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342.【ハル視点】クリスさんとカーディさん
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楽し気に話していたクリスさんは急に言葉を切ると、ふうと一つため息を吐いた。傍らに積み上げてあった薪をそっと焚火に追加してから、クリスさんは口を開いた。
「ただ、問題があったんです」
「問題…というと?」
「当時のカーディには、知り合いや友人がたくさんいたんです」
「あー、確かに交友関係は広いタイプに見えるな?」
それにしてはアキトが友人になったと言った時に、クリスさんはひどく嬉しそうにしていたけど。
「ええ、まさにそうだったんですよ。少し街を歩けば知り合いに出会うし、ご飯を食べに行けば友人に遭遇するって感じでしたね」
あー、つまりクリスさんは二人だけの時間を過ごしたいのに、どこに行っても確実に邪魔が入るって事か。自分とアキトに置き換えて想像してみたけれど、そんなの俺にはとてもじゃないが耐えられそうにないな。それならいっそ、黒鷹亭に二人でこもっていたくなる。
「それが本当にただの友人ならまだ耐えられたかもしれないんですが…その中にカーディに惚れている奴がいたんです」
「惚れてる奴が…?」
「ただの勘でしたけど、あれは間違いないと思います」
「言動からそう分かったって事か」
こくりと頷いたクリスさんは、すうと息を吸い込んだ。
「まあカーディは優しくて面倒見も良くてしかも強くて格好良い上に更に可愛いところまであるので見る目だけはあるなとは思いますけどね」
一息でそう言い切られたのには、思わず苦笑が漏れてしまった。
「ただその友人からしたら、突然現れた畑違いの奴とカーディが仲良くしてるって事になるでしょう?」
「それはまあ…面白くは無いだろうな?」
「ええ、その友人はちょっと世話を焼きすぎなんじゃないか――とカーディに忠告したらしく、そこから一気に距離を取られてしまったんですよ」
ストファー魔道具店には徹底して近づかないし、採取の依頼を指名で入れても一切受けてくれない。魔道具作成の合間に抜け出してカーディさんの家まで会いに行ったけれど、いつ行っても留守で会えなかったそうだ。
「……それはつらいな」
「あれは本当につらかったです」
今でも思いだしたくないぐらいの全力でのすれ違いでしたからね。クリスさんは寂しそうに笑いながらぽつりとそう呟いた。
「ちなみに…それは、どうやって乗り越えたんだ?」
そんなすれ違いはアキトとの間には起こらないとは思うけれど、それでも参考までにと尋ねてみれば、クリスさんはあっさりと答えてくれた。
「なりふりなんて構っていたらそいつに奪われるかもしれないと思ったので、冒険者ギルド前で一日待ち伏せしました」
「よりによってギルド前でか?」
あんな人通りの多い場所でそんな事をすれば、間違いなく噂になるだろう。
「カーディに余計な忠告をしてくれたご友人も、偶然近くにいましたね?」
ニヤリと笑った様子からして、絶対にただの偶然なんかじゃないだろう。間違いなくその友人がいる瞬間を、確実に狙ってたんだと思う。
「そこで、私の事を避けてる理由を教えてくださいと詰め寄ったんです」
「カーディさんはなんて?」
「俺も友人に言われて気づいたんだけど、その、有名店の店主が…さ、俺みたいなただのいち冒険者に世話を焼かれてるなんて、みっともないだろう?お前の威厳に関わるんだよ」
「うわぁ…」
「あまりに衝撃すぎて、一言一句違わずに覚えてます」
カーディさんのその発言に衝撃を受けたクリスさんは、咄嗟に言い返したらしい。
「そんな理由でカーディに会えなくなるなら、私はあんな店閉めます!って叫んだんですよ」
「よりによってギルド前で?」
「ええ、よりによってギルド前でです」
あのストファー魔道具店の店主が、人通りの多いギルド前でそんな事を言ったならそれはもう大騒ぎだっただろうな。俺の耳に入ってないのが不思議なぐらいの大事件だ。任務か依頼でトライプールを離れてでもいたんだろうか。
なんて無責任だと怒られるかと思ったのに、カーディさんは予想に反して静かな声でクリスさんに尋ねたらしい。魔道具作りがあんなに好きなのに?と聞かれたクリスさんは、カーディがいなくなる方がつらいと即答で答えたらしい。
「そんなの、まるで俺の事…と言い淀んだカーディは最高に可愛かったですね」
頬を赤く染めてうつむいたカーディさんにその場で告白をして、そのまま恋人になったんだとクリスさんは教えてくれた。
ちなみに告白の言葉は二人だけの秘密だそうだ。
思いっきり人通りの多い場所で告白劇をしておいてよく言うとは思ったが、隠しておきたい気持ちも分かるから俺は何も言わなかった。
「あ、私ばかり話してすみません。ハルさんとアキトさんの話も、ぜひ聞かせてくださいね」
クリスさんはそう言うと、俺が話し出すのを黙って待ってくれている。
さて一体何から話せば良いんだろう。不自然にならない程度に二人で考えたあの設定も入れないと駄目だろうし、かと言って嘘を言ったらせっかくの惚気られる機会なのに意味が無くなってしまう。
