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345.【ハル視点】二組の友人
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「あ、おはよう、アキト。まだ寝てて良かったのに」
「おはよう、ハル。目が覚めちゃって」
目が覚めちゃってと口では言っているけれど、どことなくまだ眠そうだ。目をこすりながらゆっくりと近づいてくるアキトのために、俺はさっき淹れておいた花茶をコップに注いだ。これは寝起きに飲むと、体が温まるからな。
「おはようございます、アキトさん」
「クリスさん、おはようございます」
挨拶を交わす二人を見守りながら、そっとアキトを手招く。すぐにこちらへ近づいてきたアキトに、俺はすかさずカップを差し出した。
「はい。今朝は少し冷えるから、これ飲んで」
「ありがと」
お礼を言って受け取ったアキトは、こくりと控え目に口をつけると嬉しそうに微笑んだ。良かったこのお茶はアキトの好きな味か。
「クリスも、もう少し飲むか?」
「ああ、頂きます」
すぐに差し出されたクリスのコップに追加の花茶を注いでいると、両手でコップを持ったアキトはじっと俺達のやりとりを見つめていた。
「何か二人も仲良くなった?」
少し嬉しそうにそう尋ねられたので、俺は笑って答えた。
「ああ、クリスはカーディさんにしか興味が無いから、アキトに惚れられる心配が無いからね。惚気たせいで興味を持たれたら困るから普段は我慢してるんだよ」
それは間違いなく俺の本音だったけれど、アキトは不思議そうにゆるりと首を傾げていた。そんな心配はいらないと思うと言いたげな表情を浮かべているけれど、本当にアキトは、自分がどれだけモテるのか全く理解していないんだな。
「私も一緒ですよ。同じ理由で惚気もろくに出来なかったので…本当に楽しい見張りの時間でした」
「色々と情報交換もできたしな」
「さすがにハルさんは情報通でしたね」
「クリスもだろう」
店の情報や買取素材の情報、他国の情勢まで、色んな事を話した。
中でも驚いたのは、やっぱり本職である魔道具店の話だな。まさか今でも直接魔道具店に買取を申し込む方法があるなんて、俺もさすがに知らなかった。しかもそれがギルドの許可をきちんと得た制度だっていうんだから驚きだ。ギルドの利にはならないだろうに、よく許可をもぎ取れたな。
これからも情報交換はこまめにしようと約束も交わしたし、ストファー魔道具店にはたまに顔を出すようにしないとな
のんびりと飲み物を楽しみながら今日の予定を確認していると、ばさりと背後で音が聞こえた。三人の視線が集中した先、カーディさんはテントをめくったまま俺達の方を真顔で見つめていた。
「……おはよう」
ぽつりと呟いたカーディさんは、ぎゅっと眉間にしわを寄せた。
「カーディ、おはよう。今日は自分で起きれたんだね」
「…うるさい」
いつも笑顔のカーディさんは、そう言うなり不服そうにクリスを睨みつけている。アキトは一体何があったんだと言いたげな心配顔で、二人のやりとりをはらはらと見守っている。
その不機嫌そうな顔の理由を昨夜のうちに知っていた俺は、そっとアキトの耳元に唇を寄せた。
「さっき聞いたんだけど、カーディさんは寝起きが悪いらしいよ」
「あ、そうなの?」
そういう奴なら友人にもいたよと言ったアキトは、どうやら俺のその説明だけでカーディさんの心配をするのをやめたらしい。手に持ったままだった花茶を、幸せそうに飲み始めた。マイペースなアキトも可愛いな。
「ほら、これ飲んで」
クリスが鞄から取り出したのは、目覚めが良くなると言っていたお茶だろう。本当にそんなお茶だけで効果があるのかと密かに心配してしまったが、カーディさんはパチパチと瞬きをすると次いでふわりと笑みを浮かべた。
「起きたかい?カーディ」
「ああ、おはよう、クリス」
「おはよう、カーディ」
