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331.惚気話

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 その時の情景を思いだしてでもいるのか、カーディさんはそう言うと懐かしそうに笑ってみせた。その笑顔がとても幸せそうで、俺も自然と笑みを返した。

「じゃあ本当に、最初はクリスさんの事をいけ好かないなんて思ってたんですね」
「ああ、まあ本当に最初の一瞬だけだったけどな」
「そんな出会いから、どうやって今みたいな関係になったんですか?」

 俺はワクワクしながらそう尋ねてみた。同性が好きだった俺は、友人との恋愛話にはあえて参加した事はなかった。だから今初めて気づいたんだけど、思ったよりも俺はこういう話が好きみたいだ。

「きっかけはまさにその時だな。良い事を教えてくれたって飯をおごってもらったんだが、思った以上に気が合ったんだ」

 酒と食べ物の好みも近くて、話題も豊富。しかも知らない事を尋ねても、馬鹿にするでもなく丁寧に説明してくれたそうだ。そこでもう良い奴だなに認識は変わっていたらしい。

「ああーなるほど」
「それで何となく採取の依頼を受けたりしてるうちに、自然と友人と呼べる関係になった」

 友人としての付き合いが増えていくにつれて、カーディさんはクリスさんの私生活を知ったんだそうだ。元々世話焼きだったカーディさんは、不健康な生活をしようとするクリスさんをどうしても放っておけなくなったらしい。

「飯を食え、掃除をしろ、きちんと寝ろって何度言ったか」
「仕事に集中しちゃうと、他がおろそかになる人、なんですね…?」
「まさにそれだな。だがな、周りの知り合い達からちょっと世話を焼きすぎだろうって言われてなぁ?」

 まるでクリスさんの親みたいな構いっぷりだな。有名店の経営者相手に、ただの冒険者がそんな態度を取るのは駄目だろう。そんな事を言われてしまったそうだ。

「まあ、心配込みで言われた忠告だったみたいなんだが…」

 カーディさんは苦笑を浮かべて続けた。

「確かにちょっと距離が近すぎたかってしばらく距離を取ったら、ギルド前で待ち伏せされた上に何で最近会いに来てくれないんですかって詰め寄られたんだ」
「おお」
「そこでお互いの気持ちを確認し合って、まあそのままくっついた…って感じだな」

 最後の方の説明がすごくあっさりだったのは、間違いなく照れ隠しだろうな。焚火を見つめているカーディさんの頬は、火に照らされているせいだけじゃないなと分かるぐらいには赤かった。まあ、わざわざそれを指摘するなんて野暮な事はしないけどね。

「アキトとハルはどうやって出会ったんだ?」

 誤魔化すように急に話題を変えられた俺は、一瞬だけ考えこんでしまった。カーディさんに嘘は吐きたくないけど、異世界人バレを避けつつ話すとなるとハルが考えた方をベースにしないと駄目だろうか。一体どこまで説明して良いんだろうと悩みながらも、俺はそっと口を開いた。

「俺とハルは、最初は採取地で出会ったんです」

 ハルは幽霊だったし場所はよりによってあのナルクアの森だったけど、そこはあえて説明しなかった。

「そうなのか?」
「まだ当時は冒険者じゃなかった俺は道に迷ってて、ハルはそんな俺を連れて近くの村まで戻ってくれたんです」

 よし、言ってない事はたくさんあるけど、少なくとも全てが嘘って訳じゃない。

「へー確かにハルもクリスと同じくらい、道に詳しそうだよな」

 さっきも二人で道の相談してたぐらいだし。そう言ってカーディさんがあまりにさらりとハルを褒めるから、俺は思わず満面の笑みを浮かべて頷いてしまった。そうなんですよ、ハルってすごい人なんですよ。

「移動中もいっぱい気をつかってくれて、本当に頼りになる人だなって思ってました」
「そうか」
「多分その頃からハルの事はそういう意味で好きだったんだと思うんですけど、俺は鈍いから、ずっと自分の気持ちにも気づかなかったんです」
「へぇ、そうなのか?」
「はい。自分の気持ちに気づいたきっかけは、とある村で別の人に告白された時ですね」

 好きな人がいるのかって聞かれて自然と思い浮かんだのがハルだったのには、自分でも驚いたのをはっきりと覚えている。

「まさか、好きな人って言われてハルの顔が浮かぶとは思ってなかったので、すごくびっくりしました」
「失礼かもしれんが、初々しくて可愛いな」

 初々しいというより、俺が鈍感なだけだと思うんだけどな。まあ可愛いって喜んでくれてるからまあ良いか。

「再会してから、ハルも同じ気持ちだったって知った時は――正直、信じられなかったな」
「告白されたのか?」
「告白されたし、告白しましたね」

 本当は俺から言ったけど、ここだけはハルの設定を守っておこう。つじつまが合わないと、後で困るかもしれないからな。

「ハルの俺への気持ちは全く疑ってないけど、それでもまるで夢みたいだって思う瞬間があるんです」
「それは…うん、分かる」

 噛み締めるような同意に、俺はバッとカーディさんの方を見つめた。

「分かってくれます?」
「好きな人が同じ気持ちを返してくれるって、奇跡みたいなものだと思うからな」
「そう、そうなんです!」

 食い気味に答えた俺に、カーディさんは明るく笑って答えた。

「つまり、俺達は二人とも幸運だったって事だ!」
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