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328.手料理
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クリスさんの声掛けで、ハルはすっと俺の隣に腰を下ろした。
「クリスさん、料理の用意までさせてしまってすまない」
「いえいえ、気にしないで下さい。私が作りたかっただけなので」
「何もしない依頼人達に聞かせてやりたいよ」
ぽつりと呟いたハルの言葉に、過去の苦労がちょっとだけ見えた気がする。騎士としての話なのか冒険者としての話なのかは分からないけれど、世の中には色んな人がいるもんなぁ。クリスさんも何かを思いだしたのか苦笑いだ。
「本当にやりたくてやってるので、謝る必要はありませんよ」
「じゃあ…ありがとうございます?」
お礼の言葉なら良いのかなとゆるく首を傾げながら呟けば、クリスさんは笑って受け入れてくれた。
「そうだな。クリスさん、ありがとう」
「どういたしまして」
クリスさんはそう言うなり、鉄板の上にかぶせていた蓋を取り払った。途端にぶわりと肉と野菜の焼けた香ばしい香りが辺りに広がった。これは、一気にお腹が空く香りだ。
「美味そうだなーさすがクリス!」
満面の笑みを浮かべたカーディさんの誉め言葉に、クリスさんは照れくさそうに笑って答えた。
「今日は軽く焼いただけの簡単なものだけどね」
「いや、すごい美味そうだ!」
「本当に美味しそうですね、一気にお腹が減りました!」
「ああ、良い香りだ」
三人がかりで褒められたクリスさんは、照れくささを誤魔化すように食べましょうともう一度声を上げた。
カラフルな野菜の中には俺でも知っているものもあれば、見た事のないものも混ざっていた。あの淡いピンクのきゅうりみたいなのは、どんな味なんだろう。まじまじと見つめていると、目の前に二種類のタレが入ったお皿が差し出された。
「味付けは塩と香草で簡単にしかつけていないので、好みでこちらを付けてくださいね」
「二種類もあるんですね」
「そうなんだ!これはクリスの特製でな…」
嬉しそうに説明をしてくれたカーディさんによると、透き通ったタレの方は果物の果汁をベースに作ったものらしい。こっちは酸味が効いていて、野菜も肉もさっぱりといくらでも食べられるそうだ。
真っ赤なタレの方は見た目ほど辛くはないけれど、濃厚な風味に少しスパイスが効いていて食べれば食べるほどもっと食べたくなるらしい。
「どっちも美味しいから、両方食べてみてくれ!」
幸せそうなカーディさんはとっても可愛いんだけど、隣でクリスさんは恥ずかしそうに顔を覆っている。目の前でこれだけ褒めちぎられたんだから無理も無いか。
「伴侶が可愛すぎてつらい…」
「ん?もう食べて良いか?」
「もちろん、たくさん食べてね!お二人もどうぞ」
「「いただきます」」
両方のタレにあえて同じ野菜を放り込み、順番に口をつける。カーディさんの言った通り、さっぱりと濃厚でどちらもすごく美味しい。
「んっ、美味しいっ!」
「ああ…うまいな」
「そうだろう?」
自分の事のように自慢げなカーディさんの姿に、クリスさんはあー可愛いと呟いてから俺達に向き直った。
「お口にあって、良かったです。こちらもどうぞ」
そう言ってクリスさんは、小さな丸いパンを全員に配ってくれた。
「お、これはグネの店のだな」
カーディさんはそう言うなり、ぱくりと齧りついた。
「あーやっぱりグネのパン美味いな」
あ、グネのパンってさっき二人の会話に出てきた所か。一番美味しいのは絶対にカーディさんの作ったパンだってクリスさんが主張してて、カーディさんがグネのパン屋には負けるって言ってた、あれだ。
気になってたから嬉しいなと俺もすぐに齧りついた。周りの生地は少し硬めなのに、歯が入ったら中はふわっふわの美味しいパンだ。
「このパン、美味しい!」
「グネのパン屋は美味しいんだよ、この味はなかなか出せない」
ちょっと悔しそうに言ったカーディさんの肩を、クリスさんはぐいっと抱き寄せた。
「さっきも言ったけど、私にとってはカーディの作ったパンが世界一だからね?」
「あー…うん、ありがと」
真剣な目で覗き込みながらの言葉に、カーディさんはボンッと赤くなって目を反らした。幸せそうな二人を見つめていたら、ハルが俺の肩をぐいっと抱き寄せた。
「わっ!」
「アキト、俺も料理はそれなりにできるから、今度食べてくれる?」
「え、うん、もちろん!」
むしろ良いの?と尋ねると、ハルはにっこりと笑った。
「二人のやりとりを見てたら、俺の手料理も食べて欲しいなと思って」
「あ、俺も!料理してる時のやりとり見てて手料理食べて欲しいなと思ってたっ!」
「え…アキトが俺のために料理してくれるの?」
「あーえっとめちゃくちゃ上手では無いけど…」
なんせ調理実習と、一人暮らしし始めてから母に教わった好きなメニュー、後はバイト先で教わった料理ぐらいしか経験が無いからな。
「アキトが作ってくれる事が重要なんだよ!」
「ちょっと練習してから振る舞わせてください」
「……練習のは食べさせてくれないの?」
しょんぼりと肩を落としたハルに見つめられると、どうしても弱い。結局練習の分も食べてもらう約束をしてしまったんだけど、大丈夫なんだろうか。失敗しませんようにと祈りながら、俺はタレを絡めた肉を口内に放り込んだ。
