生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
364 / 1,179

363.船の待合室

しおりを挟む
 ゆったりと歩いていく案内役の男性の背中を追って、俺達は階段を上っていった。辿り着いた二階の広い廊下には、いくつものドアがずらりと並んでいた。俺にはどのドアも同じに見えるけど、男性は迷いなくひとつのドアの前で立ち止まった。

「少々お待ち下さい」

 俺達に声をかけた男性はすぐに鍵の束を取り出した。

「乗船手続きは係の者が参りますので、それまでおくつろぎ下さい」

 男性の手によって開かれたドアからそっと中を覗き込めば、部屋の中には豪華なテーブルと椅子が並んでいた。それほど広くはない室内だけど、奥の方にはかなり大きな窓があるみたいだ。えっと、これはすごく豪華な待合室(個室)って感じなのかな。

 何だかすごい場違いな場所に来てしまったかもしれない。咄嗟にそう思ってしまった庶民な俺と違って、他の三人の振る舞いは堂々としたものだ。

「それでは失礼いたします」

 ドアを閉める音すら立てずに男性が退室すると、思わずふうと息が漏れた。

「アキト、大丈夫?」
「あ、ごめん、大丈夫!ただこういう雰囲気に馴染みが無いだけだから」

 それなら良いんだけどと言いながらも、ハルはまだ心配そうに俺を見つめていた。

「気持ちは分かるぞ、アキト」

 カーディは俺に近づいてくるなり、そう言いながら俺の肩をぽんっと叩いた。

「え、あんなに堂々としてたのに?」
「船着き場には来た事があるけど、乗合船の待合は下の部屋だからなぁ…俺もこの部屋は初めてだぞ?」

 カーディによると下にある待合は広場みたいな場所に椅子がずらーっと並んでいて、日替わりの屋台なんかがあったりするらしい。そっちはそっちで楽しそうだね。

「でも、そうは見えなかったよ?」
「あークリスと一緒にいたら色んな場所に行くからなーさすがにもう慣れたけど、最初の頃の俺はさっきのアキトよりも、もっともーっと動揺してたぞ?」

 苦笑するカーディからクリスさんにちらと視線を向ければ、こくこくと頷いて同意された。本当に動揺してたんだ。

「じゃあさ、どうやって慣れたの?」
「こういう豪華で俺には合わないなと思う場に慣れるのには、コツがあるんだよ」

 知りたいか?と尋ねてきたカーディに、俺はすぐに知りたいと答えた。これからハルと一緒に色んな場所に行くつもりなんだし、コツを聞いておいて損は無いだろう。

「そこがどんな場所であっても、俺の隣にはクリスがいると思えば良いって気づいたんだ」
「へー…」

 あの…カーディ?隣でクリスさんが顔を真っ赤にしてるんだけど。

「もし俺がこの場で何かをしてしまったとしても、少なくとも一人だけは味方がいると思えば、気持ちが落ち着くんだよなー」

 あ、口を両手で押えたクリスさんが、今度はふるふると震え出している。

「参考になったか?」

 今にも叫びだしそうなクリスさんの反応も気にはなるけれど、俺はそっと目をつむって想像してみた。

 例えそこがどんな場所でも、隣にハルがいると思えば良い――か。もし俺が何かをしてしまったとしても、少なくとも一人だけは味方がいる。そう考えれば、確かに肩の力が抜けてきた気がする。

「うん、これ良いね」
「落ち着いたか?」
「これから色んな場所で役立ちそうだよ、ありがとう」
「どういたしまして」

 にっこり笑顔のカーディに、俺も満面の笑みを返した。



 四人で椅子に腰かけてくつろいでいると、こんこんとノックの音が響いた。

「どうぞ」
「失礼いたします。乗船手続きに参りました」

 柔らかい笑みを浮かべたお姉さんは、深々とお辞儀をしてから部屋に入ってきた。手には名簿のようなものを持っているみたいだ。

「手続きは私達でしますので、二人は景色でも見ててください」

 クリスさんに優しくそう促されたのでちらりと視線を向けてみれば、ハルもすぐに頷いてから口を開いた。

「ここもかなりすごい景色だから、ぜひ見ておいで」

 部屋に入った時から大きな窓だなと思ってはいたけれど、そんなに景色が良いんだろうか。二階に上がっただけなのに?そう疑問に思いながらもカーディと二人で窓に近づいていけば、その言葉の真意はすぐに分かった。

「おおーすごい!」
「これは…すごいな!」

 その窓からは、様々な様式の船がいくつも並んでいる係留地が一望できた。
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。

やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。 昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと? 前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。 *ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。 *フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。 *男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

処理中です...