上 下
351 / 1,112

350.レーウェ川の流れ

しおりを挟む
 建物と建物の間を縫うように、俺達は四人並んで薄暗い路地を進んで行った。人がすれ違うのもやっとな狭い小道を抜けた瞬間、俺とカーディは思わず揃って感嘆の声を上げた。

「「うわぁー…」」
「二人とも、何かありましたか!?って…これはっ…」

 心配してくれたのか慌てた様子で路地から走り出てきたクリスさんも、息を飲んで目の前の景色を眺めている。

「ああ…これはすごいな」

 こんな場所があるなんてさすがに俺も知らなかったなとさらりと言ってのけたハルでさえ、目の前に急に現れた絶景に見惚れていた。

 俺達四人が揃って視線を奪われているのは、キラキラと太陽の光を反射しながら流れていく美しいレーウェ川の流れだった。同じ高さから見ても見惚れるくらいには綺麗な川だったけど、橋の上から見ると本当に圧倒されてしまう美しさだ。

 緩やかに流れる涼しげな水の音を聞きながら視線を巡らせれば、遠くにはいくつかの船が浮かんでいるのが見えた。

 あれは移動のための船なのか、それとも漁のための船なのか。そんなことは俺には分からないけれど、ゆっくりと動いていく船に自然と視線が惹きつけられた。

 不意にパシャリと魚の跳ねた音がしたけれど、残念ながら魚の姿は見えなかった。

「すごい…綺麗な景色…」

 目の前の景色に見惚れたまま、俺はぽつりと呟いた。

「時間つぶしに川でも眺めてろって言ってたが」

 カーディも川を見つめたまま俺の言葉に答える。

「…そういうレベルじゃないよな…これ?」
「ええ、何なら観光客からお金を取れるぐらいの絶景だと思います」

 クリスさんは口ではそんな事を言いながらも、無心に景色を眺めていた。

「よっぽどカーディさんとクリスの言葉が嬉しかったんだろうな」
「え?でもあれだけ美味い店なら言われ慣れてるだろう?」

 微笑みながらそう告げたハルの言葉に、カーディは不思議そうに尋ねた。

「いや、逆にいつも混んでるから、味の感想を言ってくれる客は少ないんじゃないか?」

 あ、そう言われると確かにそうかもしれない。普段は忙しそうな人気店なら、逆に言い難いかもしれない。

「ああ、確かに。いつもは買ったらすぐに屋台の前から離れますね」
「あー…確かに次の客の邪魔になるからって、いつも受け取ったらすぐ離れるな。感想言った事ないかもしれない」

 納得した二人に、ハルは褒められて嬉しくない人はいないだろうと笑って続けた。

「しかもあんな風に裏表なく、心から褒められたらな」
「ええ、カーディには裏表なんて全くありませんからね!カーディが心からの感想を素直に伝えたからこそ、あの店主の心を動かしたんですね!つまりこの景色はカーディのおかげと言っても過言では…」

 急に勢いづいてカーディの良さについて語りだしたクリスさんの口を、カーディは慣れた様子でパシリと片手で塞いだ。そのままキスでもするのかと言うぐらい、ぐいっと顔を近づける。

「クリス、そういうのは昨日で終わりにしたはずだ」
「むーむー」
「もう言うなよ?分かったか?」

 ジロッと睨みつけながら低い声で尋ねるカーディに、クリスさんは口を塞がれたままこくこくと素直に頷いている。周りから見れば喧嘩みたいに見えるかもしれないやり取りだけど、俺は笑ってそんな二人を見つめていた。

 だってすごい勢いで凄んでるけど、明らかにカーディの耳は真っ赤なんだよな。多分目の前で褒めちぎられるのが、単純に恥ずかしかったんだろうな。

「面白い二人だな」

 気づけば隣に来ていたハルは、そう言いながらきゅっと手を繋いでくれた。うん、やっぱりハルの手があるだけで一気に安心するな。

「うん、お似合いの二人だね」
「まあな…でも、俺達だってお似合いの恋人同士だろう?」

 悪戯っぽい笑顔を浮かべたハルを、俺はまじまじと見上げた。

 正直周りから見てお似合いかどうかなんて自信は無いんだよね。だってハルはこんなに格好良くて優しくてすごい人なんだから、俺じゃ釣り合わないとか思われるかもしれない。でも、他でも無いハルがお似合いだって言ってくれるなら、否定するのも違うだろう。

「うん、俺達もお似合いだよね」

 わざとおどけてそう返せば、ハルは満足そうに笑って頷いてくれた。
しおりを挟む
感想 318

あなたにおすすめの小説

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

処理中です...