338 / 1,103
337.【ハル視点】クリスさんの手料理
しおりを挟む
夕食にしましょうと声をかけられた俺は、アキトの隣の切り株に腰を下ろした。
魔物避けの設置でほんの少し離れただけなのに、アキトはにこにこと嬉しそうに笑いながら俺を見つめてきた。戻ってきたのが嬉しいと言いたげな素直なその反応は、ちょっと可愛すぎるんじゃないかな。
気を抜くと抱きしめたくなるような可愛さに、慌てて視線を反らすと俺はクリスさんに話しかけた。
「クリスさん、料理の用意までさせてしまってすまない」
「いえいえ、気にしないで下さい。私が作りたかっただけなので」
朗らかに笑って答えるクリスさんに、俺はしみじみと呟いた。
「何もしない依頼人達に聞かせてやりたいよ」
これまで騎士としても冒険者としてもたくさんの依頼人に会ってきたが、全く何もしない奴や、偉そうに指示だけ出してくる奴もいた。こうやって一緒になってあれこれと考えてくれる依頼人なんて、半数もいなかったな。
「本当にやりたくてやってるので、謝る必要はありませんよ」
すぐにそう答えられるあたり、本当に良い依頼人だと思う。アキトは俺の隣でゆるりと首を傾げてから口を開いた。
「じゃあ…ありがとうございます?」
ああ、謝る必要が無いなら感謝の言葉をって事か。アキトらしい考え方だな。
「そうだな。クリスさん、ありがとう」
「どういたしまして」
クリスさんはそう言うなり、鉄板の上にかぶせていた蓋を取り払った。途端にぶわりと肉と野菜の焼けた香ばしい香りが辺りに広がった。美味しそうな料理に、アキトは目をキラキラと輝かせている。
「美味そうだなーさすがクリス!」
満面の笑みを浮かべたカーディさんの誉め言葉に、クリスさんは照れくさそうに笑って答えた。
「今日は軽く焼いただけの簡単なものだけどね」
「いや、すごい美味そうだ!」
「本当に美味しそうですね、一気にお腹が減りました!」
「ああ、良い香りだ」
三人がかりで褒められた形になったクリスさんは、照れくささを誤魔化すように食べましょうともう一度声を上げた。
クリスさんの作った料理には、一般的な野菜と滅多に手に入らない珍しい野菜が入り混じっていた。マルックスの肉を使っているのは、おそらくカーディさんの好物だからだろうな。
「味付けは塩と香草で簡単にしかつけていないので、好みでこちらを付けてくださいね」
「二種類もあるんですね」
「そうなんだ!これはクリスの特製でな…」
嬉しそうに説明をしているカーディさんによると、透き通ったタレの方は果物の果汁をベースに作ったものらしい。こっちは酸味が効いていて、野菜も肉もさっぱりといくらでも食べられるそうだ。
真っ赤なタレの方は見た目ほど辛くはないけれど、濃厚な風味に少しスパイスが効いていて食べれば食べるほどもっと食べたくなるらしい。
「どっちも美味しいから、両方食べてみてくれ!」
アキトはへぇーと素直に感心しているけれど、俺はカーディさんの隣で顔を覆っているクリスさんをちらりと見た。
大事な伴侶に自分の作った料理をこれだけ幸せそうに誉められたら、その反応も無理は無いと思う。もし俺が作った料理をアキトが目の前で褒めてくれたら、俺も同じような反応をしてしまうかもしれない。
「伴侶が可愛すぎてつらい…」
そう言いたくなる気持ちは分かるぞと密かに共感してしまったが、カーディさんは不思議そうに尋ねた。
「ん?もう食べて良いか?」
「もちろん、たくさん食べてね!お二人もどうぞ」
「「いただきます」」
自然と重なった言葉に、ほわりと胸が温かくなった。
「んっ、美味しいっ!」
「ああ…うまいな」
そのままでも素材の味が活きていてうまかったが、タレをつけると全くの別物に変わるんだな。これはお世辞抜きで、本当に美味い。カーディさんの誉め言葉は、伴侶の欲目ではなかったみたいだ。
んーっと頬を押さえて幸せそうに笑う反応からして、さっぱりしたタレはかなりアキト好みみたいだな。できれば作り方を教わりたいぐらいだ。
自分の事のように自慢げなカーディさんの反応にひとしきり悶えていたクリスさんは、我に返るとこぶりなパンを取り出して俺達に渡してくれた。
騎士としての職務上、俺は領都トライプールの街中についてはそれなりに詳しい。グネのパン屋がどこにあるのかも知識として知ってばいるが、そういえば立ち寄った事は無かったな。
アキトの嬉しそうな反応を見て、今度一緒に店を訪れようと俺は密かに決意した。
