上 下
334 / 1,103

333.見張りの交代

しおりを挟む
 本当に良いのかなとだいぶ悩んだけれど、俺はひとまずそのポーションを受け取る事に決めた。ハルに鑑定書を見せて使って良いかと相談するなら、その時にハルにどうしたらお礼が出来るかも一緒に相談すれば良いんだよな。

 きっとハルなら何か良い案を考えてくれると思えば、少しだけ気が楽になった。

 それから俺とカーディさんは、見張りの時間を使って本当にいろんな事を話した。

 お互いの相手のどんな所が好きか、一番格好良いと思った瞬間はいつだったか、一緒に行きたい場所はどこか。

 そんな事をあれこれと話し合っていると、あっという間に見張りの時間は過ぎていく。

「あ、アキトは食べ物の好き嫌いってあるのか?」
「俺は特にないなぁ?カーディは?」

 いっぱい話してるうちに敬語は無しでと頼まれた俺は、カーディさんの質問に軽く答えた。気を張らなくて良い友人が増えた感じで、すごく嬉しい。

「俺も無いんだけどなークリスはあるんだよ、嫌いなもの」
「そうなんだ?」
「しかも隠してるつもりみたいなんだけど、クリスはティフの木の実が苦手なんだ」
「ティフの木の実って、パンとかに入ってる、あれ?」

 確かどこかで食べたパンに入ってたのが、そんな名前だった気がする。クルミみたいな食感で、ほんのり苦味があって俺はかなり好きな味だった。

「そうそう。だから俺は出来るだけ入ってるのは買わないように気をつけてるんだけど、外食だとたまに出てくるだろ?」
「ああ、気づかないうちに料理に使われてるって事?」
「そうそう。その時のクリスは眉間にしわを寄せてるのに、必死で誤魔化しながら食べるんだーそれがまた可愛くてな」

 その時のクリスさんの表情を思いだしたのか、カーディは悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「えー…気づかれてたの?」

 不意に聞こえてきた声に、俺は慌てて声の出所を探した。テントから出てきたばかりのクリスさんは、そう言うなりがっくりと肩を落とした。

「いつから聞いてたんだよ?」
「聞いてるの知っててその話題にしたくせに…」
「まあな」
「それにしても気づいてたの?」
「俺がクリスの事に気づかないわけがないだろう?」
「あー…うん、それもそうだね」

 近づいてくるなりカーディさんのつむじにキスを落としたクリスさんに、俺はそっと視線を反らした。さすが新婚さんだ、その空気はどこまでも甘い。

「それにしても、もう交代の時間か?」
「うん、そうだよ。魔道具で確認したから正確だよ?」

 くっついたまま話している二人をできるだけ見ないようにしていると、テントから出てきたばかりのハルと目があった。

「アキト、おはよう。何も問題は無かった?」
「おはよう、ハル。魔物も人も一切来なかったよ」

 一応見張りだからと話をしながらも周りを気にしてたけど、本当に何事もなかった。そう告げれば、ハルは安心したよと言いながら俺のおでこに軽い音を立ててキスを落とす。

 不意打ちの急な触れ合いに驚いてしまったけれど、もしかしてクリスさんとカーディのこの甘い空気にあてられたのかな。いつ触れられてもハルが相手だったら嬉しいから、別に良いんだけどさ。

「カーディさんとの見張りは楽しかったかい、アキト?」
「うん、すっごく!カーディとは友達になったんだ」
「へぇ、そうなのか」

 クリスさんはカーディに友人がと、何故かぷるぷる震えていた。カーディは元々友人多そうなタイプなのにな。なんだか予想外の反応だ。

「また色々話そうな、アキト」
「うん、ぜひ!」

 ニコニコと笑い合う俺達を、ハルとクリスさんは笑顔で見守っていた。

「では交代しますので、ゆっくり休んで下さいね」
「そうだな、安心して眠ってくれ」

 ぽんぽんとハルに頭を撫でられると、それだけで一気に眠気が襲ってきた。ふわぁと大きくあくびをした俺に、ハルは笑顔でテントを指差した。

「じゃあ、後は頼んだぞ。クリス、ハル」
「まかせて」
「ああ」
「カーディ、盗み聞きしないでよ?」
「しないっての。二人で思う存分語り合ってくれ」

 テントに入る寸前で振り返れば、じっと俺を見つめていたらしいハルとぱちりと目が合った。思わずひらひらと手を振っておやすみと口を動かせば、ハルも目を細めておやすみと答えてくれた。

 寝袋に潜り込んだ俺は、幸せな気持ちであっという間に眠りに落ちていった。
しおりを挟む
感想 315

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

氷の華を溶かしたら

こむぎダック
BL
ラリス王国。 男女問わず、子供を産む事ができる世界。 前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。 ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。 そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。 その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。 初恋を拗らせたカリストとシェルビー。 キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

処理中です...