だったからな。近くにいられると落ち着かない気分になってしまう。
道を覚えていると言った俺を、アキトはキラキラと尊敬の眼差しで見つめてくれた。その目で見られると、何だってできる気になるな。とりあえずまずは、食堂まで最短の道順で移動してみようかな。
辿り着いた食堂は、本当にこんな風に使って良いのかと聞きたくなるような家具がずらりと並んでいた。朝食の時間帯のせいか中はかなり混みあっていて、さすがに手を繋いだままでの移動は出来なさそうだ。
名残惜しい気持ちはあったけれど、そうも言っていられない。空腹のアキトには、早く朝食を食べてもらいたいしな。俺達はそっと手を離してそのまま歩き出した。
まさかその行動が、クリスを不安にさせる事になるとは思わずに。
「アキト、ハルさん、こっち」
「あ、カーディ!おはよう!」
「おはよ、アキト。ここ座って」
「カーディさん、おはよう」
明るい笑みを浮かべたカーディさんの隣には、穏やかな笑みを浮かべたクリスが座っていた。二人の向かい側の空席に進められるままにアキトと二人で腰を下ろせば、クリスはにっこりとどこか凄みのある笑みを浮かべた。
「おはようございます、お二人とも」
「ああ、おはよう」
「おはようございます」
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