あまりに劇的なその変化に、さっき聞いた茶葉の名前はきちんと覚えておこうと俺はこっそりと決意した。我に返ったカーディさんは俺とアキトの視線に気づくと、気まずそうに苦笑を浮かべた。
「あー…みっともない所を見せたなぁ。俺はどうしても朝が無理でな」
「いやいや、体質なら仕方ないよ」
「ああ、気にするな」
アキトと二人がかりで慰めたが、カーディさんはそれでもまだ恥ずかしそうにしている。どうしようかと悩んだのは一瞬だけだった。
クリスはカーディさんのためになる行動なら、本気で怒ったりしないだろう。アキトのためになる行動なら、俺が本気で怒れないのと同じだと思う。
「そういう所も可愛いんだっていう伴侶から、楽しみを奪わないでやってくれないか?」
「あっ、ばらさないで下さいよ!」
慌てた様子のクリスに、俺はあえてあっさりと答えた。
「ああ、悪いな、ついうっかり?」
「それなら私にだって考えがありますからね!アキトさん、ハルは」
仕返しに俺の発言もアキトにばらされるのは、覚悟の上だ。別にアキトに隠しておきたい事なんて何もないからな。余裕の表情でクリスの言葉を待っていたけれど、それより早くカーディさんがクリスに抱き着いた。
「…クリス」
「はいっ!?」
ひっくり返った声に今のクリスの感情が漏れてるな。ちょっと面白いぐらい動揺しているみたいだ。ちらりと視線を向ければ、アキトも微笑ましそうに二人を見つめている。
「ありがとう。この体質も悪くないって、今初めて思ったわ」
「…いつもは頼れるカーディが、私に頼ってくれる滅多にない機会だから…本当に可愛いと思ってるからね」
ああ、すっかり二人の世界だな。まあ仲が良さそうで何よりだ。俺もこんな風にアキトと当然のようにいちゃつける伴侶になりたいなと素直にそう思った・
「ああ、ありがとう。あと、ハルもありがとな」
予想外にカーディさんの口から俺への礼が飛び出してきて、俺は驚きながら聞き返した。
「え?俺?」
「俺のために、クリスの情報を教えてくれたから」
「ああ、どういたしまして」
クリスはカーディさんの言葉を聞いて、何も言わずにただ笑みを浮かべた。どうやら俺の発言をアキトにばらされるのは、ギリギリの所でまぬがれたみたいだ。
「おはよう、ハル。目が覚めちゃって」
目が覚めちゃってと口では言っているけれど、どことなくまだ眠そうだ。目をこすりながらゆっくりと近づいてくるアキトのために、俺はさっき淹れておいた花茶をコップに注いだ。これは寝起きに飲むと、体が温まるからな。
「おはようございます、アキトさん」
「クリスさん、おはようございます」
挨拶を交わす二人を見守りながら、そっとアキトを手招く。すぐにこちらへ近づいてきたアキトに、俺はすかさずカップを差し出した。
「はい。今朝は少し冷えるから、これ飲んで」
「ありがと」
お礼を言って受け取ったアキトは、こくりと控え目に口をつけると嬉しそうに微笑んだ。良かったこのお茶はアキトの好きな味か。
「クリスも、もう少し飲むか?」
「ああ、頂きます」
すぐに差し出されたクリスのコップに追加の花茶を注いでいると、両手でコップを持ったアキトはじっと俺達のやりとりを見つめていた。
「何か二人も仲良くなった?」
少し嬉しそうにそう尋ねられたので、俺は笑って答えた。
「ああ、クリスはカーディさんにしか興味が無いから、アキトに惚れられる心配が無いからね。惚気たせいで興味を持たれたら困るから普段は我慢してるんだよ」
それは間違いなく俺の本音だったけれど、アキトは不思議そうにゆるりと首を傾げていた。そんな心配はいらないと思うと言いたげな表情を浮かべているけれど、本当にアキトは、自分がどれだけモテるのか全く理解していないんだな。
「私も一緒ですよ。同じ理由で惚気もろくに出来なかったので…本当に楽しい見張りの時間でした」
「色々と情報交換もできたしな」
「さすがにハルさんは情報通でしたね」
「クリスもだろう」
店の情報や買取素材の情報、他国の情勢まで、色んな事を話した。
