生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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353.時価の屋台

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 店主さんのお言葉に甘えて、結局そのまま川を眺めて待たせてもらう事になった。

 俺はこの店の事は分からないから黙っていたけど、カーディは表に回らないかって気にしてたんだけどね。今ごろ忙しく働いているだろうおじさんの邪魔になるより、ここにいた方が良いってハルとクリスさんが説得したんだ。

 座り心地の良い椅子に深く腰かけて、ハルにきゅっと手を握られて、さらにその上目の前には綺麗な景色が広がっている。

 眩しい程に光を反射する川を眺めていると、不意に飛んできたピンク色の鳥が川の中州の辺りに降り立った。

「初めて見る鳥だ…」

 思わずぽつりと呟けば、ハルはどれ?と優しく耳元で囁いた。

「あれだよ、ほら、あそこの川の真ん中あたりにいる鳥」
「ああ、あれはビレーっていう鳥だよ」
「へー、ビレーっていうんだ」

 なんでもハルによると、ビレーは木の実と果物しか食べない種類の鳥なんだそうだ。だから水を飲みに下りてきたんじゃないかなと、ハルはさらりと雑学を教えてくれた。

「あれは普通の鳥?」
「ああ、魔鳥では無いよ」
「そうなんだ」
「横にいる青いのはテルウっていう鳥だよ。あれは魚しか食べない種類」

 本当になんでも詳しいんだな。ハルの優しい声での解説に聞き惚れていると、不意に背後のドアが音を立てて開いた。

「こんにちは。焼きたてを持って来たよ」

 そう声をかけながら家の裏から出てきたのは、柔らかい笑みを浮かべた優しそうな男性だった。男性は両手に大きなお皿を二つ持って、俺達の方へと歩いてくる。

「あ、こんにちは。お邪魔してます」
「はい、いらっしゃい」
「ありがとうございます、運ばせてすみません」
「いいんだよ、うちの伴侶が待ってろって言ったんでしょう?」

 あ、やっぱりこの人があの店主さんの伴侶なのか。

「うちの旦那がここに客を入れるなんて滅多にないんだけど、よっぽど気に入られたんだねぇ、お客さん達」
「おかげですごい景色を見させてもらいました。ありがとうございます」

 クリスさんの言葉に、俺もカーディもうんうんと頷いた。

「ところで、今日のお値段はいくらですか?」

 ハルが投げかけた質問に、俺はゆるりと首を傾げた。今日のお値段って事は、日によって値段が違ったりするって事?不思議に思ってついついじっとハルを見上げていれば、ハルは俺の方を見てすぐに口を開いた。

「このお店は、毎日仕入れによって値段が変わるんだよ」
「え、そうなんだ?」

 俺みたいな普通の大学生でも名前だけは知っている、いわゆるあの『時価』ってやつなんだろうか。一体いくらするのか、ちょっとだけ心配になってしまった。

「あ、ちなみに一番安くて400グル~一番高くて1000グルまでって決まってるからね。ここは漁師が営む店って事でかなり良心的なお店だよ?」
「ずっと1000グルでも良いんじゃないかって、常連は皆言うんだけどなぁ」

 カーディは、実は俺も言った事があると笑っている。

「ふふ、気持ちだけ貰っておくよ。今日のは一本600グルだよ」

 クリスさんが財布を取り出そうとするより前に、ハルはお金を差し出していた。

「じゃあこれでお願いします」
「はい、確かに」
「待ってください、ハル!私が払いますから!」
「いや、断る!ここは俺が払う」

 ハルはそう言いきると、流れるように男性の手からお皿を受け取った。

「メロウの前で交わした契約条件は、宿の支払いのみだろう?それなら食事代ぐらいは出させてくれ」
「う……しかし…」
「クリス、ここはお礼を言って食べようぜ」
「カーディまで…」
「というかもう我慢できないから!」

 あっさりと言ってのけたカーディは、しぶるクリスさんを綺麗に無視してハルの手からお皿を受け取った。

「アキトも、持てる?」
「うん」

 目の前に差し出されたお皿の上に並んでいたのは、二本の串を刺してこんがりと焼いてある魚の切り身だった。

 食欲をそそる良い香りがしてすごく美味しそうなんだけど…これは、ちょっと大きすぎない?俺の想像していた川魚の串焼きとは、見た目からして全く違ってるんだけど。そもそも川魚なのに切り身でこのサイズって、さばく前の魚はどれだけ大きかったんだろう。

 唖然としながら魚の串を眺めていると、うなだれていたクリスさんが口を開いた。

「…もう我慢できないとか人前で言わないで下さい」
「えー…ハルとアキトに、店主の伴侶さんしかいないのに?」

 カーディは不服そうにしながらも、伴侶さんにむけていただきますと元気に宣言した。

「はい、どうぞ」

 がぶりと豪快に齧りついたカーディは、もぐもぐと口を動かすと嬉しそうに叫んだ。

「あーこの味だー!すっごくうまいっ!」

 カーディのあまりに幸せそうな笑顔に、俺はおもわずごくりとつばを飲み込んだ。

「お客さん達も、温かいうちにどうぞ」
「あ、いただきます!」
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