生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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367.祝福の気持ち

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 まさかウィリアムさんからこんなにあっさり祝福の言葉を貰えるとは思っていなかった俺は、喜びながらもゆるく首を傾げてしまった。

 だって俺はまだ自己紹介くらいしかしてない。この世界では深い意味があるらしい、あの祝福の言葉を貰うほどのやりとりなんてしてないよねと疑問に思ったからだ。

 ウィリアムさんはそんな戸惑う俺の顔をじっと見つめてから、安心させるように優しく微笑んだ。

「あ、アキトくん、今の祝福の言葉は別に勢いとかじゃないからね?」
「え…?」
「あのね、こんなに必死になって言い訳するハルとか、俺も初めて見たんだ」

 長年お兄ちゃんをやってるのに間違いなく人生初だって断言できるよと、ウィリアムさんは悪戯っぽく笑って続けた。

「兄のひいき目って言われるかもしれないけど、ハルは昔から人当たりも良くて優しくて強い子だった。でも…周りの人に興味が無いのも分かってたからね」
「ウィル兄…」
「そんなハルがさ、目が覚めるなりどう考えても惚気としか思えない長い手紙なんて送ってきたから、うちの家族は大騒ぎだったんだよ?」

 あまりに予想外だったからねと笑ったウィリアムさんに、ハルは惚気なんて書いたか?とぼそりと呟いていた。

「正直に言えば、俺はハルが騙されてる可能性まで疑ってたんだけどねー」
「ウィル兄!それは違う!」
「待った!さっきのハルとアキトくんのやりとりで誤解だって分かってるから!」

 慌てて言いつのるウィリアムさんを、ハルはじっと見つめている。

「言い訳を始めたハルを見るアキトくんの目を見てたら、そんな誤解も綺麗に消えたから」

 え、一体俺はどんな目をしてたんだろう?

「だから祝福の言葉は勢いじゃなくて、俺の本心だからね!」
「あ、ありがとうございます」
「手紙で色々聞いてはいるけど、アキトくんはハルのどんな所を好きになってくれたの?」

 その辺りを詳しく聞かせて欲しいなと笑ったウィリアムさんの後ろから、ウィリアムさんと同じ制服を着た男性が近づいてきた。ハルよりも背が高い細身のその男性は、俺達に軽く会釈をしてからおもむろに口を開いた。

「ウィリアム隊長、いい加減に戻って来て下さい」
「ジルー……もうちょっとぐらい時間ちょうだいよ?」
「無理ですね、もう時間切れですから」

 ばっさりと切り捨てた男性に、ウィリアムさんは不服そうに口を尖らせた。何だかハルよりもだいぶ感情が分かりやすい人なんだな。

「えー久々の弟との再会なのに?」
「だから今まで黙って時間をあげたんでしょう?」

 じろりとウィリアムさんを睨んだ男性は、ハルの方を向くとぺこりと頭を下げた。

「お元気そうで何よりです、ハルさん」
「ありがとうございます。ジルさんもお元気そうですね。ウィル兄の操縦は大変だと思いますがよろしくお願いします」
「ええ、まあこの人の操縦には慣れてますから、そこは問題ありません」

 操縦とかひどくない?と騒ぐウィリアムさんを綺麗に無視して、ジルさんは俺の方に向き直った。

「はじめまして、アキトさん」
「あ、はい、はじめまして」
「私はジル。ジル・ウェルマールと申します」

 え、この人もウェルマール?と思った瞬間、ウィリアムさんがぐいっとジルさんの肩を抱き寄せた。ウィリアムさんの方が身長が低いから、何だか不思議な体勢になってるけど。ウィリアムさんはにっこり笑いかけてきた。

「俺の愛しい伴侶、ジルだよ」

 ジルさんは困った顔で笑うだけで否定はしなかった。え、本当に?とちらりとハルに視線を向ければ、小さくこくりと頷きが返ってきた。

 そういえばハルのお兄さん達は既に結婚してるんだって言ってたっけ。上のお兄さんは女騎士で、下のお兄さんは文官さんと結婚したとか言ってたような?必死で記憶を遡ってみたけれど、ジルさんが文官さんだって事ぐらいしか思いだせなかった。

「ジルー、もうちょっとだけ時間もらったら駄目?」
「駄目です。ほら、早く船長に挨拶にいきますよ」

 冷たく言いながらも目の前にそっと差し出された手に、ウィリアムさんはそれはもう幸せそうに笑って手を繋いだ。

「ごめん、仕事してくるね。アキトくん、ハル、またどこかで会おうね」
「はい、また」
「ああ、またな」

 唐突に現れたハルの実兄ウィリアムさんは、伴侶のジルさんに連れられてあっという間に去っていった。
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