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319.野営の準備
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ティシーの森はどこにでもありそうな穏やかな森だったが、同時にどこまでも緑が濃い森だった。
トライプールの森には色とりどりの花があったけど、ここは何故かあまり花が咲いてないんだよね。ただの季節の問題なのかな。そこは俺には分からないけど、所々に生えているキノコ以外は緑、緑、また緑だった。
「すっごい緑だね」
思わずそんな感想をこぼせば、ハルは笑って同意してくれた。
「ああ、緑だな」
「今は花のない季節とかなの?」
「いいや、ほらここ見て。この植物だとこの辺りが花だよ」
その場にしゃがみ込んだハルがそっと指差したのは、緑色の植物の先端にある少し突き出した部分だった。
「花が緑って事か!」
「そう、この森の植物は何故か緑の花を咲かすんだよ」
緑の花って言うと、ちょっと前にも採取しに行ったよな。確か名前は――。
「レボネの花みたいに?」
「ああ、よく覚えてたね。コノーア草原で採取したあのレボネの花は、この森から広がった種類だって言われてるよ」
歴史的な文献などにはかつては色とりどりの花があったと書かれてるのに、ある日から急に全ての花が緑になったんだそうだ。詳しい原因は分かってないけど、精霊の手による奇跡なんじゃないかと言われているらしい。
「ある日から全ての花の色を変えるなんて、人間にできる事じゃないからね」
「それはそうだよねー」
「色は違っても素材としての成分は同じだって分かったから、今は誰も気にしてないんじゃないかな」
「たくましいね」
「採取難易度はちょっと上がるけど、その分珍しい薬草も手つかずだったりするから、今の時期じゃなかったら結構混み合う場所なんだよ」
ファルブラキノコのおかげで助かったねと、ハルは明るく笑った。
俺がハルと話しながら歩いている間、どうやら後ろでもカーディさんによる素材講座が開かれていたみたいだ。
カーディさんも元冒険者だっただけあって、これが何々という薬草であれが食べられる素材でと色々詳しいみたいだ。感心しているクリスさんの声を聞きながら、俺達は更に森の奥へと進んでいった。
森の中の休憩所には、夕方になる前に辿り着いた。夜になる前には着きたいって言われていたから、ちょうど良い時間帯だ。綺麗に整えられた休憩所には誰もおらず、どうやら今日は俺達四人での貸し切りになるみたいだ。
「野営の準備を始めましょうか」
「分かった」
「俺は周りの様子見ついでに、魔物避けの薬草を設置してくる」
ハルはすぐにそう申し出た。
「焚火と夕食の用意は私にまかせて下さい」
クリスさんはそう言うと、肩かけ鞄から焚火用の枝の束と丸いボールみたいな魔道具らしきものを取り出した。もしかしてあれがライタだろうか。俺の知ってるライターと見た目が全く違うから、うっかりライターと口走る事は無さそうだ。俺はひっそりと安堵の息を洩らした。
「じゃあアキトと俺はテントの設営かな」
「はい!」
手分けして用意にとりかかる前に、俺はハルからハルの分のテントを受け取った。複数人で使う用のテントも存在はしてるらしいんだけど、冒険者は基本的に一人用を使うのが定番なんだそうだ。だから今日はハルと俺も、別のテントで寝る事になる。
これが二人だけの旅行なら二人用を使うんだけどね。そうハルも言ってたけど、今回は護衛任務中だもんな。我儘は言えないから寂しくても我慢だ。
ちらりと視線を向けてみれば、カーディさんもクリスさんの分のテントを受け取っていた。どうやら二人も一人用のテントを使うみたいだ。
「じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃい、気をつけてね」
ハルは俺の言葉に嬉しそうに笑ってから、真剣な顔で歩き出した。真剣に気配探知をしてる時のハルって、なんであんなに格好良いんだろうな。うっかり見惚れていたら、カーディさんとクリスさんに笑われてしまった。
