生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
320 / 1,179

319.野営の準備

しおりを挟む
 ティシーの森はどこにでもありそうな穏やかな森だったが、同時にどこまでも緑が濃い森だった。

 トライプールの森には色とりどりの花があったけど、ここは何故かあまり花が咲いてないんだよね。ただの季節の問題なのかな。そこは俺には分からないけど、所々に生えているキノコ以外は緑、緑、また緑だった。

「すっごい緑だね」

 思わずそんな感想をこぼせば、ハルは笑って同意してくれた。

「ああ、緑だな」
「今は花のない季節とかなの?」
「いいや、ほらここ見て。この植物だとこの辺りが花だよ」

 その場にしゃがみ込んだハルがそっと指差したのは、緑色の植物の先端にある少し突き出した部分だった。

「花が緑って事か!」
「そう、この森の植物は何故か緑の花を咲かすんだよ」

 緑の花って言うと、ちょっと前にも採取しに行ったよな。確か名前は――。

「レボネの花みたいに?」
「ああ、よく覚えてたね。コノーア草原で採取したあのレボネの花は、この森から広がった種類だって言われてるよ」

 歴史的な文献などにはかつては色とりどりの花があったと書かれてるのに、ある日から急に全ての花が緑になったんだそうだ。詳しい原因は分かってないけど、精霊の手による奇跡なんじゃないかと言われているらしい。

「ある日から全ての花の色を変えるなんて、人間にできる事じゃないからね」
「それはそうだよねー」
「色は違っても素材としての成分は同じだって分かったから、今は誰も気にしてないんじゃないかな」
「たくましいね」
「採取難易度はちょっと上がるけど、その分珍しい薬草も手つかずだったりするから、今の時期じゃなかったら結構混み合う場所なんだよ」

 ファルブラキノコのおかげで助かったねと、ハルは明るく笑った。

 俺がハルと話しながら歩いている間、どうやら後ろでもカーディさんによる素材講座が開かれていたみたいだ。

 カーディさんも元冒険者だっただけあって、これが何々という薬草であれが食べられる素材でと色々詳しいみたいだ。感心しているクリスさんの声を聞きながら、俺達は更に森の奥へと進んでいった。



 森の中の休憩所には、夕方になる前に辿り着いた。夜になる前には着きたいって言われていたから、ちょうど良い時間帯だ。綺麗に整えられた休憩所には誰もおらず、どうやら今日は俺達四人での貸し切りになるみたいだ。

「野営の準備を始めましょうか」
「分かった」
「俺は周りの様子見ついでに、魔物避けの薬草を設置してくる」

 ハルはすぐにそう申し出た。

「焚火と夕食の用意は私にまかせて下さい」

 クリスさんはそう言うと、肩かけ鞄から焚火用の枝の束と丸いボールみたいな魔道具らしきものを取り出した。もしかしてあれがライタだろうか。俺の知ってるライターと見た目が全く違うから、うっかりライターと口走る事は無さそうだ。俺はひっそりと安堵の息を洩らした。

「じゃあアキトと俺はテントの設営かな」
「はい!」

 手分けして用意にとりかかる前に、俺はハルからハルの分のテントを受け取った。複数人で使う用のテントも存在はしてるらしいんだけど、冒険者は基本的に一人用を使うのが定番なんだそうだ。だから今日はハルと俺も、別のテントで寝る事になる。

 これが二人だけの旅行なら二人用を使うんだけどね。そうハルも言ってたけど、今回は護衛任務中だもんな。我儘は言えないから寂しくても我慢だ。

 ちらりと視線を向けてみれば、カーディさんもクリスさんの分のテントを受け取っていた。どうやら二人も一人用のテントを使うみたいだ。

「じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃい、気をつけてね」

 ハルは俺の言葉に嬉しそうに笑ってから、真剣な顔で歩き出した。真剣に気配探知をしてる時のハルって、なんであんなに格好良いんだろうな。うっかり見惚れていたら、カーディさんとクリスさんに笑われてしまった。

 俺は慌てて、自分のテントの設営に取り掛かった。
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...