生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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371.【ハル視点】奇跡の船

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 受け取った書面にざっと目を通したクリスは、すぐに俺の方へとその書面を手渡してくれた。

「ハルも確認しておいて下さい」
「ああ、ありがとう」

 こういう書面はきちんと確認しておきたいと目を通してみれば、中身は船内の案内図や乗客が守るべき規則などだった。特に理不尽な規則は無いようだなと確認してから、俺は書面をクリスに返した。

「問題は無いよ」
「それでは、クリス・ストファー様。代表してこちらのページへ署名を頂けますか?」

 クリスは慣れた様子で頷くと、すぐに魔道具らしきペンを使って署名を済ませた。

「手続きはこれにて完了となります。出発までごゆるりとお過ごしください」

 丁寧にお辞儀をした係員の女性は、流れるように待合室から退室した。扉が閉まるのを見守って、俺とクリスはすぐに後ろを振り返った。

 アキトとカーディさんの楽し気な会話がずっと聞こえていたから、書面を確認している時から気になって仕方が無かったんだよな。ずらりと並ぶ船に感心して、窓からの眺めの良さに感動してと素直な反応が可愛かった。

 今は派手な船を見て話しこんでいるみたいだ。

「へー貴族は派手なのが好きなの?」
「好きというか、あれは目立つための色合いなんだろうな。アキトはどの船が好みだ?」
「えーと…あの黒い船に金色のラインの船とか格好良いよね」

 アキトが指差した船は、俺も初めて見る船だった。黒い船体に金色の線で装飾が施されているが、華美な感じはしなかった。そうか、アキトはああいうのが好きなのか。覚えておこうと考えていると、カーディさんがニヤニヤ笑ってアキトに顔を近づけた。

「アキトの髪色とハルの髪色だからか?ん?」
「ち、違うよ!普通に格好良いなと思っただけで」

 慌てて言いつのるアキトの姿に、俺はにやけてしまいそうな頬にぐっと力を込めた。俺の髪色とアキトの髪色か。そう考えると、あの船がすごく特別なもののように思えてくるな。アキトの可愛さに浸っている俺を、クリスは呆れたような目で見つめていた。

「カーディ、アキトさん、手続きは終わりましたよ」

 クリスが声をかければ、カーディさんとアキトはすぐにこちらを振り返った。しっかりしないと駄目だな。アキトに無様な姿は見せたくないと、俺は表情を取り繕ったまま慌てて口を開いた。

「そろそろ行こうか?」

 お礼の言葉を口にする二人を促して、俺達はすぐに待合室を後にした。



 階下に下りていけば、先ほど二階に案内してくれた男がすぐに俺達に気づいた。気配を消してはいないけれど、それでも誇れるほどの反応速度だな。騎士団に欲しい人材だと一瞬だけ頭を過ったけれど、今の俺は冒険者だったな。

「こちらへどうぞ」

 まるで広場のような一般用の待合室を横目に、俺達はのんびりと廊下を進んでいった。

 ちらりと見やった乗合船利用者のための待合室は、今日もたくさんの人で賑わっていた。屋台からは魚の焼ける香ばしい香りが漂ってきているし、暇つぶしなのか歌って踊っている旅人の姿まで見えている。

 喧噪から遠ざかりながら人けのない廊下を進んでいけば、男は不意に立ち止まった。

「こちらの船です」

 そう言って案内役の男が立ち止まったのは、予想外にもこじんまりとした船だった。彫刻のような装飾こそあるものの、見た目はいたって地味に見えた。

「案内ありがとうございました」
「ありがとう」
「ありがとな」
「ありがとうございました」

 思い思いに感謝の言葉を告げれば、男性はにっこりと笑ってくれた。

「良い船旅になりますように」

 柔らかい声に背中を押されるようにして、俺達は木製のタラップを渡り船へと乗り移った。



 船に一歩足を踏み入れた瞬間、全身に違和感を感じた。

 ああ、これが書面に書いてあった、エルフとドワーフの技術の結晶というやつか。見た目は比較的小さな船だが、中は空間魔法のおかげで広々としている。

「あれ?」

 アキトもあの違和感に気づいたのか、不思議そうに首を傾げていた。

「あ、アキトも気づいた?」
「何か違和感?不思議な感じがしたんだけど…」

 そう俺に話しかけながら顔を上げて、アキトはゆるりとさらに首を傾げた。

「えーと…何だかやけに広くない?」
「面白いでしょう?この船はドワーフとエルフが手を組んで作ったという船なんですよ」

 最新式の船なんですよと、クリスは笑顔で続けた。

「はーでも…ちょっと広すぎないか?」

 カーディさんは感心した様子で周りを見ながらも、そう呟いている。

「何でもエルフが作った空間魔法で中だけ広げてあるらしいよ?」

 俺がそう告げれば、アキトはへーと声を洩らした。

「空間魔法…」
「魔道収納鞄の応用らしいけど、まあ俺達には理解できないと思うよ」

 知識欲の塊であるエルフの魔法研究と、技術力に突出したドワーフの技。その二つが組み合わさって、ようやくできたまるで奇跡のような船だった。
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