317 / 1,179
316.のんびりと進む街道
しおりを挟む
貸出船って聞いた時は船をまるごと借りて乗るんだと思ったんだけど、部屋って事は俺が想像してたのとは違うみたいだな。
部屋を押さえるって事は、豪華なフェリーみたいな感じなのかな?ぼんやりと想像する事はできたけど、乗った事はないから俺にはそのすごさは分からない。
でもハルが目を見張ってたから、きっとすごい事なんだろうな。
「俺達の分の部屋まで…?本当に良いのか?」
「ええ、もちろんです」
あっさりと笑顔で答えたクリスさんに、ハルはすぐに言葉を続けた。
「分かった。予約は感謝するが、俺達のための部屋の料金は俺達に払わせて欲しい」
「いいえ、依頼の間の宿はこちらが持つと条件で合意しましたよね?」
「しかしこれは特別すぎるだろう」
「いえ、もしこれで支払ってもらったら、私はよりによってメロウさんの前でした契約に違反する事になりますから…」
それまで食い下がっていたハルも、ああそれはなと何故か納得したみたいだ。
「分かった、じゃあ今回は甘える」
ハルの言葉に、クリスさんはふうと肩の力を抜いた。
「諦めてくれて良かったです。恐ろしい事になるかと思って焦りました」
恐ろしい事って何だろう。メロウさん、あんなに優しい人なのにな。
「それで、予約はいつから取ってるんだ?」
「明日の昼までに辿り着けば良いようにしてあります」
「それなら時間に余裕はあるか」
「ええ、のんびりと行きましょう」
途中で休憩も挟みながら四人で話しつつ街道を歩いて行くと、あっという間にトライプール領とナルイット領との境界に辿り着いた。
境界と言っても、大きな看板が一つ立ってるだけだったけどね。こっちがトライプール領でこっちがナルイット領だよって説明が書いてあるだけのごくシンプルな看板だった。
まじまじとその看板を見ていると、ハルが笑って声をかけてきた。
「普通の領の境界と違いすぎてびっくりした?」
え、これって普通の領の境界とは違うんだ。比較対象が無いから分からなかったけど、俺がうっかり変な事を言う前にってハルは声をかけてくれたんだ。異世界人だって事を隠してるのに、この世界の事を知らなすぎるってのは怪しいもんな。
「うん、そうなんだ」
とりあえずハルの発言に乗ってそう答えてみれば、ハルは視線だけでよくできましたと褒めてくれた。今日は撫でてくれないんだって咄嗟に思ってしまった俺は、随分と甘えたになった気がするな。
「普通は街道沿いに簡易の検問ぐらいはあるけど、ここは領主同士の仲が良いからね」
「え、領主さんの仲の良さが関係あるの?」
思わずそう尋ねてしまったけど、カーディさんもそうなのかって言ってるから大丈夫かな。
「すごく関係あるんですよ…」
遠い目をしたクリスさんによると、領主同士の仲が悪いからと壁を巡らせた場所や、すごく厳しい検問をする場所もあるんだそうだ。
「商売でも出来れば近づきたくない場所なんですが、どうしても行かないと駄目な事があって…苦労しましたねぇ」
「それ、俺は知らないぞ?」
「カーディは長期の護衛依頼でトライプールにいなかったですから」
「あー…あの頃かぁ」
思い出話が始まった二人の邪魔をしないように、俺はハルにこっそりと話しかけた。
「ハル、ありがとね」
ハルならきっと、さっきの気づかいへのお礼だって気づいてくれるだろう。そう期待した感謝の言葉に、ハルは優しく微笑んでくれた。
「ああ、どうしたしまして」
「あーちょっと腹が減ってきたな」
「色々買ってはありますけど…きちんとした食事は無いですよ」
「火が起こせたら作れるんだけどな」
そんな会話が後ろから聞こえてきた俺は、慌てて振り返った。
「あの!レーブンさんから四人で食えって包みを預かってます!」
「え、そうなんですか?」
クリスさんは嬉しそうにしながらも、今度お礼に行かないとなと呟いていた。カーディさんはその隣で、満面の笑みを浮かべて叫んだ。
「おお!久しぶりのレーブンさんの飯か!!」
「美味しいですよねーレーブンさんのご飯」
「上手いよなぁ。洗練されてるのに、どことなく懐かしい雰囲気もあるんだよなぁ」
「分かります!」
思わずカーディさんと二人で、レーブンさんのご飯の美味しさで盛り上がってしまったよね。ハルとクリスさんは微笑ましそうに俺達のやりとりを見守っていた。
「確か、この先の森を右に入った辺りに休憩所がある筈だ」
「ああ、ありましたね」
「じゃあそこで昼食にしようか」
「「賛成!」」
見事にハモッた俺とカーディさんは、顔を見合わせて笑い合った。
