生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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394.二人の秘密※

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 あんな色気の無い誘い文句でも、ハルはこんなに喜んでくれるんだな。

 じわじわと嬉しさが込み上げてきた俺は、抱きこまれたままの体をぐいっと精一杯伸ばして、ハルの唇に口づけた。無理な体勢のせいで本当に触れるぐらいの軽いキスになっちゃったけど、ちゃんと届いて良かった。

 ハルは小さく身じろいでから、無言のままじっと俺を見つめてきた。

「ハル、しよ?」

 はっきりとそう告げた瞬間、ハルの目の色が変わったのが分かった。明らかに欲望の色が滲んでいるその目に見つめられると、それだけでたまらなく興奮する。

 うっすらと開いたハルの唇が近づいてくるのを、俺も同じくうっすらと口を開いて受け入れる。

「んぅ…む…う…」

 遠慮なく舌を絡めとってくる深い深い口づけに翻弄されている間に、ハルの手にはいつの間にか小さな瓶が握られていた。前も気になってたけど、それってどこから出したんだろう。

「ね…ハル」
「ん?どうしたの?」

 少し唇が離れた瞬間にそっと声をかければ、ハルはすぐに応えてくれた。

「それさ…どこから、出したの?」
「ああ、言ってなかったね」

 ハルはそう言うと、俺の目の前にそっと左手をかざして見せた。お揃いの伴侶候補の腕輪と並んでいる細い腕輪を、ハルの指先がそっと撫であげる。

 ん?それってハルがずっと前からつけてる腕輪だよね。たしか騎士団で眠ってた時もつけてた気がする。ハルに似合ってるなと思って観察した事があるから、印象深かったんだ。

「この腕輪はね、ダンジョン産の魔道具なんだけど…実はこれには魔導収納鞄みたいな機能があるんだよ」
「え…そうなの?それはすごいね!?」
「あー、まあ容量はすごく小さいんだけどね」

 この腕輪には両手に乗せれる程度の物しか入らないらしいけど、それでも十分すごいものだよね。ぱっと見は普通の腕輪なのに、荷物が収納できるなんて夢のアイテムだと思う。

「ダンジョンで見つけてからずっと愛用してるんだ。あ、他の人には内緒にしてね?」

 ハルは運よく自分で見つけたらしいけど、こういう腕輪の形の魔導収納機能のある魔道具はかなり珍しい物なんだって。市場にも滅多に出回らないものらしい。

 だから今までは誰にも言わず、存在をひた隠しながらこっそり使ってきたんだそうだ。

「えっと、それって…家族にも言ってないの?」
「ああ、ファーガス兄さんも似たようなものは持ってたけど、言った事は無いよ」

 もしかしたら見抜かれてるかもしれないけどねと、ハルは苦笑しながらそう続けた。

 家族にも教えてないような大事な物を、俺には教えてくれるんだ。

「教えてくれてありがと、ハル」
「どういたしまして」
「ちゃんと秘密にするからね」
「うん、ありがとう…でも今は…」

 爽やかに笑ったハルは、流れるように呪文を唱えてみせた。え、と思う間もなく、ハルの指先が淡いオレンジ色の光をまとう。

「後ろ、触って良い?」

 律儀にそう尋ねられて、俺はやっとその指先の光が浄化魔法の光だと気づいた。こくこくと頷いてそっと控え目に足を開けば、俺の後孔にハルの指がそっと優しく触れた。

 すぐにホワッと体内が温かくなる。きちんと浄化されたみたいだ。

「アキト、無理だと思ったら、ちゃんと止めてね?」
「ん、分かった」

 相変わらずハルは優しいなと思いながら素直に頷けば、ハルは瓶の蓋を片手で器用に開けてみせた。蓋を開けるだけでまるで爽やかな森のような香りが、ふわりと室内に広がっていく。

 うん、やっぱりこの香り好きだな。前はこの香りでリラックスできたんだけど、今は何だかドキドキしてしまう。香りと記憶って繋がるものなんだろうか。

「触るよ」
「んっ……」

 滑りを帯びた指先がひだを撫でるように触れるだけで、自然と声が漏れた。

 この前はガチガチに緊張しまくってた俺だけど、今回は緊張というよりも期待の方が大きい気がする。だって、俺はもう後ろでも気持ちよくなれる事を知ってるからね。

 俺が緊張していない事に気づいているのか、それとも初めてじゃなくなったからか、ハルの指の動きも前よりもかなり大胆な気がする。特製ポーションの滑りを借りてゆっくりと、けれど確実に押し入ってくる指先に、びくびくと体が跳ねた。

「ぁっ…ん…う」

 押さえきれない声を洩らした俺の体を、ハルは宥めるように優しく撫でてくれた。

 足してくれたポーションのおかげか痛みは全くないし、やっぱり前よりも気持ち良い気がする。埋められた指が抜けていくのを感じながら、俺はぼんやりとそんな事を考えていた。
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