中でも驚いたのは、やっぱり本職である魔道具店の話だな。まさか今でも直接魔道具店に買取を申し込む方法があるなんて、俺もさすがに知らなかった。しかもそれがギルドの許可をきちんと得た制度だっていうんだから驚きだ。ギルドの利にはならないだろうに、よく許可をもぎ取れたな。
これからも情報交換はこまめにしようと約束も交わしたし、ストファー魔道具店にはたまに顔を出すようにしないとな
のんびりと飲み物を楽しみながら今日の予定を確認していると、ばさりと背後で音が聞こえた。三人の視線が集中した先、カーディさんはテントをめくったまま俺達の方を真顔で見つめていた。
「……おはよう」
ぽつりと呟いたカーディさんは、ぎゅっと眉間にしわを寄せた。
「カーディ、おはよう。今日は自分で起きれたんだね」
「…うるさい」
いつも笑顔のカーディさんは、そう言うなり不服そうにクリスを睨みつけている。アキトは一体何があったんだと言いたげな心配顔で、二人のやりとりをはらはらと見守っている。
その不機嫌そうな顔の理由を昨夜のうちに知っていた俺は、そっとアキトの耳元に唇を寄せた。
「さっき聞いたんだけど、カーディさんは寝起きが悪いらしいよ」
「あ、そうなの?」
そういう奴なら友人にもいたよと言ったアキトは、どうやら俺のその説明だけでカーディさんの心配をするのをやめたらしい。手に持ったままだった花茶を、幸せそうに飲み始めた。マイペースなアキトも可愛いな。
「ほら、これ飲んで」
クリスが鞄から取り出したのは、目覚めが良くなると言っていたお茶だろう。本当にそんなお茶だけで効果があるのかと密かに心配してしまったが、カーディさんはパチパチと瞬きをすると次いでふわりと笑みを浮かべた。
「起きたかい?カーディ」
「ああ、おはよう、クリス」
「おはよう、カーディ」
あまりに劇的なその変化に、さっき聞いた茶葉の名前はきちんと覚えておこうと俺はこっそりと決意した。我に返ったカーディさんは俺とアキトの視線に気づくと、気まずそうに苦笑を浮かべた。
「あー…みっともない所を見せたなぁ。俺はどうしても朝が無理でな」
「いやいや、体質なら仕方ないよ」
「ああ、気にするな」
アキトと二人がかりで慰めたが、カーディさんはそれでもまだ恥ずかしそうにしている。どうしようかと悩んだのは一瞬だけだった。
クリスはカーディさんのためになる行動なら、本気で怒ったりしないだろう。アキトのためになる行動なら、俺が本気で怒れないのと同じだと思う。
「そういう所も可愛いんだっていう伴侶から、楽しみを奪わないでやってくれないか?」
「あっ、ばらさないで下さいよ!」
慌てた様子のクリスに、俺はあえてあっさりと答えた。
「ああ、悪いな、ついうっかり?」
「それなら私にだって考えがありますからね!アキトさん、ハルは」
仕返しに俺の発言もアキトにばらされるのは、覚悟の上だ。別にアキトに隠しておきたい事なんて何もないからな。余裕の表情でクリスの言葉を待っていたけれど、それより早くカーディさんがクリスに抱き着いた。
「…クリス」
「はいっ!?」
ひっくり返った声に今のクリスの感情が漏れてるな。ちょっと面白いぐらい動揺しているみたいだ。ちらりと視線を向ければ、アキトも微笑ましそうに二人を見つめている。
「ありがとう。この体質も悪くないって、今初めて思ったわ」
「…いつもは頼れるカーディが、私に頼ってくれる滅多にない機会だから…本当に可愛いと思ってるからね」
ああ、すっかり二人の世界だな。まあ仲が良さそうで何よりだ。俺もこんな風にアキトと当然のようにいちゃつける伴侶になりたいなと素直にそう思った・
「ああ、ありがとう。あと、ハルもありがとな」
予想外にカーディさんの口から俺への礼が飛び出してきて、俺は驚きながら聞き返した。
「え?俺?」
「俺のために、クリスの情報を教えてくれたから」
「ああ、どういたしまして」
クリスはカーディさんの言葉を聞いて、何も言わずにただ笑みを浮かべた。どうやら俺の発言をアキトにばらされるのは、ギリギリの所でまぬがれたみたいだ。
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