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374.【ハル視点】ジルさんとウィル兄

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 うちの家族なら間違いなくアキトを気に入るだろうと思ってはいたけれど、まさかこんなに早く祝福の言葉を貰えるとは思っていなかった。予想外の言葉に言われた瞬間は正直驚いてしまったけれど、大切な家族から祝福してもらえた事は素直に嬉しい。

 ちらりと視線を向ければ、アキトは不思議そうに首を傾げていた。何故祝福の言葉を貰えたのかってアキトも悩んでるようだ。

「あ、アキトくん、今の祝福の言葉は別に勢いとかじゃないからね?」
「え…?えーと…?」
「あのね、こんなに必死になって言い訳するハルとか、俺も初めて見たんだ」

 長年お兄ちゃんをやってるのに間違いなく人生初だって断言できるよと、ウィル兄は悪戯っぽく笑って続けた。

「兄のひいき目って言われるかもしれないけど、ハルは昔から人当たりも良くて優しくて強い子だった。でも…周りの人に興味が無いのも分かってたからね」
「ウィル兄…」
「そんなハルがさ、目が覚めるなりどう考えても惚気としか思えない長い手紙なんて送ってきたから、うちの家族は大騒ぎだったんだよ?」

 あまりに予想外だったからねと笑ったウィル兄の言葉に、俺はゆるりと首を傾げた。

 確かに手紙の中でもかなりの文章を割いて、アキトについては説明した気がする。だが特に惚気たつもりは無かったんだがな。俺はそんなに惚気ていただろうかと、自分の書いた文面を頭の中で思い出していた。

「正直に言えば、俺はハルが騙されてる可能性まで疑ってたんだけどねー」
「ウィル兄!それは違う!」
「待った!さっきのハルとアキトくんのやりとりで誤解だって分かってるから!」

 慌てて言いつのるウィル兄を、俺はじっと見つめた。

「言い訳を始めたハルを見るアキトくんの目を見てたら、そんな誤解も綺麗に消えたから」

 俺はその言葉で、知らない間にこもっていた肩の力を抜いた。ああうん、確かにあの目を見たなら、アキトへの誤解は消えるだろうな。 

「だから祝福の言葉は勢いじゃなくて、俺の本心だからね!」
「あ、ありがとうございます」
「手紙で色々聞いてはいるけど、アキトくんはハルのどんな所を好きになってくれたの?」

 詳しく聞かせて欲しいなと笑ったウィル兄の後ろから、ジルさんが近づいてくるのが見えた。戦場以外ならだいたいジルさんを連れて歩いている兄だから、特に意外でも無いか。

 すらりと長身のジルさんは、俺達四人に軽く会釈をしてからおもむろに口を開いた。

「ウィリアム隊長、いい加減に戻って来て下さい」

 他人みたいで嫌だって文句を言ってたと思ったけど、任務中は隊長呼びなのは相変わらずなんだな。

「ジルー……もうちょっとぐらい時間ちょうだいよ?」
「無理ですね、もう時間切れですから」

 慣れた様子でばっさりと切り捨てたジルさんに、ウィル兄は不服そうに口を尖らせている。

「えー久々の弟との再会なのに?」
「だから今まで黙って時間をあげたんでしょう?」

 じろりと兄さんを睨んだジルさんは、体ごと俺の方を向くとぺこりと頭を下げた。

「お元気そうで何よりです、ハルさん」
「ありがとうございます。ジルさんもお元気そうですね。ウィル兄の操縦は大変だと思いますがよろしくお願いします」
「ええ、まあこの人の操縦には慣れてますから、そこは問題ありません」
「操縦とかひどくない?」

 騒ぐ兄さんを綺麗に無視して、ジルさんはアキトの方に向き直った。

「はじめまして、アキトさん」
「あ、はい、はじめまして」
「私はジル。ジル・ウェルマールと申します」

 突然のウェルマールの名に、アキトは不思議そうに目を見張った。説明をしようと口を開きかけたジルさんの肩を、ウィル兄がぐいっと引き寄せる。兄さんの方が身長が低いから、何だか不思議な体勢になっってるな。

「俺の愛しい伴侶、ジルだよ」

 蕩けるような笑みで紹介されたジルさんは、困った顔で笑うだけで否定はしなかった。え、本当に?と言いたげなアキトの視線を感じた俺は、すぐに小さくこくりと頷いた。


「ジルー、もうちょっとだけ時間もらったら駄目?」
「駄目です。ほら、早く船長に挨拶にいきますよ」

 口では冷たく言いながらも、ジルさんはそっと手を差し出した。控え目に差し出された手をじっと見つめたウィル兄は、それはもう幸せそうに笑ってからきゅっと手を繋いだ。

「ごめん、仕事してくるね。アキトくん、ハル、またね」
「はい、また」
「ああ、またな」

 ジルさんと一緒に去っていくウィル兄を見送って、俺はふうと大きく一つ息を吐いた。
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