生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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343.【ハル視点】素直に語る気持ち

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「出会った頃のアキトは、まだ冒険者じゃなかったんだ」

 別に詳しい話を聞きたいと言われたわけじゃないんだし、ただ俺の気持ちを素直に語れば良いだけだな。そう考えれば、自然と言葉はこぼれ落ちた。

「偶然出会って、たまたま一緒に移動する事になってな」
「へーそうなんですか。その頃はアキトさんの事は?」
「うーん…優しくて良い青年だなと思ってた、かな」

 最初は本当にそれだけだったんだよな。人として気に入ったから側にいて見守りたいと思うんだと思い込んでいた。

「つまりその頃は恋愛感情じゃなかったって事ですね」
「ああ。アキトの事をそういう意味で好きだと気づいたのは…アキトが俺を守ろうとしてくれた時だな」
「え?ハルさんを…守る?」

 心底不思議そうな顔をしたクリスさんに、俺は笑って答えた。

「素性を知ってるクリスさんなら分かると思うんだが、俺を守ろうとしてくれる人なんてそうそういないんだよ」
「ええ…辺境領で鍛えられたあなたの強さなら、それも無理は無いと思いますが…?」

 あ、俺の出身地までちゃんと知ってるのか。別に隠してるわけじゃないから良いんだけどと、俺はすぐに話を続けた。

「さすがに幼い頃は父や家族に守ってもらってたんだけどな。ただ騎士になってからは、俺はいつでも守る側で、守られる側に回る事なんてなかった」

 それが当然だと思っていたし、周りを守るのは騎士の義務だと思ってた。

「トライプール騎士団の元副団長ですからねぇ…」

 心配したり守ろうとする人はそうそういないでしょうと、クリスさんは苦笑を浮かべた。

「でもそんなハルさんを、アキトさんは守ろうとしたと」
「あれは衝撃だったな。それでよくよく考えてみればもっと前からアキトの事を好きだったんだと、そこでやっと自覚したわけだ」
「なるほど」

 俺はそこで言葉を切ると、もう一度星空を見上げた。澄んだ夜の空気のせいか、星がキラキラと輝いて見える。アキトが見たら、きっと喜ぶだろうなと自然にそう思ってしまう。

「元々浅い付き合いしかしてこなかったから、俺が誰か一人をここまで想える日がくるなんて想像した事もなかったよ」
「おや、そうなんですか?」
「別れようと言われたら分かったと返す程度の付き合いしかしてこなくてな」

 クリスさんは俺の過去の話に呆れるでも怒るでもなく、私なんて元々人に一切興味が無かったので私よりはマシなのではと笑った。

「美味しいものを食べたらアキトに食べさせたいと思うし、綺麗な景色を見たらアキトにも見せたいと思うんだから、本当に人を好きになるって面白いよな」
「あー、はい。すごく分かります」

 私も美味しいものを食べたらカーディに教えたいと思いますと、クリスさんは幸せそう微笑んだ。

「聞きたかったんだが、伴侶ってやっぱり良いものか?」
「ええ、それはもう」

 恋人にならちょっかいをかけてくる奴も、伴侶となると一歩引きますからとクリスさんは楽し気に続けた。それは確かに良いかもしれない。

「ですが…元々カーディは、結婚には否定的だったんですよ」
「それはかなり意外だな」
「いつお前の気が変わっても良いようにと言われた時の絶望は…すごかったですよ」

 どろりと濁った目をしたクリスさんは、はははと乾いた笑みをこぼす。それは間違いなく絶望しかないな。

「気なんか一生変わらないと言っても聞いてくれなくて…」
「うわぁ…それをどうやって伴侶になってもらったんだ?」
「必死で自分の考えを説明して、次に理詰めで説得して、最終的には泣き落としです」

 なりふり構わず頑張りましたと、クリスさんはあっさりと告げた。そうか、泣き落としという手があるのか。

 アキトはもし俺が泣き落としなんて手にでたらどうするだろうな?大慌てで謝ってから必死になって慰めてくれそうな気もするが、さすがに泣き落としはちょっとな。恥ずかしすぎるからそれは最終手段にしよう。

「ハルさんも、結婚を考えてるんですか?」
「ああ、アキトとの関係をはっきりさせたいとは思ってるんだが…」

 まだ想いを交わしてからそれほど経ってないのに、結婚しようと言って引かれないのかが心配だ。そう思って黙り込んだ俺の反応は、クリスさんには違う意味で受け取られたみたいだ。

「立ち入った事を聞きますが…ハルさんは貴族なわけですよね?もしかして辺境領には結婚相手の条件なんてものがあるんでしょうか?」

 心配そうな表情のクリスさんは、俺が口を挟む暇を与えずに続けた。

「もし家と縁を切って騎士を辞めてでも、それでもアキトさんと一緒になりたい気持ちがあるなら、私も微力ながらお手伝いをしますよ?」
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