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344.【ハル視点】クリスと
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「ストファー魔道具店は他の領にも支店はありますし、あなた達なら指定された素材を採取するのも簡単にこなせるでしょう?他の領に行ったとしても優先的に依頼を入れる事はできますし、もし万が一冒険者を辞めたいとなった時には、店員になるという手もありま…」
「待った、待ってくれ!」
怒涛のようにまだまだ続きそうなクリスさんの言葉を、俺は慌てて遮った。
「すみません、すこし唐突すぎましたか?」
「あーいや、その気持ちはすごく嬉しいんだが、うちは貴族らしくない家だからな」
結婚相手への条件なんて何か強い所がある事なんて曖昧なものだけだし、アキトは確実にその条件に合格できる。そう伝えれば、クリスさんはホッと一つ大きく息を吐いた。
「あ、そうなんですか?それなら良かったです」
「…何故そこまで俺達のためにしようとしてくれるんだ?」
クリスさんとカーディさんに出会ってから、まだそれほど経っていない。依頼人と依頼を受けた冒険者の関係でしかない筈なのに。さっきの提案はあまりにも好条件で、そんな相手にする内容とは到底思えなかった。
「ただ貴方たちが気に入ったからですよ」
「それだけ?」
「ええ、カーディに誓ってそれだけです」
クリスさんはまっすぐ俺の目を見つめて、はっきりとそう断言してみせた。そのあまりに真剣な表情に、俺は何も言えずに口をつぐんだ。
だってあのクリスさんが、よりによってカーディさんの名前に誓うんだからな。そんな言葉が嘘なわけがない。下手をしたら駆け出しの騎士が口にする型通りの剣への誓いよりも、こちらの方が信じられるかもしれない。
「そうか、ありがとう」
「いえいえ、先走ってすみません。あ、でも、じゃあ何が問題なんですか?」
「問題と言うか…まだ想いが通じ合ってそれほど経ってないのに、急に結婚を申し出て引かれないかと心配というか…」
語尾がどんどん小さくなっていくのは、言葉にすると自分の情けなさが際立つ気がしたからだ。クリスさんは笑わずに聞いてくれていたけれど、ぐいっと俺に顔を近づけて小声で囁いた。
「ハルさんだけに、大事な事を一つ教えてあげましょう」
「は?何を?」
「カーディは毎回あっさりと結婚を断っていましたが、それでも嬉しい気持ちは確かにあったそうです」
「…そうなのか?」
「はい!断りはしたけれど、それでも気持ちは嬉しかったんだと確かに」
そうか。例えアキトに断られたとしても、嬉しく思ってくれるなら伝えてしまっても良いのかもしれない。
「自分たちだけの思い出にしたかっただろうに…良い事を教えてくれてありがとう、クリスさん」
思わず頭を下げた俺の肩を、クリスさんはぽんと軽く叩いた。
「いいんです。それと、良ければクリスと呼んでください」
「ああ、クリス。俺の事もハルと呼んでくれ」
「はいっ」
どうやらアキトだけじゃなく、俺にも新しい友人が出来たみたいだな。
それから俺達は、時間も忘れてひたすらに語り合った。
「カーディの長所は…世話焼きなのに押しつけがましくない所ですかね」
「アキトの長所は、やっぱりあの優しさと性格の良さだな」
「あ、カーディの戦闘はしなやかで格好良いんですよ」
「ああ、移動中の身のこなしもかなりのものだったな」
「あのハロルド様に褒めてもらえるなんて、さすがカーディです」
「ハロルド様はやめろ。アキトの魔法も相当なものだぞ?見たら絶対に驚く」
「そうなんですか?それはぜひ見てみたいですね」
お互いの恋人と伴侶の自慢話。
「友人に囲まれるカーディも可愛いとは思うんですが…やっぱり面白くないんですよ」
「ああ、それは分かるな」
「分かってくれますか?ハル」
「アキトは出身国が遠いから友人と呼べる奴は少ないんだが、とにかく周りから好かれるんだよ」
「そんな感じしますね」
「特にレーブンとかメロウとか、厄介なのに好かれるんだ」
「うわぁ、それは大変…ですね」
「分かってくれるか?クリス」
ほんの少しの愚痴。
「お勧めのお店…やっぱりグネのパン屋かな」
「ああ、うまかったな。俺はやっぱり白狼亭だろうな」
「レーブンさんの兄弟がやってる店ですよね?行った事ないんです」
「あそこのステーキはトライプール一だぞ」
「あ、それなら東通りの裏にあるお店は知ってます?」
良いお店や行きたい場所の情報交換。
話す事は尽きなかった。わいわいと温かい飲み物を片手に二人で盛り上がっている間に、気づけば空がじわりと明るくなってきた。もう少しで太陽が見えるかなと空を眺めていると、不意にテントの方で気配が動いた。
周囲の警戒のために巡らせていた気配探知が、起きだしてきたアキトの気配を捕らえたようだ。