「クリスさん、料理の用意までさせてしまってすまない」
「いえいえ、気にしないで下さい。私が作りたかっただけなので」
「何もしない依頼人達に聞かせてやりたいよ」
ぽつりと呟いたハルの言葉に、過去の苦労がちょっとだけ見えた気がする。騎士としての話なのか冒険者としての話なのかは分からないけれど、世の中には色んな人がいるもんなぁ。クリスさんも何かを思いだしたのか苦笑いだ。
「本当にやりたくてやってるので、謝る必要はありませんよ」
「じゃあ…ありがとうございます?」
お礼の言葉なら良いのかなとゆるく首を傾げながら呟けば、クリスさんは笑って受け入れてくれた。
「そうだな。クリスさん、ありがとう」
「どういたしまして」
クリスさんはそう言うなり、鉄板の上にかぶせていた蓋を取り払った。途端にぶわりと肉と野菜の焼けた香ばしい香りが辺りに広がった。これは、一気にお腹が空く香りだ。
「美味そうだなーさすがクリス!」
満面の笑みを浮かべたカーディさんの誉め言葉に、クリスさんは照れくさそうに笑って答えた。
「今日は軽く焼いただけの簡単なものだけどね」
「いや、すごい美味そうだ!」
「本当に美味しそうですね、一気にお腹が減りました!」
「ああ、良い香りだ」
三人がかりで褒められたクリスさんは、照れくささを誤魔化すように食べましょうともう一度声を上げた。
カラフルな野菜の中には俺でも知っているものもあれば、見た事のないものも混ざっていた。あの淡いピンクのきゅうりみたいなのは、どんな味なんだろう。まじまじと見つめていると、目の前に二種類のタレが入ったお皿が差し出された。
「味付けは塩と香草で簡単にしかつけていないので、好みでこちらを付けてくださいね」
「二種類もあるんですね」
「そうなんだ!これはクリスの特製でな…」
嬉しそうに説明をしてくれたカーディさんによると、透き通ったタレの方は果物の果汁をベースに作ったものらしい。こっちは酸味が効いていて、野菜も肉もさっぱりといくらでも食べられるそうだ。
真っ赤なタレの方は見た目ほど辛くはないけれど、濃厚な風味に少しスパイスが効いていて食べれば食べるほどもっと食べたくなるらしい。
「どっちも美味しいから、両方食べてみてくれ!」
幸せそうなカーディさんはとっても可愛いんだけど、隣でクリスさんは恥ずかしそうに顔を覆っている。目の前でこれだけ褒めちぎられたんだから無理も無いか。
「伴侶が可愛すぎてつらい…」
「ん?もう食べて良いか?」
「もちろん、たくさん食べてね!お二人もどうぞ」
「「いただきます」」
両方のタレにあえて同じ野菜を放り込み、順番に口をつける。カーディさんの言った通り、さっぱりと濃厚でどちらもすごく美味しい。
「んっ、美味しいっ!」
「ああ…うまいな」
「そうだろう?」
自分の事のように自慢げなカーディさんの姿に、クリスさんはあー可愛いと呟いてから俺達に向き直った。
「お口にあって、良かったです。こちらもどうぞ」
そう言ってクリスさんは、小さな丸いパンを全員に配ってくれた。
「お、これはグネの店のだな」
カーディさんはそう言うなり、ぱくりと齧りついた。
「あーやっぱりグネのパン美味いな」
あ、グネのパンってさっき二人の会話に出てきた所か。一番美味しいのは絶対にカーディさんの作ったパンだってクリスさんが主張してて、カーディさんがグネのパン屋には負けるって言ってた、あれだ。
気になってたから嬉しいなと俺もすぐに齧りついた。周りの生地は少し硬めなのに、歯が入ったら中はふわっふわの美味しいパンだ。
「このパン、美味しい!」
「グネのパン屋は美味しいんだよ、この味はなかなか出せない」
ちょっと悔しそうに言ったカーディさんの肩を、クリスさんはぐいっと抱き寄せた。
「さっきも言ったけど、私にとってはカーディの作ったパンが世界一だからね?」
「あー…うん、ありがと」
真剣な目で覗き込みながらの言葉に、カーディさんはボンッと赤くなって目を反らした。幸せそうな二人を見つめていたら、ハルが俺の肩をぐいっと抱き寄せた。
「わっ!」
「アキト、俺も料理はそれなりにできるから、今度食べてくれる?」
「え、うん、もちろん!」
むしろ良いの?と尋ねると、ハルはにっこりと笑った。
「二人のやりとりを見てたら、俺の手料理も食べて欲しいなと思って」
「あ、俺も!料理してる時のやりとり見てて手料理食べて欲しいなと思ってたっ!」
「え…アキトが俺のために料理してくれるの?」
「あーえっとめちゃくちゃ上手では無いけど…」
なんせ調理実習と、一人暮らしし始めてから母に教わった好きなメニュー、後はバイト先で教わった料理ぐらいしか経験が無いからな。
「アキトが作ってくれる事が重要なんだよ!」
「ちょっと練習してから振る舞わせてください」
「……練習のは食べさせてくれないの?」
しょんぼりと肩を落としたハルに見つめられると、どうしても弱い。結局練習の分も食べてもらう約束をしてしまったんだけど、大丈夫なんだろうか。失敗しませんようにと祈りながら、俺はタレを絡めた肉を口内に放り込んだ。
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