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322.【ハル視点】レーウェ川について
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四人揃った俺達は、すぐに南大門へと向かう事になった。
商売敵からの邪魔が入るかもと聞いて、この時間帯の出発を提案したのは俺だ。早朝から動けば、すぐ後ろから追いかけてくるような不審な奴をあぶり出す事ができるからな。
辿り着いた南大門はまだ人通りはまばらだったけれど、衛兵達は既に真剣な顔で行き来を見張っていた。
俺達の方へ意識を集中している奴はいないようだな。周りの気配を探りながら、俺はいつも通り大門を通過した。
「そういえば、今回はどの道で行くんだ?」
街道に出るなり、俺はクリスさんにそう尋ねた。
「まずはナルイット領へと徒歩で抜けようかと思ってます」
「そうか、じゃあこっちの道だな。アキト、後ろは頼んだよ」
「うん、ハルも前よろしくね」
アキトの隣を歩けないのは寂しいが、こればっかりは仕方がない。今回は護衛任務だからと、隊列の組み方については昨日のうちにアキトとの相談は済んでいる。
そう思ってたんだがな。
「あ、言うのを忘れていましたね。お二人とも並んで前を歩いてもらって良いですよ」
「え?」
「この辺りはそうそう強い魔物もいませんし」
クリスさんはそう言うとにっこりと笑ってみせた。
「しかし…」
「ああ、俺も背後は警戒しておくから大丈夫だぞ」
「でも俺達護衛なのに…」
慌ててアキトもそう声を上げたけれど、二人は顔を見合わせてからふわりと笑った。
「恋人同士を離れて歩かせて、私たちは隣合わせで歩くって言うのは嫌なので」
「そうそう、そんな事になったら俺達の方が気を遣うだろ?」
「…分かった」
気配探知はきちんとかけておくと約束してから、俺はアキトの方をちらりと見た。
「じゃあアキト、いつも通り隣を歩いてくれる?」
「うん、嬉しい!」
そうか、嬉しいのか。満面の笑みを浮かべたアキトに抱き着きたくなるのを、ぐっと我慢して俺はアキトと並んで歩き出した。
今日は分厚い雲が空を覆っているが、幸いにも雨が振りそうな気配は無いな。太陽が出ていないおかげで涼しく、長距離移動にはもってこいの日だ。
「ところでさ、ハル、ナルイット領ってどんな所?」
歩き出すなり、アキトはそう尋ねてきた。ワクワクした表情も魅力的だな。
「ナルイット領と言えば、やっぱり大きな川が流れてるのが一番の特徴かな」
「川?」
「ああ、トライプールの川とは比べ物にならないほど大きな川だよ。レーウェ川って言うんだけどね」
「レーウェ川か、じゃあ船とかもあったりするの?」
前に乗った川下りの舟みたいにと続けたアキトは、レーウェ川の船着き場を見たら驚いて声も出ないだろうな。それから我に返って目をキラキラさせそうだ。そう思うと自然と笑みがこぼれた。
「多分アキトが想像してるよりも、立派な船がたくさんあると思うよ」
川での漁のための船に、人を運ぶための乗合船、物資の運搬に使われる船に、移動のための貸出船もあるよと並べれば、アキトはへぇーと感心の声を洩らした。
「川にある船着き場はちょっとした観光名所になってるんだよ」
どの船が一番派手に出来るかと競い合っている貴族の船もあるけれど、これはわざわざ言わなくて良いかな。そんな事を考えていると、不意にクリスさんが後ろから話しかけてきた。
「明日はちょうどそのレーウェ川を目指す予定ですよ」
「え、そうなんですか?」
レーウェ川を一切通らずに、イーシャル領に向かうルートは実はそう多くない。水が怖いという理由でも無い限り、わざわざ避ける人はそういないだろう。
だからレーウェ川を目指すと言われても驚きはしなかった。クリスさんが悪戯っぽい笑みを浮かべて口を開くまでは。
「貸出船も、ばっちり予約済みですからね」
「え、そうなのか?いつの間に?」
今、貸出船を予約済みだと言ったか?乗合船ならまあ分からなくも無い。それなりに有名な冒険者なら予約も可能だろう。だが、貸出船は数か月待ちが当たり前の、川に浮かんだ高級宿のようなものだ。当然貴族の利用も多いため、従者のための部屋まで備え付けられていると聞いた事がある。
「貸出船?」
不思議そうなアキトの耳元に唇を寄せて、俺はそっと囁いた。
「貸出船の予約は取りにくいので有名なんだ」
「そうなんだ?」
さすがに数か月待ちと知れば、アキトが楽しめないかもしれない。そう思った俺は情報を少しだけ省いて伝えた。
「興味あるって言ってたでしょう?」
「俺はいつも乗合しか使ってなかったから、そりゃあ興味はあるけど…予約を取るの大変だっただろ?」
「カーディのためなら何て事無いですよ」
きっぱりと断言したクリスさんは、俺達の方を見てニヤリと笑みを浮かべた。
