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387.【ハル視点】凄腕の細工師

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 アキトは俺の腕にぴったりとはまった腕輪を、じっと見つめたまま立ち尽くしていた。そういえば、アキトの目の前でこういう付与魔法を使ったのは初めてだったか。

 興味深そうに観察しているアキトに、驚かせないように出来るだけそっと触れる。

「アキト、座ろう」

 声をかけながら手を引いて誘導すれば、アキトはすぐにソファへと足を進めてくれた。すこし小さ目のソファに、二人並んで腰を下ろす。

 窓から差し込む太陽の光を反射して、アキトのつけた腕輪がキラリと光った。ああ、本当に伴侶候補になってくれたんだなと、腕輪を見ているとじわじわと実感が湧いてくる。

 さっきまでは恋人だったけれど、今はもう伴侶候補だ。

 アキトはちらりと俺の腕輪を見てから、続けて自分の腕輪をまじまじと見つめた。そうして何とも幸せそうに笑みを浮かべた。

 その一部始終を目撃していた俺は、アキトの可愛さに思いっきり叫びたい気分だった。この瞬間を絵師に描いてもらい永久に保存したいという気持ちと、二人きりの空間に他者を入れたくないという気持ちがせめぎ合うほどの可愛さだった。

 しかも太陽にかざすようにして自分の腕輪を見つめては、その度に嬉しそうに笑ってくれるんだ。これほど幸せな光景があるだろうか。

 多分俺はいま、人生で一番幸せだと思う。

「ハル、この腕輪大事にするね。ありがとう」
「俺こそ貰ってくれてありがとう」

 心からの感謝を込めた俺の言葉に、アキトはぱちぱちと瞬きをしてからふわりと笑ってくれた。

「それにしても、こんなに早くこの腕輪が役に立ってくれるとは思ってなかったよ」
「あ、そうだ!さっきから気になってたんだけどさ…これっていつ用意したの?」

 好奇心で目を輝かせたアキトの質問に、俺はそっと目を反らした。

「あー…それね…本当に聞きたい?」
「え?なんで?そんなに言い難い事?」
「えーと…引かれないかなーって俺が心配なだけなんだけど…ね」

 ずーっと前からアキトを伴侶にする気だったんだって知ったら、いくらアキトでも重すぎると思うだろうな。

「え、いつ用意してくれたのかってだけの話なのに、引くような事なの?」
「うーん…どうだろう?アキトなら笑って許してくれる…のかな?」
「分からないけど、そんな事言われたら逆に気になる…」

 教えて欲しいなと迫ってくるアキトに、答えないなんて選択肢は俺には無かった。俺はぽつりと答えた。

「俺のためにあの魔法を使ってくれたアキトが、眠ってた間…なんだ」
「ん?あの魔法って…騎士団の?毒で苦しんでたハルに魔法を使った時の話だよね?」
「うん、アキトのおかげで目覚めた後…その…結婚済みの騎士達から情報収集してね」

 眠ったままのアキトの側に、ずっといるわけにもいかなかったからな。あの時は手紙を書いたり書類仕事をしたりと、やる事が多くてバタバタと動き回っていた。

 その合間に既婚の騎士団員達を尋ねて回ったんだ。腕が良い細工師の情報を教えて欲しいと言えば、ついに俺にも相手が出来たのかと大騒ぎにはなったが、その分情報はすぐに集まってきた。

 どこの細工師がおすすめで、どこどこはおすすめできない事。あそこは安いけど物は良くない、あっちは高いけど物は良い。納期が短い店に、納期を超えてしまう店と様々だった。

 たくさんの候補の中から最終的に選んだ細工師は、魔法を駆使して納期を短くするけれど細工にもこだわるという変わり種だった。

 植物の意匠が得意な事もあり快諾してくれた細工師は、結局依頼から五日もせずに完成させてくれたんだから驚きだ。

「すぐに仕上げてくれるっていう所に依頼したんだ。だから冒険者として二人で活動した時には、もう持ってたって事になる」
「へーそうなんだ?」

 あまりにあっさりとした返事に、今度は俺が首を傾げた。

「あのさ…アキト、本当に引かないの?」
「ん?なんで引くの?むしろ俺は嬉しいと思うけど」

 心底不思議そうにそう尋ねてきたアキトに、俺は思わずあーと大きな声を出した。

「え、どうしたの急に?大丈夫?」
「いや、驚かせてごめん。大丈夫だよ。ただアキトの器の大きさを忘れてたなーと思ってね」
「別に俺は器が大きいとか無いと思うんだけどな」
「いいや!恋人になってすぐに伴侶の腕輪を用意するーなんて奴は、普通なら重すぎるとか、その執着が怖いとか言われるものだよ?」

 というかそれぐらいは、我ながら言われても仕方のない状況だと思う。思わず自嘲気味にそう続けた俺に、アキトは不思議そうな顔でゆるりと首を傾げた。

「普通とか関係ある?俺はハルがそんなに前から俺と伴侶になりたいって思ってくれてたって知れてすっごく嬉しいよ!」

 にっこりと笑ってそんな殺し文句を口にしたアキトに、俺は顔を赤面させたままうつむいた。うん、アキトは不意打ちでこういう事を言っちゃうんだよな。そういう所も大好きなんだけど、反応に困る。

 ううとうつむいたまま呻いた俺の頭を、アキトの手が柔らかく撫でてくれる。

「あー…そうだ…アキトは男前なんだよなぁ」

 包容力がすごいからなと、俺は伴侶候補になってくれたアキトの優しい手を受け入れた。
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