話す事を整頓しながら何げなく空を見上げれば、そこには満天の星空が広がっていた。さっきまでは、雲の合間から少ししか見えなかったのに。
俺は顔を上げると口を開いた。
「ただ、問題があったんです」
「問題…というと?」
「当時のカーディには、知り合いや友人がたくさんいたんです」
「あー、確かに交友関係は広いタイプに見えるな?」
それにしてはアキトが友人になったと言った時に、クリスさんはひどく嬉しそうにしていたけど。
「ええ、まさにそうだったんですよ。少し街を歩けば知り合いに出会うし、ご飯を食べに行けば友人に遭遇するって感じでしたね」
あー、つまりクリスさんは二人だけの時間を過ごしたいのに、どこに行っても確実に邪魔が入るって事か。自分とアキトに置き換えて想像してみたけれど、そんなの俺にはとてもじゃないが耐えられそうにないな。それならいっそ、黒鷹亭に二人でこもっていたくなる。
「それが本当にただの友人ならまだ耐えられたかもしれないんですが…その中にカーディに惚れている奴がいたんです」
「惚れてる奴が…?」
「ただの勘でしたけど、あれは間違いないと思います」
「言動からそう分かったって事か」
こくりと頷いたクリスさんは、すうと息を吸い込んだ。
「まあカーディは優しくて面倒見も良くてしかも強くて格好良い上に更に可愛いところまであるので見る目だけはあるなとは思いますけどね」
一息でそう言い切られたのには、思わず苦笑が漏れてしまった。
「ただその友人からしたら、突然現れた畑違いの奴とカーディが仲良くしてるって事になるでしょう?」
「それはまあ…面白くは無いだろうな?」
「ええ、その友人はちょっと世話を焼きすぎなんじゃないか――とカーディに忠告したらしく、そこから一気に距離を取られてしまったんですよ」
ストファー魔道具店には徹底して近づかないし、採取の依頼を指名で入れても一切受けてくれない。魔道具作成の合間に抜け出してカーディさんの家まで会いに行ったけれど、いつ行っても留守で会えなかったそうだ。
「……それはつらいな」
「あれは本当につらかったです」
今でも思いだしたくないぐらいの全力でのすれ違いでしたからね。クリスさんは寂しそうに笑いながらぽつりとそう呟いた。
「ちなみに…それは、どうやって乗り越えたんだ?」
そんなすれ違いはアキトとの間には起こらないとは思うけれど、それでも参考までにと尋ねてみれば、クリスさんはあっさりと答えてくれた。
「なりふりなんて構っていたらそいつに奪われるかもしれないと思ったので、冒険者ギルド前で一日待ち伏せしました」
「よりによってギルド前でか?」
あんな人通りの多い場所でそんな事をすれば、間違いなく噂になるだろう。
「カーディに余計な忠告をしてくれたご友人も、偶然近くにいましたね?」
ニヤリと笑った様子からして、絶対にただの偶然なんかじゃないだろう。間違いなくその友人がいる瞬間を、確実に狙ってたんだと思う。
「そこで、私の事を避けてる理由を教えてくださいと詰め寄ったんです」
「カーディさんはなんて?」
「俺も友人に言われて気づいたんだけど、その、有名店の店主が…さ、俺みたいなただのいち冒険者に世話を焼かれてるなんて、みっともないだろう?お前の威厳に関わるんだよ」
「うわぁ…」
「あまりに衝撃すぎて、一言一句違わずに覚えてます」
カーディさんのその発言に衝撃を受けたクリスさんは、咄嗟に言い返したらしい。
「そんな理由でカーディに会えなくなるなら、私はあんな店閉めます!って叫んだんですよ」
「よりによってギルド前で?」
「ええ、よりによってギルド前でです」
あのストファー魔道具店の店主が、人通りの多いギルド前でそんな事を言ったならそれはもう大騒ぎだっただろうな。俺の耳に入ってないのが不思議なぐらいの大事件だ。任務か依頼でトライプールを離れてでもいたんだろうか。
なんて無責任だと怒られるかと思ったのに、カーディさんは予想に反して静かな声でクリスさんに尋ねたらしい。魔道具作りがあんなに好きなのに?と聞かれたクリスさんは、カーディがいなくなる方がつらいと即答で答えたらしい。
「そんなの、まるで俺の事…と言い淀んだカーディは最高に可愛かったですね」
頬を赤く染めてうつむいたカーディさんにその場で告白をして、そのまま恋人になったんだとクリスさんは教えてくれた。
ちなみに告白の言葉は二人だけの秘密だそうだ。
思いっきり人通りの多い場所で告白劇をしておいてよく言うとは思ったが、隠しておきたい気持ちも分かるから俺は何も言わなかった。
「あ、私ばかり話してすみません。ハルさんとアキトさんの話も、ぜひ聞かせてくださいね」
クリスさんはそう言うと、俺が話し出すのを黙って待ってくれている。
さて一体何から話せば良いんだろう。不自然にならない程度に二人で考えたあの設定も入れないと駄目だろうし、かと言って嘘を言ったらせっかくの惚気られる機会なのに意味が無くなってしまう。
話す事を整頓しながら何げなく空を見上げれば、そこには満天の星空が広がっていた。さっきまでは、雲の合間から少ししか見えなかったのに。
俺は顔を上げると口を開いた。
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