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384.【ハル視点】アキトの家族の話
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不意に黙り込んだアキトは、何かを決意したように俺を見つめてからそっと口を開いた。
「お父さんは…ハルから見てどんな人?」
そう尋ねられて初めて、そういえば今までアキトに父について尋ねられた事は無かったなと気づいた。何度も読み返すほどあの本を好きなアキトなら、もっと前から話を聞きたかったんじゃないかなと思う。
それでも尋ねてこなかったのは、有名人を父に持つ俺に気を使ってくれていたのかもしれない。アキトは本当に優しいからな。
「うーん、そうだな…すごい人だと思ってるよ。まだ俺は勝てる気がしないんだけどね」
「え、ハルでも勝てないの?あんなに強いのに?」
大きく目を見張ったアキトがポロリとこぼした言葉が、素直に嬉しい。そんな風に思ってくれているんだなと温かい気持ちになった。
「一対一ならそこそこ良い勝負にはなるかもしれないけど、最終的には勝てないだろうな」
単純な強さだけなら、やっと対等に勝負ができるぐらいにはなった…と思うんだけどな。良い勝負になりそうだと思っても、どんどん攻め方を変えてくるから厄介な相手だ。
「…たくさんの人を率いての戦いが得意な人だから、戦略とかを考えるのも得意なんだ」
そう伝えれば、アキトは目をキラキラと輝かせた。
「本にもそういう話はあったなぁ。あれって実話なんだ?」
「ああ、あの本は父さんの副官が書いたものだから、ほぼ実際にあった事だよ」
ほぼと言ったのは、実際の出来事があまりに嘘っぽいからとすこし控え目に表現している話もあるからだ。アキトに嘘は言いたくないからな。
え、じゃああれもこれも本当の事なの?と尊敬の眼差しを浮かべるアキトはとても可愛い。
不意に窓の外を飛んでいった鳥を、アキトの視線が追ったのが分かった。感心しながらもぐいぐい来ないのもアキトらしいな。
折角の機会だから俺も質問しても良いだろうか。
「ねぇ、アキトのお父様はどんな人?」
だいぶ前から気にはなっていたけれど、ずっと聞けずにいた質問をそっと投げかける。
もし異世界にいる家族の事を尋ねて、異世界に帰りたいと言われたらどうしよう。そんな考えがどうしても頭を過って聞けなかった。
「えーと…俺と同じ体質で、でも俺と違ってすっごく幽霊に好かれやすい人かな」
「え、幽霊に好かれるの?」
「うん。面白いぐらいに幽霊に好かれてたよ」
アキトは懐かしそうに、外を歩くだけでも幽霊の方からどんどん近づいてくるんだよと教えてくれた。さすがに周りに人がいる時は無視してたけど、家の中までついてきた幽霊とは話したりしてたと教えてくれた。
そんなすれ違った幽霊が家の中までついてくるなんて、危険では無いんだろうか。まずそこが心配になってしまった。
「母には幽霊だけに通用するフェロモンでも出てるのかしらって言われてたよ」
「お母様はお父様とアキトの体質は知ってたんだね?」
「うん。父さんのは結婚する前に聞いて知ってたけど、まさか息子に遺伝するとは思ってなかったみたいだけどね」
アキトはそう言うと、明るく笑って続けた。
「でもうちの母は二人ばっかり色んなものが見えてずるいって言っちゃうような人だったから、はたから見たら挙動不審だった幼い頃の俺の行動も笑って見守ってくれてたよ」
そうか、本当に良いお母さんだったんだな。
寂し気に黙り込んだアキトの目を、俺はまっすぐに見つめた。少しの感情の揺れも見逃さないように注意しながら、震えそうな声を必死でこらえて尋ねる。
「アキト、やっぱり帰りたいって思う?」
答えが返ってくるまでのたった数秒の沈黙が、ひどく長く感じた。
「帰りたいっていうより、両親に会いたいとは思うよ。何も言わずにこっちに来たから絶対心配させてると思うし、出来る事ならまた会いたいとは思うよ」
「そっか…そうだよね」
「あ、でもね、俺はこっちに来て良かったとも思ってるよ」
アキトの発言に、俺は思わず目を見張った。
「え…?」
「だって俺がこっちに来なかったら、あの時あのナルクアの森に飛ばされなかったら、ハルとは出会えなかったでしょう?もうハルのいない生活とか想像できないし」
じわじわと胸の中にアキトのくれた言葉がしみ込んでくる。そう思ってくれているのが嬉しくてたまらない。俺だってもうアキトのいない生活なんて想像できないし、想像したくもない。
もしいつか異世界への帰り方が見つかってアキトが帰りたいと言うなら、絶対に一緒について行こうと俺は密かに決意した。
「ありがとう、アキト」
「俺もありがとね、ハル」
アキトの幸せそうな笑顔に、俺は考える間もなく口を開いていた。
「アキト…」
「ん?」
「ずっと言いたいと思ってた事があるんだけど、聞いてくれる?」
愛おしい気持ちが溢れてきて、もう我慢できない。
「何でも聞くよ?」
真剣な表情に変わったアキトは、ソファに座ったまま俺の顔を覗き込んできた。
「まだ想いを交わしてからそれほど経ってないのに、こんな事を言って良いのかなってずっと思ってたんだ。アキトに引かれたらどうしようって思って言えずにいた」
「うん」
何の話かすら分からない状況だと思うのに、それでもこんなに真面目に受け止めてくれるんだな。またアキトへの愛しさが込み上げてくる。
まだ早いと断られるかもしれない。重いと引かれるかもしれない。答えはまだ出せないと言われるかもしれない。