魔物避けの設置でほんの少し離れただけなのに、アキトはにこにこと嬉しそうに笑いながら俺を見つめてきた。戻ってきたのが嬉しいと言いたげな素直なその反応は、ちょっと可愛すぎるんじゃないかな。
気を抜くと抱きしめたくなるような可愛さに、慌てて視線を反らすと俺はクリスさんに話しかけた。
「クリスさん、料理の用意までさせてしまってすまない」
「いえいえ、気にしないで下さい。私が作りたかっただけなので」
朗らかに笑って答えるクリスさんに、俺はしみじみと呟いた。
「何もしない依頼人達に聞かせてやりたいよ」
これまで騎士としても冒険者としてもたくさんの依頼人に会ってきたが、全く何もしない奴や、偉そうに指示だけ出してくる奴もいた。こうやって一緒になってあれこれと考えてくれる依頼人なんて、半数もいなかったな。
「本当にやりたくてやってるので、謝る必要はありませんよ」
すぐにそう答えられるあたり、本当に良い依頼人だと思う。アキトは俺の隣でゆるりと首を傾げてから口を開いた。
「じゃあ…ありがとうございます?」
ああ、謝る必要が無いなら感謝の言葉をって事か。アキトらしい考え方だな。
「そうだな。クリスさん、ありがとう」
「どういたしまして」
クリスさんはそう言うなり、鉄板の上にかぶせていた蓋を取り払った。途端にぶわりと肉と野菜の焼けた香ばしい香りが辺りに広がった。美味しそうな料理に、アキトは目をキラキラと輝かせている。
「美味そうだなーさすがクリス!」
満面の笑みを浮かべたカーディさんの誉め言葉に、クリスさんは照れくさそうに笑って答えた。
「今日は軽く焼いただけの簡単なものだけどね」
「いや、すごい美味そうだ!」
「本当に美味しそうですね、一気にお腹が減りました!」
「ああ、良い香りだ」
三人がかりで褒められた形になったクリスさんは、照れくささを誤魔化すように食べましょうともう一度声を上げた。
クリスさんの作った料理には、一般的な野菜と滅多に手に入らない珍しい野菜が入り混じっていた。マルックスの肉を使っているのは、おそらくカーディさんの好物だからだろうな。
「味付けは塩と香草で簡単にしかつけていないので、好みでこちらを付けてくださいね」
「二種類もあるんですね」
「そうなんだ!これはクリスの特製でな…」
嬉しそうに説明をしているカーディさんによると、透き通ったタレの方は果物の果汁をベースに作ったものらしい。こっちは酸味が効いていて、野菜も肉もさっぱりといくらでも食べられるそうだ。
真っ赤なタレの方は見た目ほど辛くはないけれど、濃厚な風味に少しスパイスが効いていて食べれば食べるほどもっと食べたくなるらしい。
「どっちも美味しいから、両方食べてみてくれ!」
アキトはへぇーと素直に感心しているけれど、俺はカーディさんの隣で顔を覆っているクリスさんをちらりと見た。
大事な伴侶に自分の作った料理をこれだけ幸せそうに誉められたら、その反応も無理は無いと思う。もし俺が作った料理をアキトが目の前で褒めてくれたら、俺も同じような反応をしてしまうかもしれない。
「伴侶が可愛すぎてつらい…」
そう言いたくなる気持ちは分かるぞと密かに共感してしまったが、カーディさんは不思議そうに尋ねた。
「ん?もう食べて良いか?」
「もちろん、たくさん食べてね!お二人もどうぞ」
「「いただきます」」
自然と重なった言葉に、ほわりと胸が温かくなった。
「んっ、美味しいっ!」
「ああ…うまいな」
そのままでも素材の味が活きていてうまかったが、タレをつけると全くの別物に変わるんだな。これはお世辞抜きで、本当に美味い。カーディさんの誉め言葉は、伴侶の欲目ではなかったみたいだ。
んーっと頬を押さえて幸せそうに笑う反応からして、さっぱりしたタレはかなりアキト好みみたいだな。できれば作り方を教わりたいぐらいだ。
自分の事のように自慢げなカーディさんの反応にひとしきり悶えていたクリスさんは、我に返るとこぶりなパンを取り出して俺達に渡してくれた。
騎士としての職務上、俺は領都トライプールの街中についてはそれなりに詳しい。グネのパン屋がどこにあるのかも知識として知ってばいるが、そういえば立ち寄った事は無かったな。
アキトの嬉しそうな反応を見て、今度一緒に店を訪れようと俺は密かに決意した。
252
お気に入りに追加
4,148
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる