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358.【ハル視点】あまりに気になる椅子
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アキトと手を繋いだまま眺める景色は、今までにみたどのレーウェ川よりも美しく感じられた。
飛んでいる鳥や川を流れる花びら、遠くを行く船。どれも俺一人だったら気づきすらしないような些細な出来事だ。けれどアキトが興味深そうに見つめているだけで、そのどれもが大事な物のように感じられる。アキトは本当にすごいな。
「そうだ!折角教えてもらったんだから、椅子探さないと!」
不意にカーディさんがそう叫ぶまで、俺も綺麗に椅子の存在を忘れていた。慌てて周りを見渡してみれば、ちょうど店主の家だという建物の裏に、二人掛けの木製の椅子が二つ並んでいるのが目に留まった。
「え…?あれ?」
「あれ…なの…か?」
「どうなんでしょうね?」
アキトとカーディさんの心配そうなやりとりに、クリスの不安そうな声が重なる。
「あの椅子で間違いないと思うよ?あの椅子の後ろにある建物、さっき教えてもらった店主の自宅だから」
そう断言すればカーディさんは驚いた表情で、クリスは本当に?と少し疑う表情で俺を見つめてきた。クリスはどんどん遠慮がなくなってきたな。まあ、友人に遠慮なんて求めないから別に気にもしないけれど。
アキトはそんな二人の横で、尊敬の眼差しで俺を見つめてくれていた。本当に純粋に尊敬の念だけが込められた眼差しだ。
ああ、その目で見られるためなら、俺はどんな努力だってできると思うよ。
「さすがハルだね!」
「ふふ、お誉めの言葉ありがとう」
嬉しそうに誉めてくれるアキトの姿を見ていると、自然と笑みがこぼれた。
「じゃあ遠慮なく座らせてもらおうか」
「ええ、せっかくのご厚意ですからね」
アキトと見つめ合っている間に、カーディさんとクリスはスタスタと歩き出した。しっかりと手を繋いで歩いている二人の背中からは、お互いに邪魔はしないようにしようという意志が感じられた。
「ほら、アキトも行こう?」
「うんっ!」
繋いだ手をブンブンと揺らして歩くアキトは明らかに上機嫌で、そんな姿を見ているだけで俺の気分もぐんぐんと上がっていく。俺の恋人がこんなにも可愛い。
俺達が椅子の方へと近づいていくと、先に辿り着いていたカーディさんが満面の笑みでこちらを見た。
「アキト、ハル。椅子からの景色もすごいよ!」
「え、そうなの?」
「ええ、これはすごいですね…一見の価値ありです」
カーディさんの手こそ離していないけれど、クリスの視線が川から一瞬も反れないから本当にすごい景色なんだろうな。俺とアキトは顔を見合わせてから、いそいそと空いていた椅子に近づいた。
そっと腰を下ろしただけで、そのあまりの座り心地の良さに俺は驚いてしまった。見た目は普通の木製の椅子だが、なめらかな曲線を描いている座面のおかげか想像以上に座り心地が良い。
「この椅子すごいね?」
「ああ、この座り心地はすごいな」
王都の一流の家具屋でも、滅多に見ない品だと思う。これほどの品質なのに、野外に置かれていても痛んだ様子も無い。この椅子は良いな。欲しくなる。
アキトも気に入ったのか、嬉しそうに椅子を眺めていた。二人でまじまじと椅子を観察していると、待ちきれなくなったのかカーディさんが口を開いた。
「椅子もすごいけど、先に景色を見てくれよ!」
言われるがままに、無意識のうちに視線を上げたアキトが歓声を上げた。カーディさんはその声に、満足そうに何度も頷いている。
「な!な!すごいよな!アキト!」
「うん、すごいねっ!カーディ!」
はしゃぐ二人のやりとりが可愛いすぎる。俺とクリスは笑顔を浮かべたまま、目の前の幸せな光景を見守った。
「何だよ、クリスもさっき見惚れてただろう?」
「ええ、すごいと思いましたよ」
カーディさんに尋ねられたクリスは、即座に同意を返した。
「ハルも、綺麗だと思ったでしょ?」
「うん、すごく綺麗だね」
アキトに尋ねられた俺も、当然すぐに同意を返す。俺達が二人の質問に同意した。ただそれだけの事なのに満足そうに笑った二人は、本当に可愛かった。
「座ってても川が見えるってすごいよね!」
「しかもこの景色…さっきよりも迫力がある気がするな」
地面から少し上がった所に木製の床を作り、更にその上に椅子を設置してあるせいだろうか。ここまで考えて作らないとこの迫力は出ないだろうな。
「な!すごいよなぁ!」
「これは景色まで計算して作ったんでしょうか?」
俺と同じ疑問を口にしたクリスのその言葉に、不意に真後ろから返事が返ってきた。
「ああ、この景色が好きでな。椅子は俺の一番下の息子が作ったんだぜ」
慌てて振り返れば、店主が後ろの窓からひょこっと顔を覗かせていた。いや、待ってくれ。今椅子は一番下の息子が作ったって言ったか?