それでもどうしても伝えたいと思ってしまったんだ。
俺は勇気をふり絞って口を開いた。
「お父さんは…ハルから見てどんな人?」
そう尋ねられて初めて、そういえば今までアキトに父について尋ねられた事は無かったなと気づいた。何度も読み返すほどあの本を好きなアキトなら、もっと前から話を聞きたかったんじゃないかなと思う。
それでも尋ねてこなかったのは、有名人を父に持つ俺に気を使ってくれていたのかもしれない。アキトは本当に優しいからな。
「うーん、そうだな…すごい人だと思ってるよ。まだ俺は勝てる気がしないんだけどね」
「え、ハルでも勝てないの?あんなに強いのに?」
大きく目を見張ったアキトがポロリとこぼした言葉が、素直に嬉しい。そんな風に思ってくれているんだなと温かい気持ちになった。
「一対一ならそこそこ良い勝負にはなるかもしれないけど、最終的には勝てないだろうな」
単純な強さだけなら、やっと対等に勝負ができるぐらいにはなった…と思うんだけどな。良い勝負になりそうだと思っても、どんどん攻め方を変えてくるから厄介な相手だ。
「…たくさんの人を率いての戦いが得意な人だから、戦略とかを考えるのも得意なんだ」
そう伝えれば、アキトは目をキラキラと輝かせた。
「本にもそういう話はあったなぁ。あれって実話なんだ?」
「ああ、あの本は父さんの副官が書いたものだから、ほぼ実際にあった事だよ」
ほぼと言ったのは、実際の出来事があまりに嘘っぽいからとすこし控え目に表現している話もあるからだ。アキトに嘘は言いたくないからな。
え、じゃああれもこれも本当の事なの?と尊敬の眼差しを浮かべるアキトはとても可愛い。
不意に窓の外を飛んでいった鳥を、アキトの視線が追ったのが分かった。感心しながらもぐいぐい来ないのもアキトらしいな。
折角の機会だから俺も質問しても良いだろうか。
「ねぇ、アキトのお父様はどんな人?」
だいぶ前から気にはなっていたけれど、ずっと聞けずにいた質問をそっと投げかける。
もし異世界にいる家族の事を尋ねて、異世界に帰りたいと言われたらどうしよう。そんな考えがどうしても頭を過って聞けなかった。
「えーと…俺と同じ体質で、でも俺と違ってすっごく幽霊に好かれやすい人かな」
「え、幽霊に好かれるの?」
「うん。面白いぐらいに幽霊に好かれてたよ」
アキトは懐かしそうに、外を歩くだけでも幽霊の方からどんどん近づいてくるんだよと教えてくれた。さすがに周りに人がいる時は無視してたけど、家の中までついてきた幽霊とは話したりしてたと教えてくれた。
そんなすれ違った幽霊が家の中までついてくるなんて、危険では無いんだろうか。まずそこが心配になってしまった。
「母には幽霊だけに通用するフェロモンでも出てるのかしらって言われてたよ」
「お母様はお父様とアキトの体質は知ってたんだね?」
「うん。父さんのは結婚する前に聞いて知ってたけど、まさか息子に遺伝するとは思ってなかったみたいだけどね」
アキトはそう言うと、明るく笑って続けた。
「でもうちの母は二人ばっかり色んなものが見えてずるいって言っちゃうような人だったから、はたから見たら挙動不審だった幼い頃の俺の行動も笑って見守ってくれてたよ」
そうか、本当に良いお母さんだったんだな。
寂し気に黙り込んだアキトの目を、俺はまっすぐに見つめた。少しの感情の揺れも見逃さないように注意しながら、震えそうな声を必死でこらえて尋ねる。
「アキト、やっぱり帰りたいって思う?」
答えが返ってくるまでのたった数秒の沈黙が、ひどく長く感じた。
「帰りたいっていうより、両親に会いたいとは思うよ。何も言わずにこっちに来たから絶対心配させてると思うし、出来る事ならまた会いたいとは思うよ」
「そっか…そうだよね」
「あ、でもね、俺はこっちに来て良かったとも思ってるよ」
アキトの発言に、俺は思わず目を見張った。
「え…?」
「だって俺がこっちに来なかったら、あの時あのナルクアの森に飛ばされなかったら、ハルとは出会えなかったでしょう?もうハルのいない生活とか想像できないし」
じわじわと胸の中にアキトのくれた言葉がしみ込んでくる。そう思ってくれているのが嬉しくてたまらない。俺だってもうアキトのいない生活なんて想像できないし、想像したくもない。
もしいつか異世界への帰り方が見つかってアキトが帰りたいと言うなら、絶対に一緒について行こうと俺は密かに決意した。
「ありがとう、アキト」
「俺もありがとね、ハル」
アキトの幸せそうな笑顔に、俺は考える間もなく口を開いていた。
「アキト…」
「ん?」
「ずっと言いたいと思ってた事があるんだけど、聞いてくれる?」
愛おしい気持ちが溢れてきて、もう我慢できない。
「何でも聞くよ?」
真剣な表情に変わったアキトは、ソファに座ったまま俺の顔を覗き込んできた。
「まだ想いを交わしてからそれほど経ってないのに、こんな事を言って良いのかなってずっと思ってたんだ。アキトに引かれたらどうしようって思って言えずにいた」
「うん」
何の話かすら分からない状況だと思うのに、それでもこんなに真面目に受け止めてくれるんだな。またアキトへの愛しさが込み上げてくる。
まだ早いと断られるかもしれない。重いと引かれるかもしれない。答えはまだ出せないと言われるかもしれない。
それでもどうしても伝えたいと思ってしまったんだ。
俺は勇気をふり絞って口を開いた。
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