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329.野営の見張り

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 食事を終えた俺達は、焚火を囲んだままのんびりと時間を過ごしていた。

 真っ暗な森はやっぱり少しだけ怖いと思ったけれど、空を見上げれば雲の切れ目から綺麗に瞬く星がいくつも見えていた。しかも隣には生身のハルがいて、俺の目を見て微笑みかけてくれる。それだけで恐怖心なんてどこかに消えてしまったみたいだ。

 パチパチと音を立てて燃える焚火についつい見惚れていると、クリスさんが口を開いた。

「あの、見張りについてなんですが…」
「ああ、俺とアキトで交代で見張りにつくから、二人は眠ってもらって大丈夫だよ」

 申し訳なさそうな顔をしたクリスさんの言葉に、ハルはあっさりとそう答えた。俺達は護衛なんだから当然だよね。俺も横から頷いて同意を示したけれど、クリスさんはふるふると首を振った。

「違うんです。そうでは無くて…」
「ん?…違うとは?」
「あー、カーディがどうしてもアキトさんと一緒に見張りがしたいと言ってまして」
「俺!?」
「アキトと?」

 びっくりし過ぎて大きな声を出した俺を、カーディさんは楽し気に笑ってから見つめてきた。

「約束しただろ?」
「えーと…約束?」
「ほら、俺の伴侶自慢と、アキトの恋人自慢だよ」

 あ、そういう事か。まだ依頼を受けるかどうか決まってない時にそんな話をしてた。

「あ!そういう意味ですか!」
「依頼の間ならいつでも良いかと思ってたんだけど、野営は今日だけの予定だろう?」
「宿に泊まるなら別室になるからチャンスは今日だけだって、そう言うんです」

 クリスさんは横からそう言って、ハルの顔色をそっと伺った。

「さすがに自慢話を本人に聞かれるのは恥ずかしいだろ?だから今日二人で見張りすればちょうど良いかなと思ってたんだ」
「うわーそれは楽しそうですね!」

「アキトは乗り気だな」

 カーディさんはそう言うと、ハルの方へと視線を向けた。つられるように視線を向ければ、ハルは複雑そうな顔で俺達の会話を聞いていた。あれ、なんだかすごく嫌そうに見えるんだけど。

「俺も元冒険者だから、野営の見張りは慣れたものだ」

 カーディさんはそう付け加えると、ハルの目をまっすぐに見つめて尋ねた。

「誓って、俺はクリス以外にちょっかいを出したりはしない」
「カーディ…」

 カーディさんの発言に、クリスさんはとろけるような笑顔を浮かべながら頬を赤く染めた。クリスさん以外にはちょっかいを出さないって誓いが、かなりクリスさんのツボに刺さったみたいだ。

「それでも嫌か?もしハルがどうしても嫌だって言うなら諦めるが…」

 これは、俺にとっては人生初である恋人ハルの自慢話を聞いてもらえるチャンスだ。だから、もちろん興味はある。惚気話を聞いてもらえたら嬉しいだろうなと思うし、カーディさんとクリスさんの馴れ初めとかも聞いてみたいと思う。

 でも、ハルに嫌な思いをさせてまでする意味は無いよな。ハルが嫌だって言ったら、俺もすっぱり諦めよう。

 そう決めた俺は、ハルの答えを待つべくカーディさんと一緒になってハルを見つめた。

「あーすまない。顔に出てたか」

 ハルはへにゃりと笑ってから、申し訳なさそうにそう答えた。

「俺が手を出さないか心配なのかと思ったんだが、違うのか?」
「いや、カーディさんとクリスさんがお互いを想い合ってる姿を見てたら、それぐらいは分かる。だから、そこは全く心配していないよ」
「そうか、それは良かった」
「ただ、そんな可愛いやりとりをしているアキトを見れないなんてと思ったら…つい表情に出てしまっていただけだから」

 だから反対したいわけじゃないんだとハルは苦笑を浮かべた。

「ハルさん、その気持ちすっごく分かります」

 ハルと同じ複雑そうな顔で、クリスさんも全力で同意を返している。

「あ、それならさ、クリス達もやればいいんじゃないか?」

 カーディさんは良いことを思いついたと言いたげに、満面の笑みを浮かべて言い放った。

「え?何をやるんですか?」
「伴侶自慢と恋人自慢を」

 ハルとクリスさんは、顔を見合わせたまま固まってしまった。カーディさんはともかく俺の事で自慢するような事ってあるかなと首を傾げていれば、二人は同時に正気に戻って叫んだ。

「それだ!」
「それです!」

 ハルとクリスさんの二人は、なんだかたまにすっごく息が合うんだな。

「では、私はハルさんと一緒に見張りをさせて頂きますね!」
「よろしく頼む」
「アキト、許可が出たから、今日はいっぱい話そうな!」
「はいっ!楽しみですっ!」
「俺も楽しみだ」
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