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404.食堂で朝食を

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 目覚めて最初に視界に飛び込んできたのは、あまりに幸せそうなハルの寝顔だった。

 相変わらず驚くほど長いハルのまつげが、窓の外から差し込んできた光に透けている。

 宗教画とかに描かれてもおかしくないんじゃないかなと思ってしまうほどの美しさなんだけど、口元がふにゃりと笑っているのが何ともアンバランスだ。でもその子どもみたいな笑顔も可愛いなと思ってしまうんだよな。

 前にも眠ってる所を見た事はあったけれど、ここまで幸せそうなのは初めて見たかもしれないな。すうすうと寝息を立てるハルを起こさないように、俺は出来る限り気配を消した。

 透けるまつげも、キラキラと太陽の光を反射する髪も、彫りの深い高い鼻も、本当に芸術品みたいだと思う。でもやっぱり俺が一番好きな所はあの目かな。あの神秘的な色合いの目は見惚れるほど綺麗だけど、好きな理由はそれだけじゃない。雄弁にハルの感情を伝えてくれるから好きなんだ。

 飽きもせずにじーっと寝顔を観察していると、不意にハルが身じろいだ。そのままうっすらと目を開く。俺の好きなあの紫色の瞳が、まつげの向こうからちらりと見えた。まだ眠そうだな。そう思いながら眺めていると、ハルはふわぁと大きく一つあくびをした。

「ん、おはよーアキト」

 いつもとは違うその油断しきった声を聞きながら、俺もふわぁと一つあくびをしてから口を開いた。人のあくびって見てるとうつるよね。

「おはよう、ハル」
「あー…昨日は結構無理しちゃったけど…どこも痛くない?」

 申し訳なさそうに直球でそう聞かれた俺は、頬を赤く染めながらもどこも痛くないよと小声で答えた。

「伴侶候補になってくれたのが嬉しくて、だいぶ暴走したよね…ご」
「待って!」

 俺は慌ててハルの言葉を遮った。

「え…」
「謝らなくて良いから!俺もだいぶ浮かれてたし、そもそも俺から誘ったんだし!」

 そう言いきっても、ハルはどことなく不服そうな顔をして俺を見つめてきた。

 でも本当にそう思ってるんだよね。ハルに求められるのが嬉しくて本気で拒否もできなかったし、何ならもっととか奥に入れてとか言いまくった記憶がうっすらとある。あ、駄目だ。この爽やか朝の空気の中で思いだすのは、すごく恥ずかしい気がする。

「ハル、本当に大丈夫だから、この話は終わりにしよ?ね?」
「…分かった」

 しぶしぶと提案を受け入れてくれたハルにありがとうと告げた瞬間、空気を読まない俺のお腹がぐうと音を立てた。

「う…聞こえた?」
「ごめん、聞こえた」

 笑い混じりの答えに、俺も笑ってごまかす事にした。夜ごはんはたっぷり食べたと思うけど、いっぱい体を動かしたからかすごくお腹が減っているみたいだ。

「朝食は二人で食堂に行く?それとも俺が何か買ってこようか?」

 夜ごはんを部屋まで届けてくれたぐらいだから、朝食も部屋で取る事はできると思うんだとハルは提案してくれた。俺はそれにゆるりと首を振った。

「せっかくの船での食事だし、食堂行ってみたいな」
「それもそうだね、じゃあ行こうか」

 またお腹が鳴り出す前にと、俺達は大急ぎで身支度を済ませた。昨日のうちにハルが浄化魔法をかけてくれてはいたけれど、もう一度浄化魔法をかけて準備は万端だ。

「行こうか」

 当然のようにすっと差し出された手に、俺はすぐに自分の手を重ねた。



 手を繋いだまま廊下を進んでいけば、迷う事なく食堂へと辿り着いた。最初はすれ違った船員さんが案内してくれようとしたんだけど、なんと乗船手続きの時に船内地図を見て覚えているからとハルが断ったんだ。

 ハルの記憶力というか空間把握力ってやっぱりすごいんだな。俺にはそこまで出来ないから尊敬する。

 感心しながら足を踏み入れた食堂は、高級そうな家具がずらりと並んでいた。朝食にぴったりの時間帯のせいか中はかなり混みあっていて、さすがに手を繋いだままでの移動は出来なさそうだ。なんだか名残惜しい気持ちはあったけれど、そうもいってられないからと俺達は手を離して歩き出した。

 前を行くハルの背中を追いかけながら食堂の中を歩いていくと、不意に俺達に声がかかった。

「アキト、ハルさん、こっち」
「あ、カーディ!おはよう!」
「おはよ、アキト。ここ座って」
「カーディさん、おはよう」

 明るい笑みを浮かべたカーディの隣には、穏やかな笑みを浮かべたクリスさんが座っていた。二人の向かい側の空席に進められるままに腰を下ろせば、クリスさんはにっこりと笑みを浮かべた。

「おはようございます、お二人とも」
「ああ、おはよう」
「おはようございます」
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