生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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320.世界一の料理

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 先に組み立てた俺のテントと隣合うように、ハルの分のテントを設営する。

 ハルのテントは俺のよりも複雑な構造だったからちょっと不安だったけど、特に問題もなく最後まで組み立てられた。黒鷹亭の自室で組み立ての練習をしておいて、正解だったな。

 設営を終えてテントの外に出てみれば、既にカーディさんはクリスさんと並んで焚火前の丸太に腰を下ろしていた。さすが元冒険者だけあって、カーディさんも組み立てが早いんだな。

「アキトもおいで」

 俺の視線に気づいたのか、カーディさんが声をかけてくれた。クリスさんも笑顔で手招きしてくれている。ちょこちょこと焚火の方へ近づいていけば、ふわりと食欲をそそる香りが漂ってくる。

 どうやらこの香りの元は、焚火の上に乗せられた変わった形の鉄板みたいだ。

「うわー良い香りですね」

 覗き込んだ鉄板には、肉と野菜がたっぷりと乗せられてジュウジュウと音を立てていた。豪快なBBQか鉄板焼きって感じかな。見るからに美味しそうだ。

「さすがにレーブンさんの料理には負けますけどね」

 謙遜なのか本当にそう思っているのか。クリスさんのその発言を聞くなり、カーディさんは真剣な顔でクリスさんに詰め寄った。

「そんな事言うなよ」
「事実だと思うよ?」
「いやいや、レーブンさんの料理もそりゃあ美味いけどさ…俺にとってはクリスの料理が世界で一番美味いんだからな?」
「カーディ…うん、ありがとう」
「いや、俺こそ美味しそうな料理を作ってくれてありがとうな」

 感極まった様子のクリスさんに、カーディさんは照れ笑いを浮かべて返している。

「あ、私にとっての世界一はカーディの作るパンだけどね」
「いやいや、それこそグネのパン屋には負けるだろう」
「いや、世界一はカーディの作るパンだ!」

 わーわーと何とも微笑ましい理由で言い合いを始めた二人のやりとりを、俺はぼんやりと眺めていた。

 伴侶のために作る、想いのこもった料理――か。

 俺もいつかハルに手料理を食べてもらいたいな。バイト先でちょっと教わった程度の頼りない腕だけど、そんな俺の料理でもハルは喜んでくれるんだろうか。いや、きっと大げさなぐらい喜んでくれるな。

 俺の作った料理を食べて世界一美味しいって言われたら、どんな気持ちになるんだろうか。張り切って料理の腕を磨いてしまいそうだな。

「ただいま」
「ひゃっ」

 手放しで喜んでくれるハルの姿をぼんやりと想像していた俺は、真後ろからかけられた声に咄嗟に変な声を上げてしまった。いつの間にこんなに近くまで来ていたんだろう。ちょっと油断しすぎだろう、俺。

「アキト?大丈夫?」
「大丈夫!ごめん、気を抜いてた…」

 二人の護衛役なのにと反省していると、ハルは怒るでもなく俺の頭をぽんぽんと軽く撫でてくれた。

「俺が周りを警戒してたんだから、少しぐらい気を抜いても良いんだよ」
「ん…ありがとう」
「はい、どういたしまして」

 本当に頼りになる恋人だな。抱き着きたいけど、今はぐっと我慢だ。

「あ、おかえりなさい、ハル」
「ただいま、アキト」

 優しい笑みで答えてくれたハルを見て、俺は絶対にいつか料理を振る舞うぞと決意を固めた。

「おかえりなさい、ハルさん」
「おかえり」

 俺達の会話が一段落するのを待ってくれていたのか、クリスさんとカーディさんはハルに向かって声をかけた。気を使わせてすみません。

「ああ、ただいま」
「どうでしたか?」
「周りに人の気配は無いし、魔物の気配はまだ遠いな」

 ウルフ系の気配がこっちの方角、スライム系の気配があっちの方角にある。ハルはあっさりとそう告げた。クリスさんは納得顔だけど、カーディさんはびっくりした顔のままだ。

「今回は魔物避けの薬草を良い物に変えておいたから、よほどの事が無い限り近づいてはこないだろうが…」
「ありがとうございます。では夕食にしましょうか」
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