「ああ、もちろん私たちの部屋と貴方たちの部屋で、二部屋押さえてありますよ」
今度こそ俺は大きく目を見開いて、固まってしまった。
商売敵からの邪魔が入るかもと聞いて、この時間帯の出発を提案したのは俺だ。早朝から動けば、すぐ後ろから追いかけてくるような不審な奴をあぶり出す事ができるからな。
辿り着いた南大門はまだ人通りはまばらだったけれど、衛兵達は既に真剣な顔で行き来を見張っていた。
俺達の方へ意識を集中している奴はいないようだな。周りの気配を探りながら、俺はいつも通り大門を通過した。
「そういえば、今回はどの道で行くんだ?」
街道に出るなり、俺はクリスさんにそう尋ねた。
「まずはナルイット領へと徒歩で抜けようかと思ってます」
「そうか、じゃあこっちの道だな。アキト、後ろは頼んだよ」
「うん、ハルも前よろしくね」
アキトの隣を歩けないのは寂しいが、こればっかりは仕方がない。今回は護衛任務だからと、隊列の組み方については昨日のうちにアキトとの相談は済んでいる。
そう思ってたんだがな。
「あ、言うのを忘れていましたね。お二人とも並んで前を歩いてもらって良いですよ」
「え?」
「この辺りはそうそう強い魔物もいませんし」
クリスさんはそう言うとにっこりと笑ってみせた。
「しかし…」
「ああ、俺も背後は警戒しておくから大丈夫だぞ」
「でも俺達護衛なのに…」
慌ててアキトもそう声を上げたけれど、二人は顔を見合わせてからふわりと笑った。
「恋人同士を離れて歩かせて、私たちは隣合わせで歩くって言うのは嫌なので」
「そうそう、そんな事になったら俺達の方が気を遣うだろ?」
「…分かった」
気配探知はきちんとかけておくと約束してから、俺はアキトの方をちらりと見た。
「じゃあアキト、いつも通り隣を歩いてくれる?」
「うん、嬉しい!」
そうか、嬉しいのか。満面の笑みを浮かべたアキトに抱き着きたくなるのを、ぐっと我慢して俺はアキトと並んで歩き出した。
今日は分厚い雲が空を覆っているが、幸いにも雨が振りそうな気配は無いな。太陽が出ていないおかげで涼しく、長距離移動にはもってこいの日だ。
「ところでさ、ハル、ナルイット領ってどんな所?」
歩き出すなり、アキトはそう尋ねてきた。ワクワクした表情も魅力的だな。
「ナルイット領と言えば、やっぱり大きな川が流れてるのが一番の特徴かな」
「川?」
「ああ、トライプールの川とは比べ物にならないほど大きな川だよ。レーウェ川って言うんだけどね」
「レーウェ川か、じゃあ船とかもあったりするの?」
前に乗った川下りの舟みたいにと続けたアキトは、レーウェ川の船着き場を見たら驚いて声も出ないだろうな。それから我に返って目をキラキラさせそうだ。そう思うと自然と笑みがこぼれた。
「多分アキトが想像してるよりも、立派な船がたくさんあると思うよ」
川での漁のための船に、人を運ぶための乗合船、物資の運搬に使われる船に、移動のための貸出船もあるよと並べれば、アキトはへぇーと感心の声を洩らした。
「川にある船着き場はちょっとした観光名所になってるんだよ」
どの船が一番派手に出来るかと競い合っている貴族の船もあるけれど、これはわざわざ言わなくて良いかな。そんな事を考えていると、不意にクリスさんが後ろから話しかけてきた。
「明日はちょうどそのレーウェ川を目指す予定ですよ」
「え、そうなんですか?」
レーウェ川を一切通らずに、イーシャル領に向かうルートは実はそう多くない。水が怖いという理由でも無い限り、わざわざ避ける人はそういないだろう。
だからレーウェ川を目指すと言われても驚きはしなかった。クリスさんが悪戯っぽい笑みを浮かべて口を開くまでは。
「貸出船も、ばっちり予約済みですからね」
「え、そうなのか?いつの間に?」
今、貸出船を予約済みだと言ったか?乗合船ならまあ分からなくも無い。それなりに有名な冒険者なら予約も可能だろう。だが、貸出船は数か月待ちが当たり前の、川に浮かんだ高級宿のようなものだ。当然貴族の利用も多いため、従者のための部屋まで備え付けられていると聞いた事がある。
「貸出船?」
不思議そうなアキトの耳元に唇を寄せて、俺はそっと囁いた。
「貸出船の予約は取りにくいので有名なんだ」
「そうなんだ?」
さすがに数か月待ちと知れば、アキトが楽しめないかもしれない。そう思った俺は情報を少しだけ省いて伝えた。
「興味あるって言ってたでしょう?」
「俺はいつも乗合しか使ってなかったから、そりゃあ興味はあるけど…予約を取るの大変だっただろ?」
「カーディのためなら何て事無いですよ」
きっぱりと断言したクリスさんは、俺達の方を見てニヤリと笑みを浮かべた。
「ああ、もちろん私たちの部屋と貴方たちの部屋で、二部屋押さえてありますよ」
今度こそ俺は大きく目を見開いて、固まってしまった。
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