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390.小瓶

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 唐突な俺の行動によっぽど驚いたのか、ハルは最初はキョトンとした表情でこちらを見つめていた。けれど次の瞬間には、ふわりと嬉しそうに頬を緩めて笑った。

「俺も誰よりもアキトの事が大好きだよ」

 そう言いながら顔中に落とされる口づけがあまりに幸せで、思わず声を上げて笑ってしまった。そっと重なった唇に自分から舌を伸ばせば、口づけはどんどん深くなっていく。口づけの合間にぷはっと息継ぎをした俺に、ハルはハッと我に返った様子で距離を取った。

「あ、ごめん、アキト」

 え、なんでごめん?と思ったら、ハルは困った顔で俺に話しかけてきた。

「明日の昼には下船しないとだから…今日はこれ以上はできないんだ」
「え…?」
「アキトがまだ外の景色を見たいならこのまま付き合うし、たくさん移動して疲れたなら一緒のベッドで眠るのも良いんだけど…どうする?」

 申し訳なさそうな顔で俺を見つめながらハルは選択肢を委ねてきたけど、俺はそのどちらも選ぶつもりは無いよ。ハルがそう言うかもって予想はしてたから、ショックも受けなかったし、解決策は俺のポケットにあるからね。

「どっちも良いけど…実はハルに見て欲しいものがあるんだ」
「え、何?何でも見るよ?」

 不思議そうにしながらもすぐに快諾してくれたハルに、俺はさっきからポケットに潜ませていた小瓶をそっと握りしめた。

 この副作用のないポーションがあれば、ハルと抱き合うための問題点はなくなる筈だ。

 でもこれを自分から渡すって事は、つまり俺はハルに抱いて欲しいんだって直球で言うのと同じ事なんだよね。そう考えると恥ずかしい気持ちもちょっとだけあるけど、それでも俺は勇気をふり絞ってハルの手に小瓶を押し付けた。

「これ、副作用の無いポーションなんだって」

 ハルは手の上に乗せられた飾り気の無い小瓶を、何も言わずにまじまじと見つめている。半透明の水色をした淡く光る液体が、瓶の中でゆらりと揺れた。

「え…?副作用の無い回復ポーション?」
「えーと、何でも数年かけてストファー魔道具店で開発中のやつ…で?いくつかの魔道具を使って成分を調整してあるってカーディは言ってた」
「本当にそんなものがあるのか?カーディさんを疑うわけじゃないけど…安全性は大丈夫なのか?」

 そんなハルの言葉に俺は鑑定書を取り出すと、慌ててハルに見えるように開き始めた。ポケットの中に入るように小さく折りたたんでいたせいで、開くのが大変なんだよ。

「安全確認はきちんと終わってるって言ってたよ。これメロウさんの鑑定書のコピーだって言ってた」

 俺にはよく分からない数字と文字の羅列だったけど、じっくりとその鑑定書を読み込んだハルは感心したようにホウと一つ息を吐いた。

「これはすごいな。薬効は消さずに、中毒になる成分だけを取り除いてから作られているのか…メロウの署名も間違いなく本物だ」

 画期的なものだし誰もが欲しがるだろうねと続けたハルは、興味深そうに瓶を魔道具の光にかざしていた。

「じゃ……きる?」
「え、ごめん、アキト。もう一回言って?」
「じゃあ…これがあれば、ハルとできる?」

 真っ赤な顔のまま蚊の鳴くような小さな声で尋ねた俺を、ハルは驚いた顔で見つめている。うう、正直恥ずかしいけど、ハルが良いって言ったら使ってみてって言われてるんだよ。そこだけは絶対だってカーディに言われてるから、俺は言葉を続けた。

「え…」
「ハルは!これを使っても良いと思ったの?」
「安全面は大丈夫だと思ったけど…何故?」
「何故って…ハルとしたいから、わざわざカーディに相談したんだよ」

 不思議そうなハルの質問に、もう俺の顔からは火が出そうだ。

「カーディさんに相談…?」
「俺の体がまだ慣れてないから、二回目が無いんだって相談した」

 黙ってしまったハルに、鑑定書を見たハルが良しって言ったら使ってみてともらった事を俺は必死で説明した。

「………ハル、呆れた?」
「うーん…今の気持ちを正直に言って良い?」
「うん」

 ぎゅっと目をつむって答えを待っていると、ふわりとハルに抱き上げられた。

「わっ…」
「カーディさんに相談って何をどこまで話したんだろうって複雑な嫉妬芯と……あとはアキトの可愛すぎる行動に今日は理性が仕事しないかもしれないって心配かな」
「つまり呆れてないの?」
「呆れる要素が無いよね」

 危なげなく俺を抱き上げたハルは、そのまま俺をベッドに横たえた。
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