飛んでいる鳥や川を流れる花びら、遠くを行く船。どれも俺一人だったら気づきすらしないような些細な出来事だ。けれどアキトが興味深そうに見つめているだけで、そのどれもが大事な物のように感じられる。アキトは本当にすごいな。
「そうだ!折角教えてもらったんだから、椅子探さないと!」
不意にカーディさんがそう叫ぶまで、俺も綺麗に椅子の存在を忘れていた。慌てて周りを見渡してみれば、ちょうど店主の家だという建物の裏に、二人掛けの木製の椅子が二つ並んでいるのが目に留まった。
「え…?あれ?」
「あれ…なの…か?」
「どうなんでしょうね?」
アキトとカーディさんの心配そうなやりとりに、クリスの不安そうな声が重なる。
「あの椅子で間違いないと思うよ?あの椅子の後ろにある建物、さっき教えてもらった店主の自宅だから」
そう断言すればカーディさんは驚いた表情で、クリスは本当に?と少し疑う表情で俺を見つめてきた。クリスはどんどん遠慮がなくなってきたな。まあ、友人に遠慮なんて求めないから別に気にもしないけれど。
アキトはそんな二人の横で、尊敬の眼差しで俺を見つめてくれていた。本当に純粋に尊敬の念だけが込められた眼差しだ。
ああ、その目で見られるためなら、俺はどんな努力だってできると思うよ。
「さすがハルだね!」
「ふふ、お誉めの言葉ありがとう」
嬉しそうに誉めてくれるアキトの姿を見ていると、自然と笑みがこぼれた。
「じゃあ遠慮なく座らせてもらおうか」
「ええ、せっかくのご厚意ですからね」
アキトと見つめ合っている間に、カーディさんとクリスはスタスタと歩き出した。しっかりと手を繋いで歩いている二人の背中からは、お互いに邪魔はしないようにしようという意志が感じられた。
「ほら、アキトも行こう?」
「うんっ!」
繋いだ手をブンブンと揺らして歩くアキトは明らかに上機嫌で、そんな姿を見ているだけで俺の気分もぐんぐんと上がっていく。俺の恋人がこんなにも可愛い。
俺達が椅子の方へと近づいていくと、先に辿り着いていたカーディさんが満面の笑みでこちらを見た。
「アキト、ハル。椅子からの景色もすごいよ!」
「え、そうなの?」
「ええ、これはすごいですね…一見の価値ありです」
カーディさんの手こそ離していないけれど、クリスの視線が川から一瞬も反れないから本当にすごい景色なんだろうな。俺とアキトは顔を見合わせてから、いそいそと空いていた椅子に近づいた。
そっと腰を下ろしただけで、そのあまりの座り心地の良さに俺は驚いてしまった。見た目は普通の木製の椅子だが、なめらかな曲線を描いている座面のおかげか想像以上に座り心地が良い。
「この椅子すごいね?」
「ああ、この座り心地はすごいな」
王都の一流の家具屋でも、滅多に見ない品だと思う。これほどの品質なのに、野外に置かれていても痛んだ様子も無い。この椅子は良いな。欲しくなる。
アキトも気に入ったのか、嬉しそうに椅子を眺めていた。二人でまじまじと椅子を観察していると、待ちきれなくなったのかカーディさんが口を開いた。
「椅子もすごいけど、先に景色を見てくれよ!」
言われるがままに、無意識のうちに視線を上げたアキトが歓声を上げた。カーディさんはその声に、満足そうに何度も頷いている。
「な!な!すごいよな!アキト!」
「うん、すごいねっ!カーディ!」
はしゃぐ二人のやりとりが可愛いすぎる。俺とクリスは笑顔を浮かべたまま、目の前の幸せな光景を見守った。
「何だよ、クリスもさっき見惚れてただろう?」
「ええ、すごいと思いましたよ」
カーディさんに尋ねられたクリスは、即座に同意を返した。
「ハルも、綺麗だと思ったでしょ?」
「うん、すごく綺麗だね」
アキトに尋ねられた俺も、当然すぐに同意を返す。俺達が二人の質問に同意した。ただそれだけの事なのに満足そうに笑った二人は、本当に可愛かった。
「座ってても川が見えるってすごいよね!」
「しかもこの景色…さっきよりも迫力がある気がするな」
地面から少し上がった所に木製の床を作り、更にその上に椅子を設置してあるせいだろうか。ここまで考えて作らないとこの迫力は出ないだろうな。
「な!すごいよなぁ!」
「これは景色まで計算して作ったんでしょうか?」
俺と同じ疑問を口にしたクリスのその言葉に、不意に真後ろから返事が返ってきた。
「ああ、この景色が好きでな。椅子は俺の一番下の息子が作ったんだぜ」
慌てて振り返れば、店主が後ろの窓からひょこっと顔を覗かせていた。いや、待ってくれ。今椅子は一番下の息子が作ったって言ったか?
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