アキトはテントから這い出してくるなり、大きく一つあくびをした。あくびまで可愛いんだから、本当にアキトはすごいな。そう思いながら、俺もひとつあくびを洩らした。
「待った、待ってくれ!」
怒涛のようにまだまだ続きそうなクリスさんの言葉を、俺は慌てて遮った。
「すみません、すこし唐突すぎましたか?」
「あーいや、その気持ちはすごく嬉しいんだが、うちは貴族らしくない家だからな」
結婚相手への条件なんて何か強い所がある事なんて曖昧なものだけだし、アキトは確実にその条件に合格できる。そう伝えれば、クリスさんはホッと一つ大きく息を吐いた。
「あ、そうなんですか?それなら良かったです」
「…何故そこまで俺達のためにしようとしてくれるんだ?」
クリスさんとカーディさんに出会ってから、まだそれほど経っていない。依頼人と依頼を受けた冒険者の関係でしかない筈なのに。さっきの提案はあまりにも好条件で、そんな相手にする内容とは到底思えなかった。
「ただ貴方たちが気に入ったからですよ」
「それだけ?」
「ええ、カーディに誓ってそれだけです」
クリスさんはまっすぐ俺の目を見つめて、はっきりとそう断言してみせた。そのあまりに真剣な表情に、俺は何も言えずに口をつぐんだ。
だってあのクリスさんが、よりによってカーディさんの名前に誓うんだからな。そんな言葉が嘘なわけがない。下手をしたら駆け出しの騎士が口にする型通りの剣への誓いよりも、こちらの方が信じられるかもしれない。
「そうか、ありがとう」
「いえいえ、先走ってすみません。あ、でも、じゃあ何が問題なんですか?」
「問題と言うか…まだ想いが通じ合ってそれほど経ってないのに、急に結婚を申し出て引かれないかと心配というか…」
語尾がどんどん小さくなっていくのは、言葉にすると自分の情けなさが際立つ気がしたからだ。クリスさんは笑わずに聞いてくれていたけれど、ぐいっと俺に顔を近づけて小声で囁いた。
「ハルさんだけに、大事な事を一つ教えてあげましょう」
「は?何を?」
「カーディは毎回あっさりと結婚を断っていましたが、それでも嬉しい気持ちは確かにあったそうです」
「…そうなのか?」
「はい!断りはしたけれど、それでも気持ちは嬉しかったんだと確かに」
そうか。例えアキトに断られたとしても、嬉しく思ってくれるなら伝えてしまっても良いのかもしれない。
「自分たちだけの思い出にしたかっただろうに…良い事を教えてくれてありがとう、クリスさん」
思わず頭を下げた俺の肩を、クリスさんはぽんと軽く叩いた。
「いいんです。それと、良ければクリスと呼んでください」
「ああ、クリス。俺の事もハルと呼んでくれ」
「はいっ」
どうやらアキトだけじゃなく、俺にも新しい友人が出来たみたいだな。
それから俺達は、時間も忘れてひたすらに語り合った。
「カーディの長所は…世話焼きなのに押しつけがましくない所ですかね」
「アキトの長所は、やっぱりあの優しさと性格の良さだな」
「あ、カーディの戦闘はしなやかで格好良いんですよ」
「ああ、移動中の身のこなしもかなりのものだったな」
「あのハロルド様に褒めてもらえるなんて、さすがカーディです」
「ハロルド様はやめろ。アキトの魔法も相当なものだぞ?見たら絶対に驚く」
「そうなんですか?それはぜひ見てみたいですね」
お互いの恋人と伴侶の自慢話。
「友人に囲まれるカーディも可愛いとは思うんですが…やっぱり面白くないんですよ」
「ああ、それは分かるな」
「分かってくれますか?ハル」
「アキトは出身国が遠いから友人と呼べる奴は少ないんだが、とにかく周りから好かれるんだよ」
「そんな感じしますね」
「特にレーブンとかメロウとか、厄介なのに好かれるんだ」
「うわぁ、それは大変…ですね」
「分かってくれるか?クリス」
ほんの少しの愚痴。
「お勧めのお店…やっぱりグネのパン屋かな」
「ああ、うまかったな。俺はやっぱり白狼亭だろうな」
「レーブンさんの兄弟がやってる店ですよね?行った事ないんです」
「あそこのステーキはトライプール一だぞ」
「あ、それなら東通りの裏にあるお店は知ってます?」
良いお店や行きたい場所の情報交換。
話す事は尽きなかった。わいわいと温かい飲み物を片手に二人で盛り上がっている間に、気づけば空がじわりと明るくなってきた。もう少しで太陽が見えるかなと空を眺めていると、不意にテントの方で気配が動いた。
周囲の警戒のために巡らせていた気配探知が、起きだしてきたアキトの気配を捕らえたようだ。
アキトはテントから這い出してくるなり、大きく一つあくびをした。あくびまで可愛いんだから、本当にアキトはすごいな。そう思いながら、俺もひとつあくびを洩らした。
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