俺は慌てて、自分のテントの設営に取り掛かった。
トライプールの森には色とりどりの花があったけど、ここは何故かあまり花が咲いてないんだよね。ただの季節の問題なのかな。そこは俺には分からないけど、所々に生えているキノコ以外は緑、緑、また緑だった。
「すっごい緑だね」
思わずそんな感想をこぼせば、ハルは笑って同意してくれた。
「ああ、緑だな」
「今は花のない季節とかなの?」
「いいや、ほらここ見て。この植物だとこの辺りが花だよ」
その場にしゃがみ込んだハルがそっと指差したのは、緑色の植物の先端にある少し突き出した部分だった。
「花が緑って事か!」
「そう、この森の植物は何故か緑の花を咲かすんだよ」
緑の花って言うと、ちょっと前にも採取しに行ったよな。確か名前は――。
「レボネの花みたいに?」
「ああ、よく覚えてたね。コノーア草原で採取したあのレボネの花は、この森から広がった種類だって言われてるよ」
歴史的な文献などにはかつては色とりどりの花があったと書かれてるのに、ある日から急に全ての花が緑になったんだそうだ。詳しい原因は分かってないけど、精霊の手による奇跡なんじゃないかと言われているらしい。
「ある日から全ての花の色を変えるなんて、人間にできる事じゃないからね」
「それはそうだよねー」
「色は違っても素材としての成分は同じだって分かったから、今は誰も気にしてないんじゃないかな」
「たくましいね」
「採取難易度はちょっと上がるけど、その分珍しい薬草も手つかずだったりするから、今の時期じゃなかったら結構混み合う場所なんだよ」
ファルブラキノコのおかげで助かったねと、ハルは明るく笑った。
俺がハルと話しながら歩いている間、どうやら後ろでもカーディさんによる素材講座が開かれていたみたいだ。
カーディさんも元冒険者だっただけあって、これが何々という薬草であれが食べられる素材でと色々詳しいみたいだ。感心しているクリスさんの声を聞きながら、俺達は更に森の奥へと進んでいった。
森の中の休憩所には、夕方になる前に辿り着いた。夜になる前には着きたいって言われていたから、ちょうど良い時間帯だ。綺麗に整えられた休憩所には誰もおらず、どうやら今日は俺達四人での貸し切りになるみたいだ。
「野営の準備を始めましょうか」
「分かった」
「俺は周りの様子見ついでに、魔物避けの薬草を設置してくる」
ハルはすぐにそう申し出た。
「焚火と夕食の用意は私にまかせて下さい」
クリスさんはそう言うと、肩かけ鞄から焚火用の枝の束と丸いボールみたいな魔道具らしきものを取り出した。もしかしてあれがライタだろうか。俺の知ってるライターと見た目が全く違うから、うっかりライターと口走る事は無さそうだ。俺はひっそりと安堵の息を洩らした。
「じゃあアキトと俺はテントの設営かな」
「はい!」
手分けして用意にとりかかる前に、俺はハルからハルの分のテントを受け取った。複数人で使う用のテントも存在はしてるらしいんだけど、冒険者は基本的に一人用を使うのが定番なんだそうだ。だから今日はハルと俺も、別のテントで寝る事になる。
これが二人だけの旅行なら二人用を使うんだけどね。そうハルも言ってたけど、今回は護衛任務中だもんな。我儘は言えないから寂しくても我慢だ。
ちらりと視線を向けてみれば、カーディさんもクリスさんの分のテントを受け取っていた。どうやら二人も一人用のテントを使うみたいだ。
「じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃい、気をつけてね」
ハルは俺の言葉に嬉しそうに笑ってから、真剣な顔で歩き出した。真剣に気配探知をしてる時のハルって、なんであんなに格好良いんだろうな。うっかり見惚れていたら、カーディさんとクリスさんに笑われてしまった。
俺は慌てて、自分のテントの設営に取り掛かった。
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