部屋を押さえるって事は、豪華なフェリーみたいな感じなのかな?ぼんやりと想像する事はできたけど、乗った事はないから俺にはそのすごさは分からない。
でもハルが目を見張ってたから、きっとすごい事なんだろうな。
「俺達の分の部屋まで…?本当に良いのか?」
「ええ、もちろんです」
あっさりと笑顔で答えたクリスさんに、ハルはすぐに言葉を続けた。
「分かった。予約は感謝するが、俺達のための部屋の料金は俺達に払わせて欲しい」
「いいえ、依頼の間の宿はこちらが持つと条件で合意しましたよね?」
「しかしこれは特別すぎるだろう」
「いえ、もしこれで支払ってもらったら、私はよりによってメロウさんの前でした契約に違反する事になりますから…」
それまで食い下がっていたハルも、ああそれはなと何故か納得したみたいだ。
「分かった、じゃあ今回は甘える」
ハルの言葉に、クリスさんはふうと肩の力を抜いた。
「諦めてくれて良かったです。恐ろしい事になるかと思って焦りました」
恐ろしい事って何だろう。メロウさん、あんなに優しい人なのにな。
「それで、予約はいつから取ってるんだ?」
「明日の昼までに辿り着けば良いようにしてあります」
「それなら時間に余裕はあるか」
「ええ、のんびりと行きましょう」
途中で休憩も挟みながら四人で話しつつ街道を歩いて行くと、あっという間にトライプール領とナルイット領との境界に辿り着いた。
境界と言っても、大きな看板が一つ立ってるだけだったけどね。こっちがトライプール領でこっちがナルイット領だよって説明が書いてあるだけのごくシンプルな看板だった。
まじまじとその看板を見ていると、ハルが笑って声をかけてきた。
「普通の領の境界と違いすぎてびっくりした?」
え、これって普通の領の境界とは違うんだ。比較対象が無いから分からなかったけど、俺がうっかり変な事を言う前にってハルは声をかけてくれたんだ。異世界人だって事を隠してるのに、この世界の事を知らなすぎるってのは怪しいもんな。
「うん、そうなんだ」
とりあえずハルの発言に乗ってそう答えてみれば、ハルは視線だけでよくできましたと褒めてくれた。今日は撫でてくれないんだって咄嗟に思ってしまった俺は、随分と甘えたになった気がするな。
「普通は街道沿いに簡易の検問ぐらいはあるけど、ここは領主同士の仲が良いからね」
「え、領主さんの仲の良さが関係あるの?」
思わずそう尋ねてしまったけど、カーディさんもそうなのかって言ってるから大丈夫かな。
「すごく関係あるんですよ…」
遠い目をしたクリスさんによると、領主同士の仲が悪いからと壁を巡らせた場所や、すごく厳しい検問をする場所もあるんだそうだ。
「商売でも出来れば近づきたくない場所なんですが、どうしても行かないと駄目な事があって…苦労しましたねぇ」
「それ、俺は知らないぞ?」
「カーディは長期の護衛依頼でトライプールにいなかったですから」
「あー…あの頃かぁ」
思い出話が始まった二人の邪魔をしないように、俺はハルにこっそりと話しかけた。
「ハル、ありがとね」
ハルならきっと、さっきの気づかいへのお礼だって気づいてくれるだろう。そう期待した感謝の言葉に、ハルは優しく微笑んでくれた。
「ああ、どうしたしまして」
「あーちょっと腹が減ってきたな」
「色々買ってはありますけど…きちんとした食事は無いですよ」
「火が起こせたら作れるんだけどな」
そんな会話が後ろから聞こえてきた俺は、慌てて振り返った。
「あの!レーブンさんから四人で食えって包みを預かってます!」
「え、そうなんですか?」
クリスさんは嬉しそうにしながらも、今度お礼に行かないとなと呟いていた。カーディさんはその隣で、満面の笑みを浮かべて叫んだ。
「おお!久しぶりのレーブンさんの飯か!!」
「美味しいですよねーレーブンさんのご飯」
「上手いよなぁ。洗練されてるのに、どことなく懐かしい雰囲気もあるんだよなぁ」
「分かります!」
思わずカーディさんと二人で、レーブンさんのご飯の美味しさで盛り上がってしまったよね。ハルとクリスさんは微笑ましそうに俺達のやりとりを見守っていた。
「確か、この先の森を右に入った辺りに休憩所がある筈だ」
「ああ、ありましたね」
「じゃあそこで昼食にしようか」
「「賛成!」」
見事にハモッた俺とカーディさんは、顔を見合わせて笑い合った。
285
お気に入りに追加
4,204
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる