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330.恋人自慢と伴侶自慢
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相談の結果、俺とカーディさんが先に見張りをする事に決まった。ハルとクリスさんは二人で後半の担当だ。名残惜しそうにしながらもそれぞれのテントに入っていくハルとクリスさんを、俺とカーディさんは手を振りながら笑顔で見送った。
「アキト、隣に来るか?」
「そうですね、その方が話しやすそうですし」
誘われるままに、俺はカーディさんの隣の切り株に腰を下ろした。さっき枝を追加したばかりの焚火は、パチパチと音を立てながら燃えている。ゆらゆらと揺れる火がとても綺麗だ。
「えーと…」
これでこの場にいるのは、カーディさんと俺の二人だけだ。つまりここからは恋人自慢と伴侶自慢を思う存分できるってわけだけど、一体何から話せば良いのか分からずに俺は言葉に詰まってしまった。
だって誰かに恋人の自慢をするのなんて初めてだから、どうしても戸惑ってしまうんだよ。どうしようかなと黙り込んだまま悩んでいると、カーディさんは大人の余裕って感じの笑みを浮かべて俺に話しかけてきた。
「なぁ、ハルはアキトにとってどんな奴だ?」
話のきっかけを貰った俺は、少し考えてから口を開いた。
「えーと…優しくて、気配りが出来て、それでいつも俺の事を気にかけてくれる人です」
「そうか。他には?」
「戦闘になるとすごく強くて格好良いですね」
「確かに強そうだよな」
「はい!とっても!いつもはすっごく頼りになる人だけど…たまーにすごく子どもっぽい所もあったりするんですよね」
そういえば、そういう所も最初はあんまり見せてくれなかったんだよな。ただ格好良い人だなーと思ってた時期もあった。自然とそういう姿を見せてくれるようになったのは、俺に気を許してくれてからな気がする。
ちらりと視線を上げれば、カーディさんは楽し気にそれで?と話の続きを促してくれた。
「でもそう言う所も可愛くて、普段のかっこいい所との差がすごくて!」
「あーそれはクリスもあるな」
「え、あんなにしっかりしてるのに!?」
そんなイメージは一切無いんだけど。
「あー普段は確かにしっかりしてるんだけどなぁ。魔道具の開発に付きっきりになってる時は、かなりぼんやりしてるぞ?」
「え、そうなんですか?」
「俺がついてないと、睡眠も、掃除も、ついでに飯を食うのも忘れるんだ」
全く想像はできないけど、そういう姿はカーディさんが相手だから見せてるものなんだろうな。
「でもそういう所も可愛く思えるのは…やっぱり惚れてるからかな」
「すごく分かります」
「自分にだけ見せてくれる姿って、なんか嬉しいんだよな」
コクコクと頷いて同意を示せば、カーディさんは同じだなと楽し気に笑った。
「ちなみにカーディさんにとって、クリスさんはどういう人ですか?」
どんな惚気がくるのかなと思いながら尋ねてみれば、カーディさんは苦笑しながら口を開いた。
「あー…クリスと出会った時は、実はいけ好かない奴だと思ってたんだよな…」
「えぇぇ!?」
今の仲良しでラブラブな二人の姿しか知らないせいか、そんな過去があったなんてかけらも想像できない。
「意外か?」
「ええ、かなり意外です」
「そっか、聞きたいか?俺達の馴れ初め」
「ぜひ!」
カーディさんはクリスさんのテントの方をちらりと見てから、さらに声をひそめてゆっくりと話し始めた。
最初の出会いは冒険者と魔道具技師として、依頼を通して出会ったらしい。素材の納品のために数人の冒険者と一緒にストファー魔道具店まで行ったカーディさんは、処理が不十分だと持ち込んだ素材を買いたたかれそうになったんだそうだ。
「それでな他の冒険者はストファー魔道具店相手に揉めたくないってんで、そのまま安い値段で素材を売って帰ったんだけど、俺はどうしても納得いかなくてな」
その素材は当時のカーディさんの冒険者ランクからすると、手に入れるのにかなり苦戦した物だったらしい。そんな物を買いたたかれそうになったんだから、そりゃあ腹も立つよね。一人残ったカーディさんは、クリスさんを睨みつけて言い返したんだそうだ。
「そんなに処理の仕方にこだわりがあるなら、ちゃんと依頼票に記載しておけー!…ってなぁ」
「へーそれで、クリスさんは何て?」
「怒られるかなと思ったのにな、クリスは依頼票ってそんなことまで記載できるんですか?ときょとんとした顔で尋ねてきたんだよ」
しかもその方法を教えて欲しいと、有名店の経営者がまだ半人前の冒険者相手に頭を下げてまでお願いしてきたらしい。良い素材が手に入らなくて、クリスさんはクリスさんで困ってたんだそうだ。
「開発で忙しすぎたからって、当時はギルドへの依頼を出すのは魔道具技師じゃない奴がやってたんだと。だから素材の採取の仕方なんて全く知らなかったらしい」
「あーそういう事か」
依頼票に採取方法を書いてないから質が悪い素材ばかり集まってしまって、しかも有名店相手だからって誰もその理由を教えてくれなかったと。
「あの時は冒険者相手に頭を下げられるなんて、思ったよりはいけ好かない奴じゃないなって思ったな」
「アキト、隣に来るか?」
「そうですね、その方が話しやすそうですし」
誘われるままに、俺はカーディさんの隣の切り株に腰を下ろした。さっき枝を追加したばかりの焚火は、パチパチと音を立てながら燃えている。ゆらゆらと揺れる火がとても綺麗だ。
「えーと…」
これでこの場にいるのは、カーディさんと俺の二人だけだ。つまりここからは恋人自慢と伴侶自慢を思う存分できるってわけだけど、一体何から話せば良いのか分からずに俺は言葉に詰まってしまった。
だって誰かに恋人の自慢をするのなんて初めてだから、どうしても戸惑ってしまうんだよ。どうしようかなと黙り込んだまま悩んでいると、カーディさんは大人の余裕って感じの笑みを浮かべて俺に話しかけてきた。
「なぁ、ハルはアキトにとってどんな奴だ?」
話のきっかけを貰った俺は、少し考えてから口を開いた。
「えーと…優しくて、気配りが出来て、それでいつも俺の事を気にかけてくれる人です」
「そうか。他には?」
「戦闘になるとすごく強くて格好良いですね」
「確かに強そうだよな」
「はい!とっても!いつもはすっごく頼りになる人だけど…たまーにすごく子どもっぽい所もあったりするんですよね」
そういえば、そういう所も最初はあんまり見せてくれなかったんだよな。ただ格好良い人だなーと思ってた時期もあった。自然とそういう姿を見せてくれるようになったのは、俺に気を許してくれてからな気がする。
ちらりと視線を上げれば、カーディさんは楽し気にそれで?と話の続きを促してくれた。
「でもそう言う所も可愛くて、普段のかっこいい所との差がすごくて!」
「あーそれはクリスもあるな」
「え、あんなにしっかりしてるのに!?」
そんなイメージは一切無いんだけど。
「あー普段は確かにしっかりしてるんだけどなぁ。魔道具の開発に付きっきりになってる時は、かなりぼんやりしてるぞ?」
「え、そうなんですか?」
「俺がついてないと、睡眠も、掃除も、ついでに飯を食うのも忘れるんだ」
全く想像はできないけど、そういう姿はカーディさんが相手だから見せてるものなんだろうな。
「でもそういう所も可愛く思えるのは…やっぱり惚れてるからかな」
「すごく分かります」
「自分にだけ見せてくれる姿って、なんか嬉しいんだよな」
コクコクと頷いて同意を示せば、カーディさんは同じだなと楽し気に笑った。
「ちなみにカーディさんにとって、クリスさんはどういう人ですか?」
どんな惚気がくるのかなと思いながら尋ねてみれば、カーディさんは苦笑しながら口を開いた。
「あー…クリスと出会った時は、実はいけ好かない奴だと思ってたんだよな…」
「えぇぇ!?」
今の仲良しでラブラブな二人の姿しか知らないせいか、そんな過去があったなんてかけらも想像できない。
「意外か?」
「ええ、かなり意外です」
「そっか、聞きたいか?俺達の馴れ初め」
「ぜひ!」
カーディさんはクリスさんのテントの方をちらりと見てから、さらに声をひそめてゆっくりと話し始めた。
最初の出会いは冒険者と魔道具技師として、依頼を通して出会ったらしい。素材の納品のために数人の冒険者と一緒にストファー魔道具店まで行ったカーディさんは、処理が不十分だと持ち込んだ素材を買いたたかれそうになったんだそうだ。
「それでな他の冒険者はストファー魔道具店相手に揉めたくないってんで、そのまま安い値段で素材を売って帰ったんだけど、俺はどうしても納得いかなくてな」
その素材は当時のカーディさんの冒険者ランクからすると、手に入れるのにかなり苦戦した物だったらしい。そんな物を買いたたかれそうになったんだから、そりゃあ腹も立つよね。一人残ったカーディさんは、クリスさんを睨みつけて言い返したんだそうだ。
「そんなに処理の仕方にこだわりがあるなら、ちゃんと依頼票に記載しておけー!…ってなぁ」
「へーそれで、クリスさんは何て?」
「怒られるかなと思ったのにな、クリスは依頼票ってそんなことまで記載できるんですか?ときょとんとした顔で尋ねてきたんだよ」
しかもその方法を教えて欲しいと、有名店の経営者がまだ半人前の冒険者相手に頭を下げてまでお願いしてきたらしい。良い素材が手に入らなくて、クリスさんはクリスさんで困ってたんだそうだ。
「開発で忙しすぎたからって、当時はギルドへの依頼を出すのは魔道具技師じゃない奴がやってたんだと。だから素材の採取の仕方なんて全く知らなかったらしい」
「あーそういう事か」
依頼票に採取方法を書いてないから質が悪い素材ばかり集まってしまって、しかも有名店相手だからって誰もその理由を教えてくれなかったと。
「あの時は冒険者相手に頭を下げられるなんて、思ったよりはいけ好かない奴じゃないなって思ったな」
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